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「男性用風俗では、働く女性の若さが価値になりがちですが、女性用風俗ではセラピストの若さは強みになるとは限らない。同年代や年上のセラピストのほうが安心できるという人も多いんです」と語る藤谷千明氏
ライター・藤谷千明氏が、新刊『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(中央公論新社)を上梓した。
本書は、藤谷氏自身が女性用風俗を利用した体験から始まり、セラピスト(女性用風俗に従事する人)やオーナー、元スタッフなど、さまざまな立場の人への取材を通して、女性用風俗という場所を見つめていくルポエッセーだ。
女性用風俗とはどんな場所なのか。そして、そこで交わされるお金、ケア、欲望の先に、藤谷氏は何を見たのか。
* * *
――本書を書かれたきっかけは?
藤谷 話に聞いたことはあったけど、実際に行ったことはなかった女性用風俗を利用したのがそもそものきっかけでした。
利用した後に、後ろめたさとか、いろんな感情が出てきて、それでいろいろと考えたんです。
例えば、女性が風俗で働くことについては、「性的搾取だ」とか「尊厳を傷つけている」と加害行為として指摘されることがありますよね。では、自分が利用した女性用風俗の場合は?
この問いのヒントになるような本を探したんですが、女性用風俗について書かれているものの多くは「女性用風俗ってどんなところ?」といった紹介であったり、あるいは「男性優位社会で傷ついた女性が女風(女性用風俗)で解放されるのはいいことだ」「まともな男がいないから女性が風俗に行くのだ」という論調で。
当事者、専門家、ジャーナリスト、アクティビストなど、書き手の立場はさまざまですが、肯定的なものが目立っていた印象がありました。
でも、私は女性ばかりが「傷ついた存在」であることを求められていることにずっと引っかかっていました。社会で傷つけられたから仕方ないよね、という免罪符みたいな理由づけでいいんですかと。
それって女性を尊重しているように見えて、加害性を持ったひとりの人間と扱っていないんじゃないかって思ったんです。
――その後、取材を進めていくわけですが、女性用風俗では、実際にどのようなサービスが行なわれているんでしょうか?
藤谷 取材で運営の方やセラピストの方に話を伺いましたが、接客のマニュアルもかなり細かいように感じました。
あくまで一例ですが、カウンセリング前に洗面所とシャワーの準備をして、ホテル備えつけの歯ブラシを出して、歯磨き粉をつけて、コップに立てておき、タオルは使いやすい場所に準備しておく......など。
――カウンセリングとは?
藤谷 実際に施術を行なう前のヒアリングですね。口頭で説明しなくてもいいように、カウンセリングシートと呼ばれる紙に記入するケースが主流です。
呼んでほしい名前、使ってほしいアロマ、マッサージと性感の割合、触ってほしい場所、逆に触ってほしくない場所などを丁寧に書き込むんです。それらを確認した後に実際のプレイに移る。
施術は、最初に普通のマッサージがあって、それがだんだんとエッチになっていく。
プレイ内容は基本的にはオーラルセックスです。挿入はもちろんNGですが、オプションで大人のおもちゃを使うこともできます。
店舗型は少なく、ホテルなどへのデリバリーが基本なので、内容や仕組みは男性用のデリバリーヘルスに近いと思います。
――働く側にも、男性用風俗との違いはあるのでしょうか?
藤谷 とある女性オーナーに取材をしていて興味深かったのは、女性用風俗では男性セラピストの若さが必ずしも強みにならないことです。
男性用風俗では、若い女性のほうが価値が高いという見方が一般的にあると思うんですけど、女性用風俗の場合、相手が若いとお客さんによっては「自分はこんなおばさんなのに......」とコンプレックスが刺激されることもあるのかもしれません。同年代や年上のほうが安心できるという人も多いのでは。
また、書籍の中に出てきた話題で、女性用風俗では、男性セラピストが"勃っているかどうか"をお客さんが気にするという話も印象に残っています。
――どういうことですか?
藤谷 勃っていないと「自分は女として魅力がないんだ」と思う人がいたり、逆に勃っていると「プロ意識がない」と不快になる人もいる。
中には、勃っていないとお客さんに怒られるため、接客前にバイアグラを飲むセラピストもいると聞きます。
本来、性器の反応は男女問わず生理現象なはずですよね。コントロールできるものではないのに、性器の反応に相手の意思や気持ちを過剰に見いだしてしまうのは、厄介なところだと思います。
――では、利用者にはどんな女性が多いのでしょうか?
藤谷 実は、その調査ってあまり行なわれていないんです。とある老舗店では「うちはマダムが多い」と聞きましたし、とある大手が深夜番組に出たときには「利用者の〇割は20代」と話していたりもしていて、一概には言えないんです。
ただ、これまで重ねてきた質問自体が少し不思議で、同じ疑問って男性用風俗には抱かなくないですか?「男性用風俗ってどんなところですか?」とは聞かないでしょうし。
――......確かに。
藤谷 つまり、男性用風俗や男性の性欲は当然視されている一方で、女性用風俗や女性の性欲はいまだに珍しいものとして扱われていると思うんです。
女性がわざわざお金を払って性的なサービスを受けるとなると、その人がどんな人なのか興味を持たれる。「結婚しているのか、独身なのか」「ずっとモテなかったのか」「性生活がうまくいっていないのか」とか。
でも、風俗に行く男性に対して、そこまで疑問を抱くことはほとんどない。風俗の話ひとつ取っても、ジェンダーの非対称がありますよね。
ただ、この本で「男性はこうだ」「女性はこうだ」と言いたいわけではないんです。
女性用風俗の現場にせよ、男性用風俗の現場にせよ、どちらも見た結果、今の状況がいいとは思いませんでした。ただ、単純に「風俗を利用する人が悪い」と全否定して終わる話でもない。
自分は何を買ったのか。何を求めていたのか。そして、それを書こうとする自分には、どういう欲望があるのか。そこを考えたかったんです。
■藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年生まれ、山口県出身。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後職を転々とし、フリーランスのライターに。主に趣味と実益を兼ねたサブカルチャー分野で執筆を行なう。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎文庫)、『推し問答! あなたにとって「推し活」ってなんですか?』(東京ニュース通信社)、共著に『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック・エンタテイメント)などがある
■『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』
女性用風俗を利用した著者自身の体験から始まるルポエッセー。企画から刊行まで約3年をかけ、女性用風俗の男性セラピスト、店舗オーナー、元スタッフ、女性セラピストなど、さまざまな立場の人に取材を重ねた一冊。女性用風俗とはどんな場所なのか。女性客が男性セラピストを性的に消費する構造をどう考えればいいのか。利用後に残った後ろめたさを起点に、ケアと性欲、お金と消費、書くことの加害性まで掘り下げている
『人恋しくて 女性用風俗に行ったあとで考えた お金とケアと欲望のこと』中央公論新社 2200円(税込)
