オグマナオト
おぐま・なおと
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1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
「守田選外」「CB7人」で浮かび上がる本大会プランとは?
W杯北中米大会のメンバー26人が発表された。エース三笘が直前のケガで落選する中、「CB7人」「ボランチ4人」「FW4人」という陣容から見えてくる森保監督の真意は?
北中米W杯初戦、オランダ戦まであと3週間。本大会メンバー26人も発表され、いよいよ本番ムードも高まってきた。改めてメンバー選考の狙いと、そこから見える森保一監督の戦略を考察したい。
「率直な感想として、ボランチの守田英正(スポルティング)も藤田譲瑠(じょえる)チマ(ザンクトパウリ)も選ばれなかったことに驚きました。どちらかは選ばれるはずと思っていましたから」
こう語るのは戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、自身もクラブチーム監督を務めるレオ・ザ・フットボール(以下、レオザ)氏だ。
「遠藤航(リバプール)が左足首の故障でまだ実戦復帰できていないことを踏まえ、ボランチから5人は選ばれるとみていました。守田は1年以上代表に呼ばれていなかったものの、4月の欧州チャンピオンズリーグ準々決勝アーセナル戦の出来が素晴らしかっただけに、個人的にもぜひ選ばれてほしいと期待していたのですが......」
結果的に、ボランチは遠藤、鎌田大地(クリスタルパレス)、田中碧(リーズ)、佐野海舟(マインツ)の4人。この陣容から見えてくることは?
「佐野への信頼の厚さですね。この1年で大きく飛躍したことで、守田がいなくても佐野がいれば大丈夫、と判断したのでしょう。一方、ボランチでのボール保持よりも、守備に重きを置こうという森保監督の意思も感じます」
3月のイングランド戦を観客席から見守った遠藤(中)と南野(右)。遠藤は選出、南野は選外ながらメンターとして同行予定
森保ジャパンの取材を長く続けるスポーツライターのミムラユウスケ氏も、メンバー選考から「守備重視」の印象を受けたという。
「守田は素晴らしい選手ですが『できるならばポゼッションサッカーをしたい』という意向も強い選手。対して森保監督は『守備で隙をつくらない戦い方をしたい』と常々語っているので、その価値観の違いが落選を招いたと感じています」
1-0で勝利した3月のイングランド戦が森保監督の目指す展開だとミムラ氏は語る。
「W杯を戦い抜く上ではPK戦も覚悟で接戦をモノにしよう、というのが森保監督の根底にあるはず。主軸の堂安律(フランクフルト)が『大会で勝ちたいならまずは守備』と発言しているのも、代表内でその意思統一ができている証しと言えます」
守備重視という点では、ボランチが4人と少ないのに対し、CBができる選手を7人も選んだことが注目されている。
「7人の中で、板倉滉(アヤックス)と瀬古歩夢(ルアーブル)は今季、所属クラブでボランチとしてもプレーしています。例えば試合終盤、相手がロングボールで攻め込んでくる場合は、彼らをボランチに置いて、より守備を堅くすることもできる。
逆に攻めたいときはボランチを1枚削ってもいい。そう考えると、ボランチ4人体制でも十分対応できる計算なのだと思います」(ミムラ氏)
ただ、遠藤は2月に左足首を負傷し、手術。リハビリが続いている。仮にケガが完治しても、試合勘は大丈夫だろうか?
「リバプールでなかなか出場機会がなかった昨年9月、遠藤はメキシコ戦でフル出場し、決定機を演出する場面もありました。W杯アジア最終予選の時期も、リバプールでは出番が限られていましたが、代表では問題なかった。
こうした過去の実績と信頼があるからこそ『遠藤なら本番までに間に合わせる。だからボランチは4人でいける』と決断できたのでしょう」(ミムラ氏)
「軸は佐野・鎌田のコンビだとは思いますが、田中も当然素晴らしいですし、遠藤の状態が戻れば先発を任せてもいい。誰が出ても質の高いボランチを形成できることが、今の日本代表の武器のひとつだと言えます」(レオザ氏)
今回の代表選考での大きな話題といえば、メンバー発表5日前に三笘薫(ブライトン)が左太ももを負傷し、落選となってしまったこと。イングランド戦でも決勝ゴールを挙げるなど、個の能力で違いを生み出せる貴重な存在だっただけに、ショックは大きい。
「三笘不在は本当に残念ですが、個の能力で違いを生み出せるという点では、冨安健洋(アヤックス)がいます。ずっとコンディションが不安視されてきた中、ちゃんと代表入りできたことは喜びたい。
全試合出場は難しくとも、守備で冨安の個の力が必要になる場面はきっとあります。コーチングやカバーリングにも優れる冨安がいることで、ほかの選手に与える影響も大きくなりますから」(レオザ氏)
約2年ぶりに代表へ合流する冨安。三笘不在の中、個の力で違いを生み出せる貴重な存在となる
レオザ氏は、冨安を含めた〝センターライン〟が今大会を成功に導くカギ、と語る。
「トップの上田綺世(フェイエノールト)、佐野、冨安、GKの鈴木彩艶(パルマ)がチームの背骨です。押し込まれる展開で、ボールを前にはじき返した際に上田がどれだけキープできるか。佐野がフィルター役としてピンチを未然に防げるか。冨安がいかに違いを生み出せるか。
そして、GKが不安定では接戦をモノにできません。アジア杯で戦犯扱いを受けた苦い経験も、すべてはこのW杯で成功するためだった、という物語を期待しています」
一方、三笘不在によって、誰が代表に滑り込んだのか?
「想像ですが、センターフォワードの枠が1人増えたのではないかと思います。上田を含めて、小川航基(NEC)、塩貝健人(ヴォルフスブルク)、後藤啓介(シントトロイデン)と4人でしたが、予想より多いです」(ミムラ氏)
塩貝は3月のスコットランド戦でデビューし、代表通算1試合出場。後藤も昨年11月のガーナ戦でデビューし、代表通算3試合出場。超新星の大抜擢に、森保監督の方針が見て取れるという。
「森保監督は、攻撃的ポジションでは伸びしろを重視します。鈴木唯人(フライブルク)は代表通算6試合出場ながら、クラブでは今季最も飛躍したひとり。直前の鎖骨骨折で不安要素はありましたが、選びたかったのでしょう。
一方、守備的ポジションでは経験を優先。CBではコンディションに不安のある板倉より安藤智哉(ザンクトパウリ)が選ばれるとの予想もありましたが、最終的に板倉の経験値とリーダーシップを取ったのだと思います」(ミムラ氏)
ミムラ氏は、代表歴の浅い塩貝、後藤、鈴木唯人の3人が今大会のラッキーボーイ的存在になりえる、と語る。改めてこの3選手の魅力とは?
「塩貝は4月以降、クラブではほぼ出番がなく、代表入りへのアピール材料が少なかった。ところが、チーム得点王の選手が仲間とけんかをして、日本代表メンバー発表直前のバイエルン戦でメンバー外に。
急遽、塩貝に出番が巡ってきたんです。この試合で塩貝は、各国代表クラスの選手たちから何度もボールを奪い、ドリブルで敵を引きつけてパスを出す場面もありました。昭和のジャンプ漫画のように、追い込まれた状況で力を発揮できるのは、W杯でも期待したいところです」
直前のバイエルン戦で躍動した塩貝。シャドーもトップもこなせる爆発力でワンダーボーイ候補に
レオザ氏も、塩貝の爆発力に期待を寄せる。
「シャドーもトップもどちらでもできる上に、途中出場での得点も多い。クラブではいい動き出しをしているのにパスが来ない場面もありますが、技術力の高い代表ならば、いいパスが来る場面も増える。ラッキーボーイどころか、ワンダーボーイとして注目されるかもしれません」
後藤は今大会、チーム最年少の20歳で選出された。
「今季はベルギーリーグで11得点を記録するなど、チームの躍進に貢献しました。一方、代表生き残りを懸けた3月のスコットランド戦では、アピールしようと自己中心的なプレーをしてもおかしくないのに、チームを活性化するための動きを徹底し、評価を高めました。
また、上田にかわいがられていて、よくアドバイスを受けているようです。上田のエッセンスを吸収して、ここからさらに伸びる可能性も。上田が出ない試合では先発起用もあるとみています」(ミムラ氏)
チーム最年少20歳でサプライズ選出された後藤。今季ベルギーリーグで11得点と結果を残してきた
鈴木唯人は、靱帯断裂からの回復が間に合わずに代表入りを逃した南野拓実(モナコ)に代わり、シャドーの一角として期待されている。
「英国遠征後、所属クラブで一番いい動きをしていたのが鈴木唯人です。4月のバイエルン戦では、世界で五指に入るCBヨナタン・ターを相手にドリブルで仕掛け、相手はファウルで止めるしかない、という場面もありました。
また、チームメイトから『おまえはマラソンランナーか』とツッコまれるほど走力があり、森保監督の求める守備でのハードワークもできる。何より、今季9ゴール7アシストと、欧州5大リーグでプレーした日本人で最もゴールに絡んでおり、期待できます」(ミムラ氏)
欧州5大リーグの日本人で今季最もゴールに絡んだ鈴木唯人。シャドーで出番が回ってきそうだ
上述したとおり、ケガの回復が間に合わず、代表入りを逃した南野。だが、「メンター」という役割でW杯に帯同できるように調整中、と森保監督が明かしている。
「これは森保監督のファインプレーで、私も賛成です。リバプール時代にユルゲン・クロップ監督の薫陶を受けた影響なのか、南野は言葉で鼓舞することが本当にうまい。
昨年のブラジル戦でも前半2点ビハインドで折り返したハーフタイムに『このゲームはまだ死んでいない』と活を入れ、後半の逆転劇につなげました。また、普段から堂安らほかのアタッカー陣にいいアドバイスを送っている点も、南野帯同のメリットです」
レオザ氏も、南野帯同の精神面でのメリットを挙げる。
「第2次森保体制で特に気を配ってきたのがメンタルケア。伊東純也(ゲンク)や佐野が週刊誌報道を受けた際も、森保監督が先頭に立って選手を守る姿勢を見せましたし、長谷部誠さんや中村俊輔さんらW杯経験者を次々コーチに加えたのも、技術面以上にメンタル部分をサポートしてほしい、という意図があるはず。
その意味でも、選手に近い立場の南野には、精神面を支えてほしいという狙いがあるのでしょう」
同様にメンタル面で稀有な存在といえば長友佑都(FC東京)だ。メンバー発表以降、長友選出の是非を巡る議論は尽きないが、レオザ氏はその意義をこう語る。
「まずは、守り切りたい場面の狭いスペースでの守備と、熱量を注入する戦力として期待できます。また、森保監督が目指しているのは、『最高点が出た際に100点になるけど、40~50点のときもあるチーム』よりも、『いつも80点以上をしっかり出せるチーム』。
そのためには、チーム内にくすぶる不安要素を見つけて吹き飛ばしてくれる長友がいるメリットは大きい。これまでW杯4大会を経験し、グループリーグで敗退した14年ブラジルW杯のような失敗パターンを知る点も、チームにとって大きな財産となるはずです」
W杯5大会連続メンバー入りを果たした39歳の長友。対人守備の戦力としてだけでなく、精神的支柱の役割も担う
こうした面々でW杯に挑む、われらが日本代表。本番前のテストマッチは、5月31日のアイスランド戦のみ。この試合で重視すべきことは?
「結果や内容より、まずはケガをしないこと。これに尽きます。これ以上故障者を出さず、いいコンディションで本大会を迎えてほしいです」(レオザ氏)
ミムラ氏もケガをしないことを大前提に、次のような期待も寄せる。
「連係やコンビネーションでどのようにかけ算を生み出すか。並びや交代枠など、さまざまな組み合わせを試すことができる最後の機会であり、結果を気にせずチャレンジできるのはこの一戦だけ。
試合自体は凡戦になる可能性もありますが、ファンとしては本大会での起用法を占うコアな見方をするのが面白いかもしれません」
史上初のベスト8進出へ。そして、その先の優勝も目指す森保ジャパン。いよいよ本気の戦いがここから始まる。