【#佐藤優のシン世界地図探索162】流れに任す日本の方針にひとりだけヤバい方がいる

取材・文/小峯隆生

米中間の建設的戦略安定関係の下、日本の方針は「流れに任す」のがよさそうだが、ひとりだけ例外が......(写真:AFP=時事)米中間の建設的戦略安定関係の下、日本の方針は「流れに任す」のがよさそうだが、ひとりだけ例外が......(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――前回説明していただいた米中の「建設的戦略安定関係」ですが、日本の方針としてはその下で流れに身を任す。それしかないんでしょうか?

佐藤 はい。時の流れに身を任せれば、なるようになります。

――その......それは安心できる生活が可能なんでしょうか?

佐藤 そういうものと思って考えればいいんですよ。例えば、昭和21年ころは食料がなく、すいとんを一日一回しか食べられない状況でした。その時を原点として、それよりも悪くなることはないだろうと。

――欲望のレベルを最低限のもうひとつ下にすれば、「それに比べればいまはマシ」となると。以前話にでていた"だいじょうぶだぁ"ですね。なんとかなるんですか?

佐藤 なんとかなるというより、なるようになるですね。

――なるようになるとは?

佐藤 この日本に国家ができてからさまざまな国難がありました。しかし、なるようになってきたから、今回も多分大丈夫なんですよ。

あまり取り越し苦労をしないほうがいいですよ。価値観や人権、民主主義とかが主流の価値観でなくなって、皆自分が住んでいる所できちんとやっていこうと思っていれば問題ありません。俺のシマは俺のシマと。

――他人の場所には手を出さないと。これは、地球全体が『仁義なき戦い』の世界になったということですか?

佐藤 はい。そこで重要なのが中国との関係です。中国が博徒だったら、日本はテキヤになるという形で、稼業違いとなるようにするわけですね。

――素晴らしい!

佐藤 それで、重なることができるようにすればいいんです。だから「稼業違いのお兄さんに、とやかく言われる筋合いはお互いにない」となります。

――日本は寅さん国家となる。「姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンのトラ」と。

佐藤 そうです。寅さんはテキヤですから。昔、朝鮮通信使が日本に来ていました。日本は将軍が変わるごとに、属国の朝鮮から挨拶に来ていると思っていたんです。ところが向こうは「巡察」という朝鮮語の旗を掲げていた。朝鮮の辺境である日本を巡察しているという建付けにしていたんですね。

しかし、ここで両国はお互いに何をやっているか確認しませんでした。この知恵から学んで前に進めばいいんですよ。

――日中は博徒とテキヤの違いで、そこを詰めずにお互いに干渉しないと。

佐藤 そうです。お互いに意味を詰めなければいいんです。稼業違いならば、それは可能なはずです。

――それは素晴らしい知恵です。

佐藤 自分の言っていることに特に問題がなくて、向こうが文句を言ってこなければ、それはそれで放っておけばいいんです。

――すると今、日中で抱えている大きな問題は、中国大使館に侵入した自衛官の件ですか? "軍神"として以前、話題に出ましたが。

佐藤 軍神問題は大変なんですよ。なぜなら、中国大使館が一切協力しないから。被害届を出さないので、全然進められないんです。

――その中国の態度は、日本と詰めないという新しい対応ですか?

佐藤 軍神に関しては、「触るのも嫌だ」「見るのも嫌だ」という感じなのかもしれません。

しかし、やはり軍神に関してはちゃんとチェックしなければならない側面があります。あの軍神が陸自や久留米の幹部学校にいるときに、なにもしていなかったと思いますか?

――絶対になにかしていたと思いますね。

佐藤 部屋になにか右翼的なスローガンを飾ったり、教育勅語を毎日朗読したり、宮城(きゅうじょう/皇居)に対して遥拝(ようはい)していたりとか。絶対になにか特別なことがあると思いません?

――平日は駐屯地の学生舎での集団生活です。週末に外にアパートを借りていいので、そこが大日本帝国陸軍駐屯地となっているかもしれないです。

佐藤 「警務隊(憲兵)は何をやっているのか?」って話ですよ。それで、軍神は上智大学を出てるんですよね。

――メチャ頭がいい!!

佐藤 逆に頭がいいだけに、いろいろなことを考えているはずです。例えば、大川周明や北一輝とかをかっちりと読んでいるかもしれません。

――大川周明は五・一五事件、北一輝は二・二六事件の理論的指導者です。いまの日本国内はなんだか不穏ですね。

佐藤 なにかが起きていることは間違いありません。過渡期だからいろんなことが起こるんですよ。

だから、もしかしたらあの軍神が世界を変えるかもしれません。だって、軍神は迫力あると思いませんか? 言いたいことがあるからと、中国大使館に刃物を持って忍び込んで、中国大使に直訴し、聞き入れなければ自決するつもりだったんですよ。

――三島由紀夫を思い出しました。自衛隊に突っ込んで、最後は腹を切って介錯を頼んでいたので、生首がぶった切られた。すさまじい事件でした。

佐藤 最後まではいきませんでしたが、考えていることは似ています。

――酷似しています。

佐藤 やはり、民主主義や人権の時代は終わり、生命至上主義の時代も終わりなんでしょう。総理経験者が殺され、さらに現職の総理大臣に対しても爆弾が投擲(とうてき)された国ですからね。

――テレビを観れば『日本って平和な国ね』と外人観光客がコメントしていますが、真っ赤な嘘ですよ。

佐藤 潜在的に見ると、日本はシリアやレバノンとそんな変わらない感じじゃないですか?

――ヒズボラがいないだけの違いかなと。

佐藤 客観的に安定した発展をしている国に見えますか?

――そう言われると、ダメな国になっていると思います。

佐藤 ダメな国というより、1930年代みたいだと思いませんか?

――確かに。

佐藤 最近の若者はフニャフニャしてるけれど、23歳で大使館に侵入して刃物を持って「直訴したいことがある」と言うんですよ。背筋がぴしっとした若者がいるのは頼もしいですよね?

――頼もしいと思うと同時に、いまの日本は二・二六事件寸前の雰囲気ですね。

佐藤 最近、非常に素晴らしい本を読んだんですよ。やはり、日本には規格外の人がいますね。

――新たな軍神ですか?

佐藤 いえ、『ベラルーシ獄中留学記』(照井希衣/小学館)という本です。スパイ容疑をかけられ、ベラルーシの刑務所に入れられた鉄道オタクの体験記です。

照井氏は危ない所の鉄道を撮影していました。そして、ベラルーシでパクられていた鉄オタ仲間と連絡を取っていたんです。それで、スパイの容疑をかけられたんですね。その獄中ではいろいろと巻き上げられたとか、そんな恐ろしい体験がつづられています。なかなかいいですよ。

――いまの日本の若者たちは見どころがありますね。

佐藤 だから、20代の軍神とかベラルーシ突撃隊とか、規格外の人がけっこういて、日本の若者たちにはエネルギーがあるんですよ。この一見、老衰したような日本国にですからね。

――頼もしい限りです。

佐藤 やはり、日本はいろんなことがあって、すごく偉大な国家になっていて、スケールが大きいと思いませんか?

――確かに、規格外の偉大な国家ですね。

佐藤 杉良太郎の『おまえとおれ』という歌を知っていますか?

――愛する女性に「俺しかない」ことを連呼している歌ですよね。

佐藤 いまの日本という国では「俺しかない」、そんなナルシシズムに満ちた人がたくさん出てきています。だから、国家が一丸となってなにかやるわけではないから、悪いことはできません。

――そんなんではない人々は、なにをしたらいいですか?

佐藤 あまり難しいことは考えないで、熊対策とかを皆で一生懸命、考えなくてもいいと思いますよ。流れに任せればいいんです。

ところがひとつだけ、規格外の危惧があります。

――軍神突撃隊ですか?

佐藤 さっき言ったように、日本の中国外交です。要するに、高市さんが中国に対する関心を失えばいいのですが...。高市さんが関心を持たない外交問題は全部、うまくいっていますからね。

――高市さんはすごくトランプに似ている。

佐藤 そう。経済でも同じです。高市さんが関心を持たない問題は、基本、うまくいっています。

そうすると、高市さんが仕事をしている8時から17時の9時間だけ、高市さんの関心領域に入らなければ、うまくいきます。

――ちょっと待ってください。すると、日本が時の流れに身を任せていても、「脳内戦艦サナエ」だけは関心領域に入るとうまくいかなくなると。

佐藤 熊がいつどこに出没するか、という話です。昼間の9時間だけウチの庭に来なければいいんですよ。

――それで、大丈夫なんでしょうか?

佐藤 大丈夫、なんとかなります。この国はどんなことがあっても、最終的には何とかなるのです。

次回へ続く。次回の配信は6月5日(金)を予定しています。

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  • 佐藤優

    佐藤優

    さとう・まさる

    作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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