超訳! 中華人民共和国憲法。「高市改憲」「トランプ訪中」が話題の今こそ......

取材・文/前川仁之 写真/時事通信社

高市首相が憲法改正に並々ならぬ意欲を見せている。日本は未経験だが、お隣の中国は何度も改正を重ねる〝大ベテラン〟。

ならば、その実態を知る必要があるのではないか? 『孟子』と毛沢東を愛読してきたノンフィクション作家の前川仁之氏が超訳(?)を試みる!

【中国は憲法改正の大ベテラン】

中華人民共和国の最高法規は、建国間もない新民主主義路線の「共同綱領」(1949年)に始まり、共産党の指導権を明確にした「54年憲法」、文化大革命期の混乱の中の短命な「75年憲法」、序言(前文に当たるもの)で文革を前向きに評価する「78年憲法」、そして鄧小平(とう・しょうへい)政権の改革開放路線のもと書き直した「82年憲法」と、大規模な改変を重ねてきた。現行の憲法は、82年憲法にさらに5度の部分的な改正が加えられたもの。

中国の憲法に改正が多いのは、社会主義というものが共産主義というゴールに向けた過渡的な段階だからというそもそもの性質によるところが大きい。発展や変化が強く出るのは経済面においてであり、だから実情に合わせ(次なる段階へのステップが〝違憲〟にならないよう)変えてゆく。

それから強調したい理念や建前に関する改正もある。1999年の改正で第5条冒頭に書き足された〈中華人民共和国は法により国を治め、社会主義法治国家を建設する〉や、2018年の改正で序言に追加された〈習近平の新時代中国の特色ある社会主義思想〉などが分かりやすい例。

中国人には遵法精神が欠けているなどと乱暴に決めつけるのは百害あって一利なし。本当に法を軽んじるなら、わざわざ憲法をつくり、時代の実情に応じて変えたりするだろうか。まずは知ろうと努めよう。というわけで『孟子』と毛沢東を愛読してきた筆者が解説する。

【愛にまみれた「総綱」】

最初に、〈中国は世界史上最も長い歴史を持つ国のひとつである。中国の各民族人民はともに光輝あるすばらしい文化を創りあげており、栄えある革命の伝統を持つ〉に始まる長大な序言がある。情緒、歴史、思想をおさえて読みごたえがあるのだが、紙幅の都合で割愛し、条文に進む。

条文は「第1章 総綱」「第2章 公民の基本的な権利と義務」「第3章 国家機関」「第4章 国旗、国歌、国章、首都」の全143条からなる。本稿では最初の2章にしぼって紹介する。

第1章は「総綱」と銘打たれている。これは、すでに実現されていることのみならず、「これから目指しましょうね」という目標も含まれていること―綱領性を示唆する。 社会主義圏の憲法に大きな影響を与えたスターリンによると「綱領は主として将来のこと、憲法は現在のこと」を規定する。

思い出すのが高市早苗首相の憲法観、「どのような国を創り上げたいのか、その理想の姿を物語るものが憲法です」。そりゃむしろ綱領じゃねえかと突っ込みたくなるが、中国の憲法はその綱領性を条文にも持たせているのである。

綱領色が強いのは参政党の「憲法草案」も同様(食糧の「完全な自給自足を達成しなければならない」とかね)。

本章は大部分が「国家」を主語に、その役割を規定する。日本国憲法には対応する条文が見当たらない、おもしろい条文をいくつか紹介しよう。

第4条は各民族の平等。多民族国家ならではだ。第9条は、自然資源の用法と、動植物の保護について。

では、思想や精神については。以下、長い条文が多いので、部分的に引用する。

〈国家は社会主義核心価値観を提唱し、祖国への愛、人民への愛、労働への愛、科学への愛、社会主義の公徳への愛を推進し、人民内の愛国主義、集団主義、国際主義、共産主義の教育を進め、資本主義、封建主義とその他の腐敗思想に反対する〉(第24条)

愛にまみれている。参政党の憲法草案ですら、「愛国心」の一語があるのみ。他山の石となるか、隣の芝生と映るか。

【イメージと違う自由の国?】

続いてメインディッシュの第2章「公民の基本的な権利と義務」をご賞味あれ。

現行憲法より前の各憲法では、本章に相当する条文は後回しにされていたが、82年憲法から国家機関に関する条文の前に置かれるようになった。これは「より民主的になった」と受け取れる。もっとも、それから7年後に天安門事件が起きて、民主化にはほど遠い実態が明らかになるのだが。

では、憲法で規定された中国国民の権利と義務とはいかなるものか。本章の劈頭(冒頭)、第33条には、2004年の改正で〈国家は人権を尊重し保障する〉の一文が挿入された。そして......。

〈中華人民共和国の公民は言論、出版、集会、結社、行進、デモの自由を有する〉(第35条)

〈(同前...)宗教信仰の自由を有する〉(第36条)

〈中華人民共和国の公民の人身の自由は侵されない〉(第37条)

〈(同前...)人格と尊厳は侵されない〉(第38条)

個人の自由と尊厳に満ち満ちている! 中国のイメージと違う! これが憲法なら、今この瞬間にも各地で違憲状態が出来していそうな気がするのだが......?

こんな疑問を抱いたら、保障された権利に対して憲法内でどのように制約がかけられているか探すのが、おすすめの読み方だ。たとえば日本国憲法の場合、おなじみの「公共の福祉」という概念で権利にキャップを課している(第12条、第13条など)。

初の憲法記念日となった2014年12月4日、大きな声で音読しているであろう中国の小学生初の憲法記念日となった2014年12月4日、大きな声で音読しているであろう中国の小学生

では中国憲法の場合は?

〈中華人民共和国の公民は自由と権利を行使するにあたり、国家、社会、集団の利益とその他公民の合法的な自由と権利を損なってはならない〉(第51条)

以下、国家の統一と各民族の団結を維持する義務(第52条)、祖国の安全、栄誉と利益を擁護する義務(第54条)、〈祖国の防衛、侵略への抵抗は中華人民共和国のすべての一個人の神聖な責務である〉(第55条)と続くのである。

かつて中国で百花斉放(ひゃっかさいほう)・百家争鳴と呼ばれる運動があった。字面がカッコいいのは毛沢東時代の特徴で、「いろんな意見出してくれよ、党を批判してもいいからさ」と呼びかけたわけだ。ところがそれを真に受けて意見した人々は、弾圧されてしまった。

中国憲法の「権利と義務」の章の流れはそれを思い起こさせる。前半であらんかぎり自由を謳っておいて、終盤で国家優先の義務や必須条件をまくしたてるのである。

【中国憲法が占う高市改憲】

以上、中国の現行憲法について祖述したが、高市-自民ラインの改憲派にとってこれはけっこうなお手本になるのではないだろうか。たとえば高市の2004年の論文では、「日本国民は国防の義務を負う」との提案が出されており、まんま中国憲法の第55条だ。

また、高市首相が「ベスト」と太鼓判を押す自民党の改憲草案(2014年)では、現行憲法において権利の制約根拠とされる「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に改められ、束縛好きの国民の嗜好(しこう)に沿うようになっている。

ついでに言えば、改憲ウォッチャーの間で大きなお世話と悪評高い「家族は、互いに助け合わなければならない」(改憲案第24条)と同等の内容が、中国憲法ではすでに具体的に記されている(第49条)。

同じく改憲案の前文で「良き伝統」「美しい国土」「天皇を戴(いただ)く」等々、情緒面での自国アゲに余念がないのも、中国憲法の序言に通じる。

ここから判断するに、現政権下で改憲を実現すると、わが国はより中国に近い国家にされてしまうだろう。

「時は来た」などと平成の破壊王・橋本真也の名台詞を侵す令和の日本破壊大臣に対し、「それがお前のやり方か? それでいいの?」と長州力風に疑義を呈して筆をおく。

  • 前川仁之

    前川仁之

    まえかわ・さねゆき

    1982年生まれ、埼玉県立浦和高校卒業、東京大学理科一類中退。人形劇団、施設警備などを経て、立教大学異文化コミュニケーション学部に入学。在学中の2009年、スペインに留学。翌年夏、スペイン横断自転車旅行。大学卒業後、福島県郡山市で働いていたときに書いた作品が第12回開高健ノンフィクション賞の最終候補に。近著は『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』(インターナショナル新書)

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