【#佐藤優のシン世界地図探索169】トランプ親分と首領(ドン)プーチンの間で話をつけた「イランの敗北」

取材・文/小峯隆生

去年8月、アラスカで仲良く会談したトランプとプーチン。電話で色んな事を話し合う親友である(写真:EPA=時事)去年8月、アラスカで仲良く会談したトランプとプーチン。電話で色んな事を話し合う親友である(写真:EPA=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――前回の話の続きになります。イラン戦争ですが、各社報道と名のある論客のみなさんの解説によると、今回の戦争はアメリカが負け、イランが勝ったと......。

佐藤 その前にひとついいでしょうか? この前、セブ島のシャングリアホテルに泊まったんですが、缶のコーラが一本700円でした。ホテルの外なら約40円なので、高級ホテルの囲いの中に入ると価格体系が全く別だったんですね。

その価格差は、そこに財布を置いたままにしても誰も持って行かないという"安全"があるからなんです。

――だから17倍以上の価格差。

佐藤 朝食のメニューも200種類ほどあって、ひとり2000円です。外で食べると150円です。

日本も大体、そんな風になりつつあります。要するに、富裕層や外国人が来る場所と、それ以外の場所で明確に分かれていってるんです。

――貧困地帯と金持ち専用の安全地帯ですね。

佐藤 そうです。それでイラン戦争の話題に戻りますが、7月8日に皆、真っ青になりましたね。トランプが喧嘩祭りを始めましたからね。

――イランの最高指導者の葬列が5日間にわたって全国を回り、4100万~4300万人が参列したと報道されていました。それだけ見ていると、イランは絶対に負けていないと思ってしまいますが......佐藤さんは前回の記事でイランは負けだと分析していました。

佐藤 8日の米国の攻撃再開以前から、もうイランの国家機構は弱体化していましたからね。そのうえ、トランプが本格的な攻撃を始めて、あちこちに火が付いています。

――はい。

佐藤 4日にプーチンがトランプに電話して、1時間半話しているんですよ。おそらく、そこでトランプは中東に集中したいから、ウクライナは手仕舞いしたいとロシアと打ち合わせをしていると思います。

――8日にはトランプとゼレンスキーが会談しましたよね。「お前、諦めろよ。米国はバックアップしないから」とか言いながら、ちゃっかりパトリオット地対空ミサイルのウクライナでの現地生産を認めて、売り込んでますからね。さすがです。

佐藤 「俺は知らんぞ」と、ヤクザ映画『仁義なき戦い』の金子信雄の雰囲気ですね。

――金子信雄が親分を演じる山守組がヤバくなって、頼りは菅原文太の演じる広能昌三だけ。金子親分は小さな金庫から札束を取り出して、「これ持って行ってくれ」と泣きを入れる。喧嘩は弱いけど、金勘定だけはできる親分でしたが、それこそトランプなんですね。

佐藤 そうです。金子信雄がトランプですね。

――すると、首領プーチンとトランプ親分が電話した時に、話がついた可能性はあるわけですか?

佐藤 いえ、それをもう一回確認しただけでしょうね。つまり、去年の8月にアラスカですでに話がついていて、それが明らかになったのが今回の電話ということです。

――恐ろしく単純だけど、複雑怪奇な国際関係。4日にイランが日本に原油購入を打診したという報道がありましたが、8日には米国はイランの石油輸出許可を取り消しました。すると、もうこれは気にしなくていいと?

佐藤 そうなります。

――それから佐藤さんは前回、いまのイランは国家が破綻しているから、核開発ができないとおっしゃっていました。ということは、イランにある対米策はホルムズ海峡だけ?

佐藤 はい。ホルムズ閉鎖しか道具がありません。

――なるほど。

佐藤 ドイツの社会哲学者、ユルゲン・ハーバーマスはこう言っています。

「後期資本主義における正当化の諸問題の中で、危機とは何かというと、いま起きている問題に対して、十分な解決手段を持っているか?ということだ」

危機と比較してその解決手段の数が少ないとき、ある事態は危機になります。だから、ある人にとって危機になることもあれば、別の人にとっては危機にならない、ということです。

――つまり、イランは次の危機が来るのを待っている位置にいると。

佐藤 そうです。それはホルムズ海峡というカード一枚しか手持ちがないからです。

たとえば、イランがすごいインフレで物価高になっていますが、資産がたっぷりある人は「しょうがないわ」となります。だけど、年金生活者だったり、親からの仕送りもなくギリギリでバイト生活している学生にとって、物価上昇は死活的になっていきますよね。

――冒頭の話ですね。40円のコーラを飲みながら150円の朝食を食べている人は、インフレはまさに危機です。しかし、700円のコーラと2000円の朝食が日常の人には問題ありません。

佐藤 そうです。インフレも安全地帯にいる資産家にとっては支障がないんです。イランが持っていた外交カードには、ロシアとの関係、ドイツとの外交、さらに中国との外交と、石油を買ってもらう石油カードもありました。

そして、イランの支援勢力として、ハマス、ヒズボラ、フーシ派、これらに対しての支援を強化、または緩めるといったカードを持っていたんです。

――それらがいま全部なくなっているのですか?

佐藤 はい、全部失いました。

――そこで質問なのですが、金子信雄なトランプ米大統領は、それらをわかってやっているんですか?

佐藤 直観的にわかっているでしょうね。イランは弱そうだぞ、と。

――では、金子トランプは待っていればいい?

佐藤 トランプはあちこちで喧嘩をやっています。喧嘩が始まるところで相手の気合いや目を見たら、「いけるかどうか」がわかっているんでしょう。

――歴戦の喧嘩上手だと。

佐藤 ただしイランは、映画『仁義なき戦い』に出てくる明石組のように力をつけて、どんどん育っていく感じではなく、チョロチョロとしているだけです。

――作中の明石組とは、組長を丹波哲郎が演じた最強ヤクザでありますね。神戸の広域団体をモデルにしていました。

トランプで最近、驚いたのがW杯への介入です。アメリカチームの選手に出されたレッドカードに対して、「あれはおかしくないか?」とFIFAに圧力をかけた。実質的に「その判定を取り消せ」と言っているのと同じ。さすが興業主である広域ヤクザのやり方です。全部あの調子ですからね、サッカーも本物の戦争も。

佐藤 そう。だから、ルール自体を変えればいいという考えです。将棋なら「二歩」がOKになり、角が前後に動けるようになるくらいルールが変わってきています。

――飛車が成ったら2個の金が飛び出るとか、そんなやり方ですね。

佐藤 そうそう。その後「王手」と言われて、王が盤外に出ちゃうとか(笑)。

――それって究極の秘手。でも、トランプはやりそうですね。

佐藤 でも、将棋盤が全くなくなるよりはいいですよ。

プロレスでも場外乱闘がありますよね。本来はリングとリングの外に設けた場外フェンスとの間でやるものですが、その柵を飛び出しての乱闘もあります。それがプロレスですからね。

――すると、イラン戦争でもそれと同じ奇手が次々と飛び出す可能性があると?

佐藤 なにせトランプですからね。

次回へ続く。次回の配信は7月24日(金)を予定しています。

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  • 佐藤優

    佐藤優

    さとう・まさる

    作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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