
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
高市首相が三代将軍と化すとなると、連立を組む維新・吉村代表は柳生一族になるのか?(写真:)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――ヨーロッパには「ドイツ第四帝国」が現れ、イランは負け、イスラエルは大勝利。そして、中国海軍原潜が海中から大陸弾道核ミサイル「巨浪3」を撃ちこみ、日本に命中すればNATOからお見舞いの電報だけが届く――前回はそういう話でしたが、我々はいま、何を目指すべきなんでしょうか?
佐藤 我々日本がいま、学ばないといけないのは徳川家光です。
――なぜ家光を?
佐藤 外交関係を縮小しなければならないからです。
――再び鎖国ですか? 家光が執り行った有名な三大政策は、(1)鎖国(2)参勤交代の確立(3)キリスト教への弾圧、です。特に鎖国は、国が生きていく場所をグローバルの枠組みから縮小して、日本国内だけで完結できるようにした。これで戦争になる確率を減らすということですか?
佐藤 そうです。ただし、「鎖国」という表現は適切でありません。松前口を通じてオホーツクやサハリン、対馬口を通じて朝鮮、出島を通じてオランダと中国、琉球を通じて中国、東南アジア諸国と政治、経済関係を持っていたので、国を閉ざしていたわけではないからです。いずれにせよ外交関係を縮小するという家光の選択は正しかったです。
――なるほど。
佐藤 そして、いまの日本に関していえば、国会の審議を見てもわかることがあります。
――家光から今度は現在の国会ですか?
佐藤 いま行なわれている国会審議の内容は、当事者にとっては深刻かもしれないけど、日本国民や日本国家、そして世界にとって全く関係のない問題です。
――国会議員選挙の比例代表の削減などですか?
佐藤 そうです。あとは、皇室典範の件や国旗損壊法もそうですね。このように極端に内向きになっています。
――確かに。
佐藤 それからいま、日本維新の会が議員立法で「犬猫肉の食用禁止法」の制定を目指しています。
――なぜそんな法律の制定をいま目指しているんですか?
佐藤 外国人が来日して犬を食っているから、それは止めたほうがいいということです。それから、そういう法律を作らなければ、日本の食文化が破壊されるという理由です。維新は制定にすごく熱心なようですよ。
――維新は先日、安保関連三文書の年内改定に向けた提言で、「原子力潜水艦の所有」と「アメリカとの核共有」を盛り込みました。それにしても原潜、核兵器、その後が犬肉と、維新の動きはすさまじく斬新ですね。
佐藤 そうですね。家光にちなんで言えば『維新一味の陰謀』ですね。『柳生一族の陰謀』という、家光の将軍就任をめぐる権力闘争を描いたドラマがありましたよね。
――犬猫肉食用禁止はすでに2024年、韓国の国会で成立しています。韓国がやっているから日本もやらないと世界から遅れてしまう、という論理なんですか?
佐藤 はい。日本が誤解されます。日本国内でも犬猫肉を食べているんじゃないかと思われるというのが日本維新の会の理屈です。
――そんな事実はなさそうですが、どんどんそれが本当のことのようになっていってしまう。国旗損壊罪もそうですね。
佐藤 だから、国旗損壊罪の後には犬猫肉食用禁止なんですよ。
――実際に外国人は日本に犬猫を食べに来るんですか?
佐藤 それは知りません。
――事実がないのに騒いでいると。
佐藤 ただ維新からの情報によれば、犬食できる飲食店は東京や大阪に50店舗はあるそうです。実際に犬食を提供する店は存在はしています。少し前に奈良公園で鹿を蹴っている外国人の報道がありましたよね? そういう外国人はたくさんいると思いますか?
――いませんよ。映っていたのは確かひとり。あ、あれと同じ構造だと......。
佐藤 はい。映っているのはひとりですが、他にもいないとは言い切れません。だから、「あるかないか?」で言うと一件でもあれば......。
――「その事実はある」ということになる。ひどい話です。
佐藤 それから、高市首相は外国人の刑事事件について、「通訳の手配が間に合わずに、不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と自民党総裁選の所見発表演説会で発言しました。そういうことを言ってこれまで当選してきたし、成功してきましたからね。これも事実があるかどうかは関係ありません。
だから考えてみれば、これは平和だから起きる「生類憐(しょうるいあわれ)みの令」なんです。高市幕府はこれから生類憐みの令を施行しようとしているんです。
――三代目家光将軍の時代なのに、再び五代目・徳川綱吉将軍の『元禄太平記』に戻りますね。すると、やがて犬公方(いぬくぼう)が出てくる。
佐藤 そうです。「お犬様」ですね。
――ということは、飼い主のいない犬猫を集めた施設「御囲(おかこい)」が随所にできていくと......。
佐藤 やはり、そういう組織や仕組みを強化している方向ですからね。
――そして、お庭番として内閣情報調査室から格上げされた国家情報局もできる。だから、全然イケると?
佐藤 全然問題はありません。
――外交は家光将軍スタイルで、鎖国。そして内政は綱吉将軍スタイル。さらに、柳生一族ならぬ新党維新の陰謀で犬猫肉食禁止。しかし、維新の陰謀は家光将軍にも波及して、原子力潜水艦を装備&米国から核共有。壮大な陰謀であります。その行き着く先はどこなんでしょうか?
佐藤 1978年の深作欣二監督『柳生一族の陰謀』のラストシーンが参考になります。物語の最後、萬屋錦之介演じる柳生但馬守宗矩は、長年の策謀の末に徳川家光を将軍に据え、権力を掌握したと思っています。ところが息子の柳生十兵衛(千葉真一)が家光を討ちその首を宗矩の前に投げ出します。それを見た宗矩は現実を受け入れられず、
「これは夢じゃ! 夢じゃ、夢じゃ! 夢でござる!」
と絶叫します。すべて夢で終わると思います。
次回へ続く。次回の配信は8月14日(金)を予定しています。