サウジアラビアのエアショーに出品されたGCAPの実物大模型。BAEはやる気だが、英国に金はない(写真:柿谷哲也)
未来の日本の空の安全を守るための要となるGCAP(グローバル戦闘航空プログラム)。F2戦闘機の後継機となる第6世代戦闘機を日英伊三国共同で開発するプロジェクトだが、その計画に暗雲が漂っている。
6月12日、ヒーリー英国防省が軍事支出を巡る政府内の対立で辞任。英国のGCAPの負担額は全体の40%となる400億ボンド(8兆6000億円)だが、財政難で払うことが困難なため、計画が頓挫するかもしれないのだ。
週プレNEWSの連載コラム「佐藤優のシン世界地図探索」にて作家の佐藤優氏は、「ヨーロッパが狙っているのは銭です。日英伊三国共同開発の次期戦闘機開発プログラム『GCAP』は、なんだかんだで頓挫していますし」と指摘している。
しかし、6月14日に訪英した高市早苗首相とスターマー英首相は日英共同宣言を発表。そこには「2035年までに優れた戦闘機を適正なコストで遅滞なく開発する」とあるが、佐藤氏は同じく連載でこう言っていた。
「もう戻れないところまで来ていますね」
もし、2035年のGCAP配備が遅れる場合、一体状況はどうなるのか?
日本の防空を考えると、敵国戦闘機である可能性のある未確認飛行機に対し、空自はスクランブル発進する。しかし、これができなくなるのだ。
日本の防空に大穴が開く非常事態だ。この危機が発生した場合、空自の戦闘機運用から解決できる可能性を考えてみよう。
F2A、翼下に空対艦ミサイル4発、翼端に2発の空対空ミサイル。日本の海空の守りだ (写真:航空自衛隊HP)
現在配備されている国産F2戦闘機は2035年に徐々に退役が始まり、2040年には全機、用廃(廃止)となることが決まっている。その代わりに配備されるのが、第6世代戦闘機だ。2035年に配備が開始され、なんとかF2の最終用廃となる2040年に間に合うような配備計画が立てられている。
日本の計画は、いつもタイトに作られる。数年の遅れも許されない。中国はすでに第6世代戦闘機に関して2機種の試作機が実際に空を飛んでいる。しかし、GCAPに関してはまだ、実物大の模型だけができている状況だ。
その昔、空自へのF2配備が遅れそうになった際、F1の用廃期限が迫っていた。その時は、遅れたF2の配備に対して、306飛行隊からF4ファントム計18機が繋ぎとしてF1のいた第8飛行隊から移籍、緊急事態を避けられた。
ならば、遅れるGCAPの繋ぎとして、老兵となったF15を使えないか?
空自の現在の主力F35Aが離陸。その下に老兵F15の姿が見える(写真:柿谷哲也)
200機導入されたF15は100機が近代化されて、2050年まで使用する予定だ。残りの100機、1983年から導入されたF15は、近代化されずにそのまま耐用限度8000時間まで使い、2030年に用廃になろうとしている。
この旧型F15はF2の代わりにならないのか? 空自幕僚監部に勤務経験のある元F15パイロットはこう言う。
「F15では昔、F4がやったようなF2の代替えはできません」
また、ある元F2パイロットはこう言う。
「旧型のF15にASM-3空対艦ミサイルを搭載するのに、どれくらいのお金を掛けるかですね。しかし、機体強度を考えると難しいと思います」
近代化されたF15の100機は、2050年まで使われる。これはどうか。
「F15改は余裕がないと思います」(元F2パイロット)
戦闘機に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう言う。
「第6世代戦闘機に関しては、各国とも第5世代からの移行に苦労しています。ロシア空軍は単座の第6世代機に対して、繋ぎとして第5世代機・Su57を複座にした機体を作りました。機上AIを補う形で、人間をひとり増やしてふたりでやろうとしています。韓国空軍も同じようにKF-21を複座にしています」(柿谷氏)
それを真似して、F2を改造できないだろうか?
F2はフライバイワイヤ、つまりデジタル制御で飛んでいる。そこで、複座のF2Bを無人機母機として改装、既存のF2Aを全機無人機にしてミサイルキャリアとして使うのは?
F2Bは前後に二人乗る複座。写真の106号機は通称「マルロク」と呼ばれ、流された18機から最初に蘇る翼となった機体。今も元気だ(写真:柿谷哲也)
前出のある元F2戦闘機パイロットはこう言う。
「戦闘機の新規開発は、長い年月がかかります。日本は現状3機種の戦闘機を運用していますが、1機種に不具合が発生するとその機種を飛行停止としています。その際、他の2機種で運用します。
問題はスクランブルのアラート待機でどのように全国区をカバーするかです。有事においては、ましてやです。加えて、F15は米国製、F35は共同開発となれば、不具合が発生する確率はより高くなります」(元F2パイロット)
スクランブルは24時間毎日待機。いま空自は3機種、F15、F2、F35で待機している。1機種に不都合があれば、その機種は全機飛べない。空自はそれを3機種で補っているのだ。もし、それがF15と35だけとなれば、片方が飛ばなくなった場合、一機種でやらねばならない。それもダメになれば、スクランブルで飛び上がる戦闘機が無くなる。
F2の主任設計者である故・神田國一氏の下で開発初期からF2計画に携わり、現在は航空コンサルタントを務める陶山章一氏はこう言う。
「F2Aを"無人戦闘機"、F2Bを"無人機母機"に改修することは、三菱重工の過去開発実績(QF-104:約3年で開発)から国産開発機(技術データは全て保有)のF2型機の無人機化は技術的には可能だと思います。乱暴な推測で要求仕様にもよりますが、5年もあれば開発はできるのではないでしょうか。
ただ、F2型機の新規製造に必要な生産治具をほとんど既に破棄、または使用できる状態ではないはず。もちろん下請け会社も対応は不可能。なので、一から始める必要があり、予算的にもほぼ不可能だと思っています」(陶山氏)
F2を作ったエンジニアが言うならば、この案は無理だ。
「窮余(きゅうよ)の対策で、『蘇る翼』として有名な津波に流された松島基地のF2Bの18機の内、13機は修復されて2015年4月から2018年3月にかけて復帰しました。
再生産されたとすれば、うまく運用すれば2055年まで使えるのでは? この13機を半スコードロン(中隊)として、スクランブル専用飛行隊として使えば、時間を稼げるのではないですか?」(元F2パイロット)
まさに窮余の策。F2Bがあれば、スクランブルのための3機種維持は細々と継続可能。蘇る翼となる。
「F2型機の耐用命数は、設計上で約『6000飛行時間』と設定しているので、平均的であればおおよそ30~40年間程度で機体は退役します。
しかしながら、過去の経験から"延命対策の技術検討(試験実施を含め)"及び"飛行時間を制限する"ことで用途廃止時期を遅らせることは可能です。
2000年より量産初号機の納入が開始されたF2戦闘機は、2035年頃から退役が始まるスケジュールです。仮に、退役期間を数年ほど遅らせたとしても、2011年9月に納入された最終号機を含めて、各機の累積飛行時間や将来の防衛力整備計画に左右されますが、2055年ころまで使用するのはかなり難しいと思います」(陶山氏)
F2は数年間の延命は可能。しかし、GCAP数年、さらに10年遅れてしまえば、日本の防空は完全にアウトだ。繋ぎとしての旧F15、そして改造F2も無理だ。
現在は航空コンサルタントを務める陶山氏はこう提案する。
「AI搭載の無人機・ドローンの脅威に対して、有人戦闘機がどう対応できるのか、無人戦闘機の利用を含めて考えるべきです」(陶山氏)
有人機一辺倒の考えから脱して、無人機の有効性を考えるべきだという。
空自が2010年から導入開始したF35は、AB両型で計147機が空自に入り、2070年まで使う予定だ。この35Aに無人機CCA共同戦闘機を随伴機として運用させる改修が、全て米軍での開発計画に従って、日本に導入される予定がある。そして、それは全てうまくいけば、早くとも2030年前半となる。
F35Aに随伴する無人戦闘機YFQ-42A「ダークマリーン」。空対空ミサイルの運搬と発射が可能。日本空自のスクランブル機不足を補えるか?(写真:柿谷哲也)
「この無人機連携は有人戦闘機の不足を補う手段として、米国としても受け入れ可能な代替案であり、将来的な戦力の穴埋めとして有効に機能すると思います」(陶山氏)
しかし、無人機となる母機はF35Aだ。すると、前出の元F2パイロットの言う「スクランブルの3機種必要」を全てカバーすることはできない。
「無人機でスクランブルをやればいいんですよ」(柿谷氏)
日本は、世界に誇る平和憲法を持つ国である。そのため、日本はAI搭載自律型兵器を否定して、最後まで人が判断するシステムにしている。
「トルコ製のバイラクタル クズルエルマなどは、最新鋭のジェット推進型の無人戦闘機UCAVで、有人のAWACS早期警戒管制機からのコントロールが可能。対空戦闘試験では、F16戦闘機を相手に模擬撃墜をしています」(柿谷氏)
トルコ製無人随伴機のバイラクタル クズルエルマ(写真右)。左側に随伴して飛ぶF-16戦闘機を模擬戦闘で撃墜している(写真:バイラクタル社)
それならば、AI搭載だがAWACS機にいる人間が最後まで介在できる。日本に配備可能な無人スクランブル要撃機となる。
クズルエルマは、現在の最高速度はマッハ0.9だが、将来型としては超音速を目指している。最大高度約1万400m、作戦半径は930㎞、武装は空対空ミサイル、レーザー誘導爆弾、長距離巡航ミサイルを搭載可能だ。
柿谷氏は「空自のスクランブル任務は、AWACS機早期警戒と共に十二分に運用できると思います」と話すが、技術的にはどうなのだ。
「ドローンの延長線上にある"無人機"として考え、将来の戦闘様相を踏まえれば防衛省としても"有用"と判断するのではないかと思います」(陶山氏)
これでイケると思っていた時、前出のF15パイロットがこう言う。
「2040年のF2用廃は日本の国策です。ここにある全ての可能性を比較しますと、ここはたったひとつ、F2の延命に全力を尽くすべきです。レーダーが古くなっていれば、換装すればいい。F2の機体を何とか延命させる、それしかありません」(元F15パイロット)
未知の飛行機よりも、既知の飛行機はF2だ。そのF2に日本の防空の未来を託す。頼むぞ、F2。