「夏には死者が出るかも......」。燃料の節約に苦しむトラックドライバーたちの悲鳴が聞こえる

取材・文/橋本愛喜 写真/時事通信社

トラックは国内貨物輸送の約9割(重量)を担うとされており、高速道路を毎日走っているトラックは国内貨物輸送の約9割(重量)を担うとされており、高速道路を毎日走っている

いまだ続く石油危機によって、日本経済のあらゆる神経に異常が発生している。その中で"大動脈"と言える運送業は石油(軽油)こそ動力源であり、業界は石油不足の対策に必死だ。

一部の運送会社はトラックドライバーに厳しい燃料節約を命じているようだが......。苦境の真っただ中、それでもがんばるドライバーたちに本音を聞いた!

【「インタンク」問題】

2月28日のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃により、ホルムズ海峡が事実上封鎖されてから約2ヵ月。原油の約95%を中東諸国からの輸入に依存している日本では、あらゆる経済活動に深刻な影響が出ている。

直接的な打撃を受けているブルーカラーの現場からは、連日のように「供給制限で作業が滞っている」「価格高騰以前に材料が入手できない」という悲鳴が聞こえてくる。

中でも、文字どおり石油を〝エネルギー源〟にしている運送業界は切実だ。

まず、現場から最も多く聞こえてくるのが「インタンク」への供給制限である。

インタンクとは、運送会社が自社内に敷設した給油所のことで、いわば「ミニガソリンスタンド」だ。元売り会社から直接購入した燃料を、自社の給油所までタンクローリーで運んでもらうことで、販売会社を介す必要がなくなり、1L当たり10~30円ほど安く入手できる。

ところが、石油危機以降、インタンクへの供給が制限されたり、販売してもらえなかったりするケースが続出している。現場のトラックドライバーたちは、現状をこう話す。

「今週からガソリンスタンドで軽油を給油するよう会社から言われています。これまでは余剰があったので他社にも給油させてあげていたようですが、今はお断りしている状況ですね」

また、インタンクに対する価格決定が「市場連動方式」になったという声も聞く。

「インタンクへの納入価格は月初に決まっていましたが、現在は週ごとの見積もりとなり、値段が毎週変動するようになりました。原油価格が不安定な中、月初に決定した納入価格を1ヵ月変えられないのは、売り手にとってリスクなんでしょう」

軽油をSS(サービスステーション、給油所のこと)に輸送するタンクローリーについて、石油輸送業界の関係者はこう話す。

「元売り会社からの供給制限でSSに配送する軽油の量がかなり減っているとのこと。今までは一度の配送でSSのタンクに満タンまで注入していましたが、ここ最近は6~8割程度だそうです。

すると、満タンのタンクローリーが1運行で配送するSSの軒数が増えることになる。これまでは一度の配送で回るSSは1、2軒でしたが、今は3、4軒を回らなければならない。そうなると荷降ろしする回数も増え、タンクローリーのドライバーの負担は重くなっています」

神奈川県横浜市の石油ターミナルで給油を行なうタンクローリー神奈川県横浜市の石油ターミナルで給油を行なうタンクローリー

【「アドブルー」問題】

トラックは軽油だけで動くわけではない。自動車の整備士をしている男性はこう話す。

「エンジンオイル、ギアオイル、ブレーキフルードなど、オイル類にオーダーストップがかかっています。オイルそのものの不足はもちろん、オイルを入れるためのドラム缶の塗装に使うシンナーや、その容器の確保も難しくなっており、それもオーダーがストップしている一因だそうです」

もうひとつ、トラックにとっては軽油に並んで頻繁に供給が必要になる液体がある。「アドブルー」だ。

アドブルーとは、いわゆる「尿素水」のこと。2009年の「排出ガス規制」以降、この液体により、トラックは従来のように白い排ガスをモクモクと街中にまき散らさなくなったが、一方でアドブルーがなければ、実質エンジンがかからない仕組みになった。

トラック下部にある、排ガスを浄化する「アドブルー」の補充口トラック下部にある、排ガスを浄化する「アドブルー」の補充口
 
そんな液体のもとになるのは「液化天然ガス(LNG)」だ。現在、日本のLNGの中東依存度は1~2割程度と高くはないが、イランによるカタールの生産拠点への攻撃などによって世界で争奪戦が起きていること、そして石油とは違い国内に国家備蓄がないことによる供給不安から、現在品薄や高騰が続いているとされている。 

「3月に一気に1.7倍くらいに値上げし、6月以降はさらに大きく値を上げるという話もある。最近のトラックは、軽油があってもアドブルーがないと走れなかったり、車体は元気でも電気系統が故障したら走れなかったりと、性能面・環境面で開発が進んだ一方で、走れなくなるリスク要因が増えたと、今回の騒動で改めて感じています」(大型トラック運転手)

【〝包むもの〟不足】

石油危機の影響は、ドライバーが荷主の現場で行なっている付帯作業にも及ぶ。それが「ラップ」不足だ。

輸送中に荷物がずれないように固定したり、荷物を保護したりする際、現場では業務用のラップが使用される。だが、このラップも石油由来の成分からできており、現在、品薄・高値の状態だ。

現場のドライバーからは「自社で段ボールを製造して客先に納品していますが、養生用のラップは節約しろとの指示が出てますね」といった声が聞こえてくる。

中には取引先から融通の相談を受けるケースもある。

「荷主から、パレットラップ(パレットに積んだ荷物を包むためのラップ)が購入できないから在庫があれば欲しいと連絡がありました。2年前は1本600円だったのが、現在900円もする。弊社も仕入れられるか、価格はいくらか業者に問い合わせているところです」(中小運送会社社長)

トラックなどでの輸送中にずれないよう荷物を固定するパレットラップは、石油由来の成分が含まれており、こちらも今、品薄の状態にトラックなどでの輸送中にずれないよう荷物を固定するパレットラップは、石油由来の成分が含まれており、こちらも今、品薄の状態に

実はこのラップは運送会社が自前で用意しているケースも少なくない。

「(負担の割合は)荷主と自前の半々くらい。10パレット巻けば1本以上消費する。安いのを買うと巻いている途中で切れて仕事が遅くなる上、固縛の意味がなくなるのでそこそこのものを買うのですが、今はアマゾンでも1本1000円を超える高値になっています」

【節約したいけど......】

現在、トラックドライバーたちの多くは、所属している運送事業者から「徹底的な節約」を命じられている。

「燃費への意識について会社から全職員へ通達があった」(岡山県40代男性・大型中距離トラック運転手)

「燃料代高騰のため、高速道路ではなく下道を走れと言われる」(神奈川県30代男性・大型中距離トラック運転手)

多かったのがこんな声だ。

「3月以降、会社からアイドリングストップを徹底するよう命じられています」

ここで懸念されるのが今後の気温上昇だ。鹿児島県のある運送事業者は、すぐそこに迫る「夏」を危惧する。

「ドライバーの高齢化が進む中、酷暑の車内待機でアイドリングストップを無理にさせれば、例年以上の死者が出るのでは」

一方、トラックの中にはエンジンを切れないタイプの車両「冷蔵冷凍車」がある。
 
一部の冷蔵冷凍車は、エンジンを切ると荷台の冷蔵冷凍機能まで止まってしまうため、かけっぱなしにしておく必要がある。トラックを動かすエンジンとは別に、冷却装置を動かす別のエンジンを搭載したタイプもあるが、そのエンジンを動かすのにも、結局は燃料が必要になる。冷蔵冷凍車に乗るトラックドライバーはこう話す。

「この混乱がどれだけ長引くかはわかりませんが、これから暑くなれば外気温に合わせて動力も上げなければならない。一年の中で最も燃料を食う季節だと言えます」

要冷蔵の商品を積んだトラックの荷台の様子。冷蔵冷凍庫を搭載したトラックの稼働には、かなりの燃料が必要になる要冷蔵の商品を積んだトラックの荷台の様子。冷蔵冷凍庫を搭載したトラックの稼働には、かなりの燃料が必要になる

また、「駐車マス不足」の問題もトラックの燃料の節約にとって障害となる。

トラックドライバーには、4時間の走行ごとに30分休憩を挟む必要があるなど、「車両を停止しないといけない時間」が細かく決められているが、車体が大きいため気安くどこでも止められるわけではない。

24年4月1日にトラックドライバーに適用された働き方改革で、必要とされる休憩・休息時間が増加。ドライバーたちのトラック専用駐車マスの争奪戦は、これまで以上に熾烈になっている。

そのため、目的地周辺に到着しても、駐車場所を求めて延々走り続けるドライバーも少なくない。「われわれの生活インフラを守る人たちのためのインフラ」が整備されていないのだ。

高速道路のサービスエリアは夜でもトラックの駐車で満車になっていることが多い。トラックの「停車場所がない」問題は深刻だ高速道路のサービスエリアは夜でもトラックの駐車で満車になっていることが多い。トラックの「停車場所がない」問題は深刻だ

【軽油カルテル】

石油価格は、上がるのはロケットのように速いのに、下がるときは羽毛が落下するときのように遅い。こうした現象を「ロケット&フェザー現象」という。

運送業界は、軽油価格が1円上がるだけで負担が年間150億円増えるともいわれている。こうした中、昨今運送業界ではある事件によって石油業界に対する不信感が強まっている。

公正取引委員会は25年9月、石油製品販売会社8社が運送・建設業者への軽油の価格を話し合って決める「カルテル」を結んだ疑いがあるとして、独占禁止法違反容疑で家宅捜索に入った。

3月5日、軽油カルテル事件について、東京地方検察庁はENEOSウイング東京支店(東京都港区)の家宅捜索を実行した3月5日、軽油カルテル事件について、東京地方検察庁はENEOSウイング東京支店(東京都港区)の家宅捜索を実行した

8社の売り上げは、市場の半分以上を占める。資源エネルギー庁によると、昨年4月中旬の軽油価格は166.2円で、20年5月から約1.5倍となった。

大口契約ができない中小の運送会社の怒りは大きい。

「石油販売大手はカルテルで違法に高い軽油を売り、利益を出していたのに、中東問題が起こるや即値上げに踏み切った。この理不尽に憤りを感じざるをえません」

こうした社会情勢や外圧によって運賃が増減するリスクを少しでも抑えるべく、運送業界ではこれまで妥協してきた、荷主に燃料費を加味した追加料金の支払いを求める、いわゆる「サーチャージ制」の導入に踏み出そうとする動きが活発化している。

今回の石油危機をサーチャージ制の導入・定着の好機ととらえる経営者も少なくない。愛知県の運送会社役員はこう話す。

「荷主の50社中、受け入れてくれるのは25社くらい。ただ、荷主ごとで違った金額になり事務の負担が増えるので、荷主よりも運送会社側のほうが面倒がって嫌がっている感があります。運賃に混ぜ込んで曖昧にするのが一番楽なんでしょう」

【「この混乱は序章」】

今後、運送業界が軽油を確保できたとしても、あらゆる産業でナフサやシンナー、潤滑油など多くの原材料が現場に入ってこず、製造現場が停滞し始めている現状に鑑みると、この先の道のりは決して明るいとは言えない。

この世に存在するほぼすべての産業とつながる運送業界は、社会情勢や経済不安がそのまま「物量」として反映されるからだ。

実際、4月13日にはTOTOがユニットバスなどの新規受注を停止。裾野の広い建築業界に動揺が走った。

ある自動車メーカーの部長は、現状を「この混乱は序章に過ぎない」と話す。

「今はどの産業も在庫でなんとか持ちこたえている状態ですが、実はまだ底に足すらついていないと思う。影響はこれから」

この状況が続いた先にあるのは、構造的に弱い立場に立たされている者の淘汰だろう。

「大口で契約できる力の強い大企業に物資が優先供給され、小口注文をする中小零細は後回しにされるというケースがすでに起きています。燃料が回ってこないこの現状を通じて、相手が自社をどう評価しているのか、いやが応でも見せつけられている気分です」(東京都40代男性・中小運送会社経営者)

【政府への不信感】

現場には、政府の備蓄石油放出や補助金の支給といった対策に不安や違和感を覚える人たちも少なくない。

高市首相は3月18日、自身のⅩのアカウントで「国民の皆様におかれましては、いつものペースで給油をお願い申し上げます」と投稿。同月19日から小売価格を全国平均で1L当たり170円程度に抑制すべく、暫定税率廃止後に終了していた元売り会社への補助金支給を再開した。

さらに、3月26日からは国内消費の約30日分に当たる備蓄石油を順次放出。5月上旬にも20日分を追加放出する方針だ。

4月10日、中東情勢に関して協議する関係閣僚会議で発言する高市早苗首相(手前)4月10日、中東情勢に関して協議する関係閣僚会議で発言する高市早苗首相(手前)

東日本大震災で被災した岩手県の運送事業者はこう話す。

「政府は『年を越せる石油を確保した』と言うが、年明け以降の確保はできていないとも聞こえて不安です。災害大国において、この石油危機の間に何があるとも限らない。

地震がいつ起きてもおかしくない国で大切な備蓄石油を放出しながら、『普段どおり支給してください』というのは、安全保障上、大丈夫なのだろうかと思ってしまいます」

野村総研のシミュレーションによると、補助金は最速で5月29日、最遅でも7月19日に枯渇するとされている。一部の運送事業者からはこんな声も出ている。

「結局その補助金も元をたどれば税金。消費者には需要の抑制を促し、産業やインフラを守る対策が必要なのではないでしょうか」

物流を担う運送業界は〝経済の血液〟といわれる。その現場から聞こえる悲鳴を無視することはできない。

●橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車第一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策など社会問題を中心に取材・執筆。著書は『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

  • 橋本愛喜

    橋本愛喜

    はしもと・あいき

    フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車第一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策など社会問題を中心に取材・執筆。著書は『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

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