【ライスカブサ】カウンターのみの狭小店で食べるサウジアラビア料理のプレートが驚きの美味しさだった:パリッコ『今週のハマりめし』第240回

取材・文・撮影/パリッコ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

かつて大泉学園にあって大好きだった立ち食い系そば屋の「松本」が閉店してしまったのは昨年のことだった。

長年通っていた店だったのでとても寂しく、しかし理由が建物の老朽化によるものだと聞けば、しかたのないことだと納得せざるをえかなかった。僕はいまだに、閉店時の貼り紙にあった店主さんからのメッセージ、「また皆さまにいつかお会いできるよう頑張ってまいります」という言葉に対する希望を、ひとかけらも捨てていない。

閉店の日の様子閉店の日の様子こちらこそありがとうございました!!!こちらこそありがとうございました!!!
ところがその跡地に、なにやら別の店がすぐに居抜きで入り、なんと営業を始めた。

改装工事が始まり、ド派手な看板がついたときにはさすがに「え!?」と思ったし、しかもその店の看板メニューが手ごねハンバーグであると知った時は、なんだかナンパな感じがして「けっ」とも思ってしまった。

けれども最近なんだか、その店のことが気になってしょうがない。なんだかんだ言いつつも、前を通るたびにどうしても目がいき、メニューを確認してしまう。するとそこには、鉄板焼肉風の「ハンター焼き」というオリジナル料理があったり、からあげやチキンカツカレーがあったり、シシケバブがあったり、さらにはビールまで飲めたりと、思いのほかメニューが豊富のようだ。

主なメニュー主なメニュー
極めつきはひときわ異彩を放っている「サウジアラビア風ライスカブサ チキンマンディ 100%ビーフコフタ ホワイトクリームソース」なるメニューの存在。地元の友達などの情報によると、どうやらここ、サウジアラビア人のオーナーが始めた、日本的ガッツリメニューが中心ながら、一部本格的な中東料理も楽しめるというレアな店らしいのだ。

考えてみれば、外国人である現店主が松本を立ち退かせたとは思えない。もしかしたら建物の解体作業が始まるまでの期間限定で店舗を安く借りているなどの裏事情があるのかもしれない。なにより、まだ人生で食べたことのない異国料理が近所で気軽に食べられる。これってラッキーなことなんじゃないだろうか? というわけでその店「Nana's King」を訪れてみることに。

「Nana's King」「Nana's King」
入店すると数席のカウンターのみという店の作りはまったく変わっておらず、ここで数えきれないくらい食べた春菊天そばの幻影が浮かんでくる。しかし僕が今日頼むのは、サウジアラビア風ライスカブサ チキンマンディ 100%ビーフコフタ ホワイトクリームソース(以下ライスカブサ)。不思議すぎる状況に脳がバグりそうになるが、いったん「瓶ビール」(605円)を飲んで落ち着こう。

赤星があったのが嬉しい赤星があったのが嬉しい
注文はもう決まっている。ライスカブサ。価格が2,080円と、かつての松本であれば春菊天そばを4回は食べられた値段ではあるものの、今日はこれを目指してやってきたのだから腹をくくる。

「カブサ」とはサウジアラビアの伝統料理で、バスマティライスなどのインディカ米とスパイス、羊肉や鶏肉などで作る、日本で言う炊き込みごはんのようなものらしい。調べてみると「チキンマンディ」もまた、イエメンが発祥とされる鶏肉を使った炊き込みごはん的料理らしくく、つまりとにかく、これから中東風の炊き込みごはんが出てくることは間違いないようだ。「コフタ」はざっくり言えば、肉だんごの類らしい。

まずはばかでかいカップでシンプルにもほどがあるコンソメスープがやってきて、それから10分ほどの調理時間を経て、ライスカブサのプレートが到着。

人生初のライスカブサ人生初のライスカブサ
大皿に米が敷き詰められ、その上に炒めたというか揚げたというか、細切りの玉ねぎがまんべんなく散り、さらにその上に、巨大なチキンと肉だんご。いや、ハンバーグと呼ぶほうがしっくりくる、白いクリームソースがかかった肉塊。なんともダイナミックかつ色どり皆無な、男メシ! って感じのひと皿だ。

いただきますいただきます
まずは、米部分のみを食べてみる。パラパラを通り越してサラサラというか、まるで粉雪のようなふんわり食感。確かにスパイスの感じはあるが、それよりもバスマティライス本来の香り高さが際立つ印象で、とてもうまい。もうひとつ特筆すべきは一部が黒こげ寸前になるまで火を通された玉ねぎで、これがものすごく甘く香ばしく、まだ肉類のメインを食べていないというのに満足度が高い。

食欲をそそる見た目のチキン食欲をそそる見た目のチキン
続いては存在感抜群のチキン。あまりエスニック料理に見識の深くない個人の感想としては、穏やかなタンドリーチキンといった印象だろうか。表面はパリパリ、肉はジューシーで、その脂を粉雪ライスに吸わせながら食べると、抜群にうまい。

コフタもいきますコフタもいきます
コフタは牛100%だけあってさすがの肉々しさ。肉とスパイスの風味にまったりとしたクリームソースが合わさり、これまたライスとの相性は間違いなしだ。

考えてみれば、通常はどちらかでいいくらい存在感のあるチキンソテーとハンバーグがひと皿に盛られたプレート。全体的にかなりのボリュームだったが、ビールをぐびぐびやりつつ、もりもりと食べられてしまった。食後はさすがに大満腹になったけど、数時間たったら胃がすっきりしていたのは、スパイスマジックのおかげだろうか。

東京でうまいサウジアラビア料理が食べられるというだけでも希少な店。その他のメニューも気になるし、近所でもあることだし、また訪れてみることにしよう。

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  • パリッコ

    パリッコ

    ぱりっこ

    1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
    著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
    公式X【@paricco】

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