過疎地域の自治体を乗っ取り、公金を吸い取る悪徳コンサルの実態を暴いた一冊!『過疎ビジネス』(著:横山勲)

取材・文/川喜田研

「過疎ビジネス」の実態を暴いた著者の横山勲氏「過疎ビジネス」の実態を暴いた著者の横山勲氏

人口約8000人、自前の消防署を持たない福島県の国見町が「企業版ふるさと納税」の財源で高規格救急車12台を開発・製造し、ほかの自治体にリースする......。

人口減少に直面する小さな地方自治体が打ち出した不可解な「地方創生事業」の先に明らかになったのは、国の施策を利用して小さな自治体を食い物にする「コンサルタント(コンサル)」の存在と、企業に重要施策を丸投げする自治体の実態だった。

東北を拠点とする地方紙、河北新報の記者である著者が、「新聞労連ジャーナリズム大賞」を受賞した調査報道を基に書き下ろしたのが本書『過疎ビジネス』だ。

* * *

――「地方創生」に隠された闇という社会問題を扱った一冊ですが、まるでミステリー小説を読んでいるような生き生きとした筆致が印象的でした。

横山 取材過程を追体験できるような構成を意識して執筆しました。読んでくれた人に、この問題を〝自分ごと〟として受け取ってほしかったからです。この問題について最初に河北新報で記事を出したのが2023年の2月なのですが、私自身、当時はある種の〝興奮状態〟でした。

その背景にあったのは、社会正義とかジャーナリズムみたいな立派なモノではなく、「疑問を解き明かさないと気が済まない」という気持ちの積み重ねです。

人間って夢中になると自分が思っている以上の力が出ることがあるんだなと思います。

――そうやって丹念な調査報道を続ける過程で、横山さんが「過疎ビジネス」と名づけた問題の構造が少しずつ明らかになっていくわけですが......。

横山 当初は地方自治体の「税の使われ方」という問題意識が出発点でした。ですが取材を進めていき、企業版ふるさと納税という制度の欠陥や、地方創生事業の名の下にコンサルが小さな自治体を狙い撃ちして行政機能を乗っ取る構造が見えてくる過程で、何度か強い怒りが湧いてきました。

最初に強い怒りが湧いたのは、国見町に過疎ビジネスを仕掛けていた宮城県多賀城市の備蓄食品製造会社で、地方創生コンサルも手がける「ワンテーブル」が、東京の大手弁護士事務所を介して報道内容に関する抗議書面を河北新報の本社に送りつけてきたときです。

異論があるなら直接取材した私に言えばいいのに、あえて本社の偉い人宛てに、それも「スラップ訴訟」をにおわすような攻撃的な内容です。

頭にきて緻密な反論をまとめたら、会社も「気にせずに取材を続けろ」と言ってくれました。

――次に怒りが湧いたのは?

横山 2度目は、そのワンテーブルの島田社長(当時)が話す音声データが情報提供者からもたらされたときです。

そこには「(地方創生事業は)超絶いいマネーロンダリングだ」とか「地方議員は雑魚」「財政力指数が0.5以下の自治体なんてぶっちゃけバカ」といった、地方自治体を見下し、金づるとしか考えていない本音が赤裸々に語られていて、このときが〝怒りマックス〟の瞬間でしたね。

また、これは企業側だけでなく、同時に自治体側の問題でもあるはずなのに、自分たちの責任を回避しようと、証拠となる行政文書やメールの処分までしてしまう行政側の対応や、十分なチェック機能を果たせていなかった町議会。

そして、われわれが国見町の問題を報じ続けていたにもかかわらず、百条委員会が設置されるまでこの問題に触れようとしなかった地元、福島の地方紙の姿勢にも憤りを感じました。

――急激な人口減少で衰退している現実と、「地方創生」という国策の間で苦悩する自治体を食い物にするビジネスの構造を考えると、日本のどこで起きても不思議ではない話ですね。

横山 まさにそのとおりで、本書では「地方創生」や「企業版ふるさと納税」のテーマが中心でしたが、それに限らず、企業による金銭的な搾取の構造は地方の自治体の多くが直面する問題だと考えています。

もちろん、現実問題として地方自治体の人材不足やキャパシティの低下は深刻で、一部の機能をコンサルなどの企業に委託するしかないという事情があるのも事実だと思います。

ただしそこで大切なのは、行政や議会、その地域に暮らす人たちが、国やコンサル企業が描いた〝キラキラした夢〟に飛びつくのではなく、自分たちが暮らす地域が何を大事にするべきなのか、自治体のあるべき姿とはなんなのかを、しっかりと議論すること。

自治のプロセスをおろそかにして外部に丸投げすれば、簡単に過疎ビジネスの餌食になってしまいかねません。

本書で紹介した北海道のむかわ町では、町内で発見された新種恐竜「カムイサウルス」の化石を目玉にした町営の「新博物館」計画がワンテーブルの関与の下で進められていたのですが、その後、国見町の問題が明らかになり、見直しを迫られました。

取材した町民会議の代表を務めた方が、「過疎が進み寂れていくのは仕方がないが、『寂れ方』ってある。愛されて手入れされる建物は長持ちする。新しい博物館も、自分たちの住む地域も、そうあってほしい」と語ったのが印象的でした。

心の底から地域のことを考えていると、そのような現実を見据えた言葉が出てくるのだと思います。

――俗に「オールドメディア」と呼ばれることも多い新聞が持つ力、粘り強く緻密な調査報道の意義を改めて実感させられた一冊でもありました。

横山 巨大な「マス」を相手にする全国紙と違い、河北新報のような地方紙の記者は、これまで自分が取材した人たちも含め、わざわざウチの新聞を購読してくれる読者の顔を思い浮かべることができる。私は、読者に恥ずかしくない仕事をしなきゃいけないと思って働いています。

もちろん、日々の仕事の中には毒にも薬にもならない記事もありますし、これまでの自分のキャリアを振り返っても「記者をやっていて良かった」と感じた経験は数えるほどしかありません。

それでも、今回のように「自分はなんのために記者をしているのか?」という問いの答えになりそうな場面が訪れることがある。

そういうときに夢中になって働けば、新聞の報道が、自分の書いた記事が人々の心を動かすこともある......。

正直、新聞業界は先行きが厳しいですが、困ったときに頼りにされ、必要としてもらえる仕事を実直に続けたいと思っています。

■横山勲(よこやま・つとむ)
1988年生まれ、青森県出身。河北新報編集部記者。河北新報社入社後、報道部、盛岡総局、福島総局を経て現職。取材班として携わった連載「原発漂流」を含む特集「東日本大震災10年」は2021年度新聞協会賞受賞。自ら中心となって取材執筆した「『企業版ふるさと納税』の寄付金還流疑惑に関する一連の報道」は第29回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞。同記事を基にした書き下ろしが25年7月に『過疎ビジネス』として刊行され、新書大賞5位に選出など大きな注目を集めた

『過疎ビジネス』
集英社新書 1100円(税込)
福島県の人口約8000人の小さな町で始まろうとしていた、高規格救急車12台の他自治体へのリース事業。その原資となったのは「企業版ふるさと納税」で寄付された4億3200万円だったが、事業を受託したコンサル会社は、救急車の開発・製造を納税元の企業の子会社に委託していた。課税逃れとも言えるその状況を疑問に思った記者が取材を進めていくと、企業と自治体の癒着による悪質な利益の囲い込みが明らかになっていき......

『過疎ビジネス』集英社新書 1100円(税込)『過疎ビジネス』集英社新書 1100円(税込)

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  • 川喜田研

    川喜田研

    かわきた・けん

    ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。

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