現場はもう限界だ! 【ルポ】酷暑下に外で働く人々

取材・文/興山英雄 写真/共同通信社

道路の舗装現場。アスファルトは100℃を超えるため、真夏の作業は危険を伴う(写真提供/永興建設)道路の舗装現場。アスファルトは100℃を超えるため、真夏の作業は危険を伴う(写真提供/永興建設)

連日、猛暑日が続いている。「熱中症に注意」「日中は外に出ないように」とはいうものの、外で働く人がいなければ社会が回っていかないのも事実だ。今、命の危険と直面しながらも、炎天下で働く人たちの実像に迫った。

* * *

【途中で手を止めるわけにはいかない】

舗装直後の道路では、10秒と同じ場所に立っていられない。

「靴の底から熱が伝わってきて、足の裏が焼けるように熱くなるんです。たまに熱い合材(アスファルト)の塊が作業着の中へ入ってきて、やけどをすることもあります」

道路舗装会社・永興建設(東京・八王子)で働く比嘉光翔(24歳)はそう話す。100℃を超えるアスファルトを重機で敷き、作業員がレーキでならし、最後にローラーで締め固めていく。

「アスファルトは冷めると固まってしまい、二度と形を変えられません。施工後およそ1時間以内にローラーで固め切らないと、全面やり直しになる。だから途中で手を止めて休憩、というわけにはいかないんです」

同社の吉田祐子社長はそう明かす。作業員は立ったままお弁当やおにぎりを口に放り込むこともある。

上からは真夏の日差し、下からは100℃を超える地面の熱。先月末、比嘉はその過酷な現場で熱中症になりかけた。水分は摂っていたが帰宅後に激しい頭痛に襲われ、食事も受け付けなくなった。

「水風呂に入り、OS-1を飲んで泥のように寝ました」

新潟県・魚沼基幹病院救命救急センターの山口征吾センター長によれば、屋外労働者では一日に10リットル近く汗をかくこともあり、「飲む以上に汗をかけば補給が追いつかない」。夕方まで我慢して働き、帰宅後に脱水症状が表れる人もいるという。

前出の比嘉は16歳から建設業界にいる。前職は石油プラントのとび職だった。高さ30~40mの高所。蒸気が噴き出す設備の近くは体感50℃に達した。熱中症対策にと着ていた空調服は、その熱風を容赦なく服の中へと吸い込んだ。

「昼前には毎日のように頭が回らなくなって、足場の解体中に一度倒れました」

その後、半年前に転職先に選んだのは、再び炎天下で働く道路舗装の仕事だった。

なぜ、また屋外の仕事に戻ってきたのか。

「室内の仕事は性に合わなくて。やっぱり、自分の体を動かしているほうが、自分には合っています」

【ヘルメットが熱をこもらせる】

「夏は1年で最も稼げる季節なんです」

『週プレNEWS』で「チャリンコ爆走配達日誌」を連載するウーバーイーツ配達員、渡辺雅史はそう話す。

猛暑日は追加報酬が付きやすく、暑さで配達員が減る一方、外出を避ける利用者からの注文は増える。また買い物代行サービスも始まり、飲料や食材の依頼も急増した。

「普段より1.2~1.3倍ぐらいは稼げますね。ただ、追加報酬の基準は配達の直前に『今日はインセンティブが出ます』と通知が来るだけで、何℃からなのか、いくら付くのかは分からないんです」

その「稼ぎ時」は、過酷な肉体労働と引き換えだ。

暑さ対策は基本、自前。今夏、約2万円を投じて空調服を購入した。運営会社からは熱中症対策として飲料無料チケットも配られるが、「月300件以上の配達」が条件。常連ライダーの渡辺でも簡単には届かない。さらに、自転車での着用が義務化されたヘルメットが頭部に熱をこもらせる。

「真夏に自転車で配達していたら昼間に真っすぐ歩けなくなってしまって。自販機に寄りかかるようにしてアクエリアスを飲みました。これは無理だな、と」

命綱である空調服も、午前中から最大出力で回し続ければ、午後3時ごろに力尽きる。

渡辺は「自転車より、バイクのほうが風を切れる分、まだ楽かもしれない」と言ったが、その〝風〟さえ、真夏には救いにならない。

「ドライヤーの一番強い温風を、顔面に吹きつけられながら走っているような感覚です」

45年のキャリアを持つ東京・世田谷郵便局の配達員、日(ひ)巻(まき)直(なお)映(や)(64歳)はそう話す。110ccのバイクにまたがり、フリマの商品など多様な荷物を1日100~150件も個人宅へ届ける。

車の排熱とビルの反射熱、狭い路地に入れば左右のエアコン室外機から熱風が襲う。

「街全体が巨大なサウナみたい」と話す灼熱の屋外へ、午前10時の出発から12時半の帰局まで出ずっぱりだ。

走っては止まり、バイクを降りてポストへ投函する。ストップ&ゴーと階段の上り下りの繰り返しで、スニーカーは「年2回買い替える」ほどすり減る。それでも、他社のように「置き配」で済ませることは原則、許されない。

さらに、焦る配達員に追い打ちをかけるのが「監視システム」だ。バイクには速度超過や急加速をカウントする装置が備わり、管理者の画面にリアルタイムで表示される。

「気持ちいいからとスピードを出して帰ればすぐバレます」

ウーバーイーツは熱中症対策として、コカ・コーラと協業の上、優良配達員にドリンクを提供する。ただし、その条件はかなり厳しいウーバーイーツは熱中症対策として、コカ・コーラと協業の上、優良配達員にドリンクを提供する。ただし、その条件はかなり厳しい

同局では昨年から空調服が導入されたものの、数が足りず年齢の高い順に配られたため、若手までは行き渡っていない。また局内にはウォーターサーバーが各所に設けられたが、なぜか「水筒への補充は禁止」という断り書きがある。

シャツの裾を出せば幾分か涼を得られるが、いまだに「シャツイン」の厳格な着用規定は崩れない。「ハーフパンツOKの佐川急便がうらやましい」と現場では苦笑いが漏れる。

今年、日本郵便は熱中症特別警戒アラート発令時に配達を中止する方針を打ち出した。日巻はその決定を歓迎しつつも、こう釘を刺す。

「配達員自身が『今日は暑いからやめよう』とは思いません。管理者が責任を持って『今日は配らなくていい』と止めてくれないと。本当に命を守るなら、そこまで踏み込まないと意味がありません」

【過酷すぎるキャディ、安全を模索するゴルフ場運営】

40℃に迫る酷暑は、現場の働き方そのものを変え始めている。

「ゴルフ場で最も過酷なのは、キャディさんです」

武蔵野美術大学の北 徹朗教授(スポーツ科学)はそう指摘する。北教授が21年夏に都内のゴルフ場で行なった調査では、ラウンド前に36.3℃だったキャディの深部体温が、終了後には39.2℃まで上昇していた。

「40℃を超えれば命の危険があるとされる領域」と北氏。小走りで移動しながら客の先回りを繰り返すキャディは、常に熱中症と隣り合わせにある。

しかし、対策は一筋縄ではいかない。栃木県内に3つのゴルフ場を運営する鹿沼グループの福島範治社長は最近、キャディたちに空調服を勧めて断られた経験を持つ。

「ファンの音がお客様との会話を遮り、接客の邪魔になってしまうと。プロ意識なのでしょうが、会社としては放置できる問題ではありません」

ホールカップを切り替える作業風景。夏はスタッフに空調服が提供される(写真提供/鹿沼グループ)ホールカップを切り替える作業風景。夏はスタッフに空調服が提供される(写真提供/鹿沼グループ)

グリーンはGPS機能のついた無人芝刈り機が走り、手入れを行なう(写真提供/鹿沼グループ)グリーンはGPS機能のついた無人芝刈り機が走り、手入れを行なう(写真提供/鹿沼グループ)

一方、北教授の調査によると、芝の手入れなどを行なうコース管理スタッフは屋外作業で1日約4万4000歩も歩き回るという。

「グリーンは夏場、手入れを怠ると本当に〝溶けて〟しまうんです」と福島社長。暑さに弱い芝を守るため、スタッフは水分量を測りながら手作業で散水する。まいた水がお湯に変わって芝を傷めないよう、作業は早朝5時から始める。

この3年間で同社が講じた暑熱対策は主に3つある。まず、空調服50着を購入し、コース管理の全スタッフへ配った。次に、暑さが厳しい7~9月の3ヵ月間は夏季手当を支給する仕組みも作った。屋外スタッフの責任者で月プラス2万円と、その額は小さくない。

さらに約4000万円を投じ、自動走行する無人芝刈り機を2台、新たに導入した。夕方にセットすれば、夜間に自動で広大な芝を刈り続けてくれる。

別のゴルフ場では、コース脇に氷水を張ったドラム缶を用意し、休憩中に作業員を体ごと浸からせる対策まで登場している。熱中症患者を受け入れる救急病院で、体温を急激に下げるために使われる「アイスバス」の応用だ。

ハイテクから力業まで、現場はあの手この手で真夏の営業を維持している。

【異常気象が直撃するキャベツ農家】

「苗は、待ってくれません」

愛知県阿久比町のキャベツ農家で、YouTubeチャンネル「イチロウのゼロイチ農業」を運営する中川一郎は、8月中旬から始まる苗の植え付け作業の過酷さをそう話す。

キャベツ栽培はハウス内で苗を育て、夏の盆明けから育った苗を畑へと植え替える。

ハウス内は45℃近くまで上がる。128本の苗が入った育苗トレーを50~100枚トラックへ積み込み、畑へ運ぶ。植え付け後は30分以内に水をかけなければ、苗は白く干からびて枯れてしまう。

「30分作業したら、15分休む。それぐらいしないと、この気温では本当に倒れてしまう」

植え付けは時間との勝負だ。植え頃のタイミングを逃せば収穫も遅れる。移植機が故障した一昨年は真夏の炎天下で2週間、一本ずつ手作業で植えた。

だが、そこまで苦労しても収穫できるかどうかは、天候に左右される。一昨年の夏は連日の猛暑に加え、秋になっても雨がほとんど降らず、畑は砂漠のような状態になった。

キャベツ栽培において、夏は苗を畑に植えつける時期だ。近年は連日の猛暑で不作が続く(写真提供/中川一郎)キャベツ栽培において、夏は苗を畑に植えつける時期だ。近年は連日の猛暑で不作が続く(写真提供/中川一郎)

「野菜は根が一番大事なんです。でも、暑すぎて根が育ちませんでした」

収穫は1ヵ月近く遅れた。球になっても中はスカスカで、出荷基準の重さに届かない。例年なら9割以上を出荷できるが、昨季は3割にも満たなかった。気候変動を前に、「本当に無力さを感じた」と中川は振り返る。周辺にはすべてのキャベツが枯れて出荷が全滅した農家もあった。

その経験が、中川の栽培方法を変えた。今年から本格的に導入したのが「スーパーセル苗」である。

通常の倍近い約50日間の育苗期間中、追肥を与えず、水だけで育てる。あえて飢えや乾燥を強いることで、葉の表面にあるワックス層を厚くし、乾燥や高温にも耐える丈夫な苗にする新しい育苗技術だ。

「師匠の農家は、一昨年の猛暑でもちゃんと収穫できていたんです。それを見て、『これしかない』と思いました」

育苗には手間も時間もかかる。それでも挑戦する理由は明確だ。

「この異常な酷暑と水不足を跳ね返せるか。今年は、その答えが出る年になります」

【着ぐるみの中は灼熱】

「着ぐるみは、かわいい。でも、中は灼熱です」

スポーツイベントや企業イベントなどで着ぐるみアクターを派遣する「ゴーゴープロダクション」(東京)の大澤晃子社長はそう話す。

頭部は熱も湿気もこもる上、酸素も薄くなり、集中力が落ちてしまう。そのため同社では、「30分出演したら30分以上休憩」を徹底する。移動時間も出演時間に含め、屋外イベントでは冷房の効く控え室を確保できるよう主催者と交渉する。

同社に所属する23歳のアクター、HINAによれば、「最も厳しいのは控え室がテントしかない屋外イベント」。こうした現場では、大澤社長が室内控え室やスポットクーラーの確保を主催者と交渉する。

同社がもうひとつ重視してきたのが、着ぐるみの衛生管理だった。真夏の着ぐるみには大量の汗が染み込む。

「マントが揺れただけで臭う着ぐるみもありました。いろんな人の汗が染み込んでしまっているんです」

そう話す大澤社長自身もかつて、汚れた着ぐるみで顔がかぶれ、皮膚科で「かなり汚れたものに触れましたね」と言われた経験がある。

「子どもは何のためらいもなく抱きついてきます。だから、安心して触れられる着ぐるみじゃないといけない」

同社では毎回洗浄・乾燥を徹底するだけでなく、暑さそのものを和らげる改良も重ねてきた。着ぐるみの内部の通気性を高めた「スースーヘッド」、送風機構を備えた「スースーベスト」。演者の負担を減らそうと、着ぐるみ自体を進化させてきた。

【働き方は変化。追いつかぬ法整備】

「夏は、ガラスに塗った洗剤水がすぐ乾いてしまう」

外壁・窓ガラス清掃を手がける新光社(東京)の千田大輔(57歳)は、高層ビルの窓を磨き続けて35年になる。地上130mの現場にもロープ一本で降りていく。

真夏は仕事の段取りそのものが変わる。洗剤水は塗ったそばから蒸発するため、小刻みにぬぐって拭く。その繰り返しで、作業時間は通常の約1.5倍に延びるという。

「朝は南側、昼は西側、午後は東側。できるだけ直射日光が当たらない面から進めます」

高層階の窓を磨いていると、ガラス一枚隔てた向こうでは、冷房の効いたオフィスで人々が涼しげに仕事をしている。

「いいな、と思うことはありますよ。でも、外で汗をかく仕事は嫌いじゃない。オフィスワークより、自分にはこっちのほうが合っています」

そう笑う千田だが、真夏の高所作業は墜落死の危険と常に隣り合わせだ。

ロープを使って高層ビルの窓ガラスを清掃する様子。高所で熱中症になれば墜落死の危険もある(写真提供/新光社)ロープを使って高層ビルの窓ガラスを清掃する様子。高所で熱中症になれば墜落死の危険もある(写真提供/新光社)

「以前、社長が7~8階の高さでロープにぶら下がって作業していたとき、突然、動悸が激しくなり、過呼吸の状態になったことがありました。社長自身が『これは危ない』と判断して作業を中断し、幸い自力で地上まで降りることができましたが、一歩間違えば大変なことになっていた」

高所で熱中症になり、意識を失えば自力で降りられない。 この一件以来、同社では夏場、ロープ作業をひとりではさせないことにした。地上に監視役を配置し、動きが止まったり、ふらついたりしていないかを常に確認する。万一の事態を想定し、屋上からの救助訓練も繰り返す。

ただ、現場の防衛策には限界がある。今も足りないのは、命を守る社会の仕組みだ。

国が定めた労働安全衛生規則には、強風や大雨、大雪の際、高所作業を中止する法的な基準が示されている。しかし、暑さに関する規定はない。

「風や雨と同じように暑さでも作業を止める基準が必要です。WBGT(暑さ指数)でも気温でもいい。命に関わることですから」

災害級の酷暑に見舞われるなか、屋外の現場では働き方そのものが変わり始めている。人の〝我慢〟だけに頼る時代は、すでに限界を迎えていた。

Photo Gallery

この記事の特集

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP