【#佐藤優のシン世界地図探索173】日本では報道されない裏切りと暗殺の夏

取材・文/小峯隆生

北朝鮮ミサイル部隊はロシア軍の要請でウクライナ最前線に展開。実戦経験を積んで腕を上げている。しかし、将軍に一大事が......(写真:AFP=時事)北朝鮮ミサイル部隊はロシア軍の要請でウクライナ最前線に展開。実戦経験を積んで腕を上げている。しかし、将軍に一大事が......(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

佐藤 日本ではいま、真っ黒い話題はほとんど報道されないんですよ。

――なんの話ですか? 消費税の上げ下げ、熊本地震、酷暑、国家情報局創設と、国内の話題ばかりです。

佐藤 たとえば、モスクワのレストランでの爆弾テロですね。このレストランではロシア航空宇宙軍総司令官の誕生日を祝うイベントが催されていました。誕生日祝いをやっている情報がなぜ漏れたのかが大きな問題です。

――真っ黒い陰謀ですね。

佐藤 真っ黒な話はまだあります。

――なんですか?

佐藤 北朝鮮です。7月10日に党政軍連合会議で不正腐敗行為が明らかになったんですよ。その首謀者が、金正恩最高指導者に従わない勢力が出て来ないように監視する人民軍総政治局の前組織副局長、パク・フィチョルとその一派です。

――金将軍の軍を統制する最高憲兵隊兼特高軍警察のナンバー2の裏切り。それは真っ黒ですね。どんな腐敗なんですか?

佐藤 軍隊内で売官売職、賄賂収受、政治詐欺行為を助長しただけでなく、自分の手の内の人間を要職に就けて、党の唯一的軍指導体系を阻害したと、報道されています。

――金将軍に対する裏切りと軍内部の私物化。まさに特大腐敗。パク氏は対空機関銃10丁の集中連射と迫撃砲の猛射で処刑、ですね。

ただその北朝鮮ですが、もし第二次朝鮮戦争が始まれば、北朝鮮軍ミサイル部隊は国連軍に基地を提供する日本国内の普天間、嘉手納、佐世保、横須賀、座間、横田、三沢に大規模ミサイル攻撃をするだろうと。

佐藤 核ミサイルかどうかはわかりませんが、北朝鮮軍は確実にミサイル攻撃をしてくるでしょう。

――ヤバいですね。イランのミサイル攻撃から守るために、米軍にはもう地対空ミサイルが残っていないです。だから、ウクライナ派遣で腕を上げた北朝鮮ミサイル部隊は、防空用ミサイルのない在日米軍基地に確実に命中させてきます。

佐藤 北朝鮮はこの不正腐敗行為で混乱して、しばらく内向きになります。当分は外に攻めないので大丈夫ですよ。

――その組織局ナンバー2の裏切りのおかげで日本は安全。しかし、そうした混乱に乗じて、一昨年あったような北朝鮮と韓国の「風船攻撃」がある可能性はないですか?

佐藤 家畜の糞などならまだしも、北朝鮮は爆弾や化学兵器を送って来かねないですからね。それも成層圏にいったん上がってしまうと、韓国ではなく北海道まで飛んでくるので面倒ですね。

ただ、北朝鮮が混乱して内向きになるのと歩みを合わせて、世界もこれから内向きになっていきます。そうなると映画『燃えよドラゴン』みたいになっていくのがロシアとドイツです。

――? なぜその両国が『燃えよドラゴン』のような状態になるのですか?

佐藤 モスクワのレストランで起きた爆弾テロは深刻な話です。軍部のパーティー情報が外に漏れているんですから。

――もしドイツ情報部からウクライナに知らされていたとしたら、話はさらにややこしくなると。

佐藤 はい。もっともこういう情報工作はドイツではなく、ウクライナが行った可能性が高いと思いますが。いずれにせよ、これは戦場が最前線だけでなく、モスクワまで迫っていることを意味します。

――ロシアの核ドクトリン(使用指針)では、特定の場所や戦略兵器などを攻撃された場合、もう躊躇(ちゅうちょ)なく核兵器を使うことになっているんですか?

佐藤 通常兵器でもロシアの本丸が危機になった時には使うことになっています。今回はテロなんですけどね。

――レストランは本丸の中枢・モスクワにあります。

佐藤 もっともテロ攻撃というのは、劣勢になった側がとる戦術です。いま、ウクライナは追い込まれていますからね。

――地対空ミサイル、パトリオットの在庫は底をついているかもしれないし......。

佐藤 ロシア国内へのドローンでの無差別攻撃、そして今回のモスクワの爆弾テロは追い込まれている国の特徴です。特に今回は、テロということで戦術的に逃げようとしています。

――ウクライナがヨーロッパにおけるIS(イスラム国)になっていると?

佐藤 そうです。英国で暗躍したIRA(アイルランド共和軍)みたいなやり方です。もっとも、追い込まれた側がテロに走ることは珍しくはありません。

――すると、もし捕虜交換をしなくていい対テロ作戦を、ウクライナ国内で展開するとプーチン露大統領が決断したら、戦争の様相が変わってきますね。

佐藤 はい。だから、そういう厳しさなんですよ。

――熾烈な最前線がさらに過酷になると。

佐藤 いま『静かなドン』という本を読み直しています。

――なんかプーチンの自伝のような響きですね。

佐藤 いえ、ドンは川の名前です。旧ソ連の作家ミハイル・ショーロフが書いたノーベル文学賞受賞作です。

ロシア南部ドン川のコサックを舞台に、第一次世界大戦やロシア革命に翻弄される人々の悲劇を描いているわけですが、コサックの内戦では徹底した殺し合いが行なわれているんです。それが、いまのウクライナに蘇(よみがえ)ってきている感じです。

――この小説、スターリンの愛読書でもあり、プーチン露大統領がこの小説を読んでいれば、なにかインスパイアされている可能性はありませんか? プーチンが静かにモスクワ川を見て、「これはやらな、あきまへんな」と、ウクライナ国内で対テロ戦争開始を決めるとか。

佐藤 プーチンは『静かなドン』を読んでると思いますよ。現在のロシア・ウクライナ戦争は、この小説で描かれた内戦のようになっています。

――もう一匹のドラゴン、ドイツですが、佐藤さんは「ドイツは今後10年間、生活を切り詰めてバター、白パンをあきらめる」とおっしゃっていましたが、そんなにドイツの国内経済事情はヤバくなっていくんですか? これは、ドイツはロシアが攻めて来ると連呼して、外に敵を作っていくから、ということですか?

佐藤 そうです。あと、ドイツは経済の軍事化をやっていきます。経済の軍事化をしていけば経済は伸び、GDPも伸びます。第二次大戦前に戦艦大和を大日本帝国が作ろうとしたとき、当時の日本人は米ばかり食べていましたよね。

――そうですね。すると、戦前の日本人のその質素な切り詰めた食事のおかげで、戦艦大和が作れたと?

佐藤 はい。だから、ドイツは今後そうなっていきますよ。

――「ドイツ第四帝国」は戦艦大和に匹敵するような重戦車軍団を作る。「欲しがりません、勝つまでは」。危険ですね。

佐藤 ドイツ人はポイントを掴み損ねることに関しては天才的ですからね。

――佐藤優さんの対談本『対決! 日本史6』(潮出版社)では、ドイツ第三帝国のヒットラー総統が、英国攻略がなかなかできずに対ソ戦を開始したことについて、「永遠の謎です。理由はよく分かりません」と発言されています。それでもいま、このタイミングこそがその天才的ポイントであり、21世紀の「ドイツ第四帝国」が『燃えよドラゴン』になって再びロシアに向かうということですか?

佐藤 そうなると、ヨーロッパ大陸全体を巻き込む総力戦が起きます。それを阻止するために全力を尽くすのが、人類に与えられた課題です。

次回へ続く。次回の配信は8月21日(金)を予定しています。

★『#佐藤優のシン世界地図探索』は毎週金曜日更新!★

  • 佐藤優

    佐藤優

    さとう・まさる

    作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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