
武田葉月
たけだ・はづき
武田葉月の記事一覧
山形県山形市出身。ノンフィクションライター。清泉女子大学文学部出身。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に、取材、執筆中。著書に『ドルジ ~横綱・朝青龍の素顔~』『横綱』(講談社)、『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士たち』『インタビュー ザ・大関』(双葉社)などがある。
取材に快く応じてくれた熱海富士関
5月10日から始まっている大相撲夏場所で、新関脇として奮闘している23歳の熱海富士。
序盤こそ苦戦したものの、身長187センチ、幕内最重量の197キロの恵まれた体を生かした重みのある相撲は、魅力いっぱい。土俵を降りるとおっとりして優しい性格は、ファンの間で愛されている。ニックネームは、「あたみん」。
「最初は『あたみん』と呼ばれることが恥ずかしかったです。でも、このニックネームで、地元の熱海市が少しでも盛り上がってくれたらうれしいな......と思って(笑)」と、熱海富士。
4月の春巡業中も、熱海富士が土俵に上がると、「あたみ~ん!」の大歓声が起こる。また、稽古後には記念撮影をせがむファンの行列ができるほどの人気ぶりだ。
巡業中には多くのファンからの歓声を受けた
迫力満点の相撲を観客に見せた
熱海富士が注目されたのは、2023年秋場所のこと。幕内2場所目、前頭15枚目という地位で、11日目には大関・貴景勝(当時)に2差を付けて、優勝争いのトップに立つ。千秋楽、元大関・朝乃山との対戦に勝てば初優勝が決まる展開となったが、敗れてしまったことで、優勝の行方は貴景勝との優勝決定戦に持ち込まれた。
「あの時は、マジで悔しかった! でも、力がないから負けたわけで......」
翌九州場所でも11勝を上げて、敢闘賞を受賞。
柔和なキャラクターで食品会社のCMや多数のイベント参加の依頼が来た。ところが、相撲の成績自体は伸び悩んでいた。
そんな熱海富士を称して、兄弟子でもある照ノ富士親方(当時=現・伊勢ヶ濱親方)は、「あいつには、相撲センスがない。稽古場でアドバイスしたことを全然活かせていない。三役を目指すなら、自分自身でもっと考えて相撲を取らないと......」と、手厳しい言葉を送っていた。
優しい笑顔がファンから人気の理由だ
熱海富士が再び目覚めたのは、今年1月の初場所のこと。横綱・豊昇龍、大の里に2日連続して土を付けて、優勝争いのトップを走る活躍を見せる。千秋楽の本割を終えて12勝3敗。新大関・安青錦との優勝決定戦には敗れたものの、2度目の準優勝で場所を終えた。
初場所の好成績を受けて、3月の春場所では念願の新三役(小結)に昇進。この場所も、2日目に大の里を破る快挙を見せる。
「三役の座は遠かったです(笑)。何度もチャンスがあったのに、生かせなかった。でも、宮城野部屋から転籍してきた寿乃富士が十両に昇進したし、ケガから復活した炎鵬関もがんばっている。そして、前師匠の四股名を継いだ旭富士(三段目)もデビュー以来負けなし。義ノ富士関も三役を狙っていて、稽古場のムードが盛り上がっています。『自分もがんばらなきゃ』という気持ちにならなきゃウソですよ」
春場所で9勝を上げた熱海富士は、夏場所で関脇に昇進することが決まった。
春巡業中の支度部屋でつねに一緒にいたのは、王鵬だった。出身校も地元も違うこの2人、不思議な組み合わせに思えたのだが......。
「これまで関取衆の中で自分は一番年下の部類で、先輩たちには恐れ多くて話しかけたりできなかったんです。でも、半年前くらいから王鵬関がきさくに接してくれて......。今は支度部屋でも緊張することがなくなりました」と、うれしそうに語る熱海富士。
平戸海関(中央)、豊昇龍関(右)と同じベンチに座り談笑していた熱海富士関(左)
春巡業中は、特に北陸で食べた魚がおいしかったという。相撲協会の正式発表では197キロの熱海富士だが、本当のところはどうなのだろうか?
「おまえ、マックス200キロいってるだろう(笑)?」
隣でチャチャを入れる王鵬に対して、
「絶対ない、それは絶対ないですってば!」
必死の抵抗を見せる熱海富士。
また現在、金沢学院大相撲部で活躍している妹・陽奈さんとは、お互いに常に心配をし合う仲だ。
「いつもハッパをかけられているんですよ(笑)。高校時代(飛龍高=沼津市)は、相撲部のキャプテンを務めてもいて、しっかりしている妹です」
幕内上位で2ケタ、三役で勝ち越しという成績が続き、「次期大関」の期待がかかる熱海富士。
2横綱、1大関が休場している今場所、ぜひチャンスを掴んでほしい。