
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
「BeReal.」は「日常投稿型」といわれるフランス発のSNS。1日に1回ランダムに通知が届き、それから2分以内にスマホの内カメラ・外カメラ両方で周囲を撮影し投稿するのがルール。投稿は24時間で消える(写真はイメージ)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「BeReal.情報漏洩(ろうえい)問題」について。
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「若者は常識外れなのか」。西日本シティ銀行からSNSの「BeReal.(ビーリアル)」を通じて内部情報が漏洩した。
下関支店の執務室を撮影した女性行員の投稿で、動画等にはホワイトボードに書かれた顧客7人の氏名、営業機密情報が映り込み、親会社の株価は下落。情報管理の甘さが問われた。
今年に入ってからだけでも日本テレビ『ZIP!』、NTT東日本、三菱電機住環境システムズ、ミスタードーナツ、ピザーラに肉汁餃子のダンダダン。そして仙台市の小学校までがSNSを通じて内部情報を漏らした。
また、古くは2013年に都内の蕎麦(そば)屋でアルバイトスタッフが食洗機に入る写真がツイッター(現X)で拡散され、閉店。その後も10、20年代には各チェーン店などの厨房(ちゅうぼう)で悪ふざけする動画がことあるごとに流出・拡散していった。
とくに最近話題のBeReal.は、一日のランダムなタイミングで2分以内に投稿を要求される。思考を停止してとにかく自分を撮影した突発的な投稿が、他者からはまさにリアルに見えるわけだ。しかも投稿の公開は24時間限定、かつ知人限定だからハードルが下がる。
ゆえに機密情報等の漏洩リスクも高まる。しかし、知人つっても関係性はつねに流動的だ。愛憎は逆転しうる。あやうい投稿を流したら保存され、数年後に炎上するかもしれない。リベンジポルノならぬリベンジ炎上といえる。
この20年、個人の情報はSNSでどんどん公開するようになった。いっぽうで企業内の情報はセキュリティが厳しくなった。20年前は私の当時の勤務企業のオフィスに取引先がふらっとやってきて、部長とお茶でも飲んでいたものだが、いまなら通報されるだろう。
つまり個人と企業のポリシーがあっていない。だからオッサンたちは「Z世代はケシカラン」「常識がなっとらん」といった紋切り型の苦情を繰り返す。
でもねえ。今年4月からの新社会人は全国で80万人。そのうち何人が報じられているかって話。1万人くらいいるならまだしも、冷静に考えて、ほとんどの新人はちゃんとしているとみるのが客観的だろう。
むしろZ世代からすると、先輩世代のかつてのカラ出張、過剰接待、癒着、横領のほうが信じられないだろう。まして、お客からお金を巻き上げる(ほぼ)詐欺をしていたもっと上の世代のほうが悪質じゃないか。
とはいえ無対策でいいわけはない。私が某自動車メーカーに講演で呼ばれていったときは、スマホの持ち込みは当然禁止。パソコンもカメラ部分に目隠しシールをつけられた。
さらに警備員から身体(からだ)をまさぐられる始末。「あの、俺、呼ばれて来たんだけど」と思わなくはなかった。
が、社員ごとのゾーニングによるアクセス可能な情報の区分、教育の徹底と罰則の強化は必要だろう。さらには職場に持っていけるのは貸与されたスマホだけ。企業の情報を狙っているひとが多いなかで、自ら晒す失態は避けたいところだ。
BeReal.では投稿された画像等を運営側が30年間、再利用する権利があるとの利用規約になっている。今後は各サービスの規約も生成AIに読ませてリスクを判断してもらったほうがいいね。
2分で投げた石が30年にわたって波紋を残す。身体をまさぐられても、ネット民からまさぐられる未来に比べれば、平和で健全だ。