
吉井透
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フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中
高校無償化の拡大により、庶民家庭も私立を選択する動きが広がってきているが、進学後の格差は今なお存在するようだ
今年度から高校授業料の実質無償化が所得制限を撤廃する形で拡大され、進学先選択における経済的格差は大きく縮小した。
2023年度の文部科学省の調査によると、私立高等学校の全日制に子息を通わせている世帯のうち、年収1200万円以上の割合は21.9%。庶民には高嶺の花であった私学だが、高校無償化をきっかけに庶民家庭のなかにも、私立校を選択肢に加える動きが出ている。
「高校無償化とは、国が高校の授業料を支援する『高等学校等就学支援金制度』のことで、2026年度に所得制限が完全撤廃され、公立高校は原則として年11万8800円、私立高校は年45万7200円を上限に支援されることになりました。また、東京都など自治体の一部も国の支援に独自の助成を上乗せしています」(大手紙社会部記者)
高校無償化をきっかけとした私学志向はデータにも表れている。
東京都によると、2023年度の入試で都立校を第一志望にした受験生の割合は71.98%だったが、その後、高校無償化の対象拡大に応じる形で減少が続き、2026年度には65.79%にとどまっている。その一方で、都内私立高校・全日制の一般入試の中間倍率は、2.62倍(2023年度)から3.14倍(2026年度)に上昇している。
しかし、対象となるのは授業料のみ。入学金や設備費など費用は原則として無償化の対象外だ。そうしたなか、高校無償化の波に乗って子息を私立高校に進学させた庶民家庭の一部からは、青息吐息も聞こえてくる。
「改正高校就学支援金法」の実現を自身の政策の成果として強調する高市首相
今春、次男が近畿地方の私立高校に入学した望月圭太郎さん(50代・仮名)が話す。
「公立高校ではかからない大きな費用が、入学金と設備費。うちの学校では二つを合わせて40万円くらいになります。それは入学前にわかっていたことですが、公立なら格安もしくは無償で提供されるICT端末も、年間4万円のリース代がかかり、制服も公立校よりも2万円近く高い。遠足や課外学習の際にもその都度1万円前後が費用として徴収されるようです」(望月さん)
さらに大きな想定外の出費に慄(おのの)いているのは、関東在住で私立高校1年生の息子を持つ五名圭子さん(40代・仮名)。
「今春、息子が進学したのは、伝統的にお坊ちゃん学校と呼ばれる中高一貫校の高等部です。学費は支援金の上限を超えていましたし、入学金や設備費、制服や教材費も公立より高いことは覚悟していました。結果、初年度で60万円ほどは持ち出しとなりましたが、息子のたっての希望で、教育ローンを組んで私立に進学させました。
しかし今、予定外の出費に家計がピンチに陥っています。というのも、2年次に行われる海外への修学旅行の旅費が32万円から55万円に一気に値上がりしたのです。燃油サーチャージ代や現地の物価高騰、円安の影響によるものという説明です。
過半数を占める富裕層の家庭にとっては誤差の範囲のようで不満の声は上がっていないようですが、入学時に預金の多くを使い果たした年収500万程度の我が家にとっては痛すぎる出費。食費を切り詰めてでもなんとか工面するしかありません‥‥」(五名さん)
また、高校無償化をきっかけに、富裕層の子息が集まる私立高を選んだ庶民家庭を悩ませているのが「交際費」だという。私立高校2年の娘を持つ近畿地方在住の橋田貴美子さん(40代・仮名)が話す。
「うちの学校のママたちはいわゆる『有閑マダム』と呼ばれるような方々がほとんどで、平日からやたらと『ランチ会』が開催されます。文化祭や運動会など直後は打ち上げと称してホテルのラウンジや一流レストランで行われ、会費も3000円を下りません。パートで働いている私は、仕事を理由に極力参加しないようにしていますが‥‥」(橋田さん)
一方で避けられないのは、生徒本人の交際だ。
「休みの日にクラスメイトと一緒に出かけるとなると、当たり前のようにタクシーに乗ったりスタバに行ったりするそうで、軽く5000円以上は使うことになります。また、友人の誕生日のたびにディズニーランドに行き、さらにプレゼントも1万円近くの物を贈り合うのが普通。娘の交友関係にヒビが入るのも怖いので背伸びしていますが、正直かなり苦しいです」(橋田さん)
橋田さんは、自らの反省も込め、授業料無償化をきっかけに私立高校を選択肢に入れている庶民家庭にこうアドバイスする。
「無償化されたとはいえ、伝統的な金持ち学校の雰囲気は今も変わっていない。中高一貫校の高等部入学は特にそう。というのも、無償化の対象ではない中等部から内部進学してくる学生はほぼ全員が富裕層の子息で、彼らの割合は高等部でも半数以上を占めることになる。結果、庶民家庭は少数派で、無理して富裕層の常識に合わせるか、肩身の狭い思いをすることになります」(橋田さん)
高校無償化制度により、就学上の格差は是正されつつあるとはいえ、まだまだ完全に解消されたわけではなさそうである。