NPBとMLBを席巻する"最強バッター"を徹底分析!! サトテル&アルバレス「史上初の日米同時三冠王」爆誕!?

写真/時事通信社 共同通信社

日米のグラウンドで今、同じ現象が起きている。シーズン終了まで2ヵ月を切った中、佐藤輝明(阪神)とヨルダン・アルバレス(アストロズ)が三冠王へと突き進んでいるのだ。タイプの異なる左の長距離砲に何が起きているのか?

※データは日本時間 8月4日時点

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【長打力はそのままに打率だけが上がった】

今季、甲子園とダイキン・パークで、まったく同じことが起きている。

佐藤輝明(阪神)は打率.316、22本塁打、68打点を記録。昨季40本塁打、102打点の2冠でセ・リーグMVPを受賞したが、今季はさらに打率も高め、隙がなくなっている。

一方、ヨルダン・アルバレス(アストロズ)は打率.329、35本塁打、84打点を記録。打率はMLB全体トップ、本塁打と打点はア・リーグトップに立ち、三冠王が現実味を帯びている。

打率.316、22本塁打、68打点と打ちまくる佐藤。昨季40本塁打を放ったパワーはそのままに、今季は高打率を維持している打率.316、22本塁打、68打点と打ちまくる佐藤。昨季40本塁打を放ったパワーはそのままに、今季は高打率を維持している

MLB30球団トップの打率.329を誇るアルバレス。さらに、ア・リーグ最多となる35本塁打、84打点もマークしているMLB30球団トップの打率.329を誇るアルバレス。さらに、ア・リーグ最多となる35本塁打、84打点もマークしている

今季、三冠王という偉業達成を目指す、日米を代表するふたりの長距離砲に共通するものはなんなのか? 現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏が分析する。

「ふたりとも、今季から急にバットが速く振れるようになったわけではありません。アルバレスのバットスピードは昨季の約120.4キロ対し、今季も約120.5キロ。平均打球速度もほぼ横ばい。

それなのに、芯でとらえた打球の割合だけが13.8%から19.0%へと跳ね上がっている。投手の投げる球に合わせ、〝最も飛ぶ角度〟でスイングを重ねられている状態です」

お股ニキ氏は、スイングの精度が上がったこの変化を、投手に置き換えて説明する。

「球の速い投手がコントロールを身につけた、という話に近いです。球速と制球はトレードオフではなく、いい投手は両方が同時に伸びていきます。打者も同じ。

最近は『打率なんて意味がない』『OPSさえ高ければいい』と批判する人も増えましたが、佐藤がここまですごみを増した理由は間違いなく打率が上がったことにある。確実性とパワーが両立して初めて、投手は勝負を避けたくなるんです」

では、佐藤の打撃にはどのような変化があったのか?

「バットを肩に乗せるような構えになり、トップを大きくつくりすぎず、体の回転でコンパクトに振るカタチに進化しました。ステップ幅は狭めで、重心は高い。軸を残したまま上半身と下半身を同時に回す。フィギュアスケートと同じで、腕を体に近づけたほうが速く回れる上に、力も伝わります。

以前はパワーがある分だけバットが遠回りしていましたが、構えからインパクトまでの距離が縮まり、半速球を待ちながら速い球にも変化球にも間に合うようになりました」

当てにいく打法に変えたわけではなく、振り切るカタチを保ったまま、力感だけを調整。その結果、今季の佐藤は高めのフォーシームを叩けるようになり、長年の弱点だったインハイを克服しつつあるのだ。

【似ていないふたりが同じ答えを出した】

そもそも日本では、アルバレスの名前自体なじみが薄いかもしれない。キューバ出身の29歳は、MLB史に残るトレードとともにアメリカでのキャリアを歩み始めた。

「ドジャースが2016年に契約金200万ドルで獲得しながら、マイナーの公式戦に一度も出場させないまま、2週間後に中継ぎ右腕ジョシュ・フィールズとの1対1トレードでアストロズへ放出しました。

アストロズからすれば、契約手続きだけドジャースにやらせて、原石をかっさらったようなもの。黄金期アストロズの目利きのすごさを物語るトレードです」

アルバレスは昨季、右手の骨折と左足首の捻挫もあり、わずか48試合の出場に終わったが、今季完全復活。7月には月間打率.360を記録し、今季2度目の月間MVPに輝くなど、好調を維持している。

「今のMLBは、160キロ近い速球に加え、変化球を5種類近く操る投手が当たり前に存在する世界。その状況でこれだけ打つのですから、まさに別格の存在感です」

その打撃のメカニズムは、佐藤とは似て非なるものだという。

「佐藤は大谷翔平(ドジャース)に近いタイプで、軸を残して上半身と下半身を同時に回し、片手フォローで前を大きく残す。手足が長く、ベースから離れて立っても届くので、相手はインコースを攻めにくい。右投手も左投手も苦にしない点では大谷さえも上回っています。

対してアルバレスは、こまのようにコンパクトにくるっと回転する打ち方。2004年に三冠王を獲った松中信彦さん(元ダイエー・ソフトバンク)に近い。屈強なコンタクトヒッターです」

アルバレスは右方向、左方向への打ち分けにも独特のさじ加減があるという。

「フォーシームにはやや差し込まれながら、レフト方向へうまく運びます。逆に変化球や落ちる球は前で引っ張る。差し込まれすぎればファウルゾーンへ切れますし、前でしか打てなければ落ちる球に泳いでしまう。〝程よく差し込まれる〟という絶妙のバランスと言えます」

似ていないふたりが、なぜ同じ時期に同じ成果を手にしたのか? 背景には、打者と投手の〝読み合い〟がある。

「フライボール革命の頃は、打球角度28度前後で打球速度158キロ以上という『バレルゾーン』で打つべく、打者はどんな球にもアッパー気味に振っていました。それを受けて、投手が高めのフォーシームで空振りを狙うようになると、逆に打者は少し平行気味にスイングするようになるなど、〝いたちごっこ〟が続いています。

今季はアルバレスのアタックアングル(インパクト時のバットの角度)が昨季の平均9.3度から平均7.8度へ下がりましたが、その背景には打者と投手の駆け引きの流れがあるのです。大改造ではなく、各球種やコースへの対応力を上げたことが今季のアルバレスの躍進の理由です」

【森下という壁、本命不在の追い風】

では、ふたりは本当に三冠王に手が届くのか? お股ニキ氏の答えは、日米で対照的だ。

「正直に言えば、佐藤のほうがハードルは高いです」

最大の壁は、同じ阪神打線で佐藤のひとつ前を打つことが多い森下翔太だ。本塁打では、25本でリーグトップの森下翔太が22本の佐藤に先行している状況だ。

25本塁打で佐藤に3本差をつける森下。1、2番が出塁し、後ろに佐藤が控える3番は守られた打順だという25本塁打で佐藤に3本差をつける森下。1、2番が出塁し、後ろに佐藤が控える3番は守られた打順だという

「3番の森下はかなり〝守られた打順〟です。1番の近本光司、2番の中野拓夢が出塁し、後ろには4番の佐藤がいる。相手バッテリーは森下と勝負せざるをえません。良くも悪くも素直に振り切るタイプなので、打数も本塁打数も伸びやすい。

逆に佐藤は、森下が併殺で終わった次の回の先頭打者として打席に立つ機会も多く、相対的に難しい立場と言えます」

同じ構図には、前例がある。

「長嶋茂雄さん(元巨人)は1968年から3年連続で打点王を獲得していますが、その3年とも本塁打と打率のトップは王貞治さん(元巨人)でした。長嶋さんが王さんの三冠王を阻んでいたわけです。今の森下と佐藤も近い関係にあります」

1968年から3年連続で長嶋茂雄(右)が打点王を獲得し、王貞治(左)の三冠王を阻んだ。今の森下と佐藤に重なる構図だ1968年から3年連続で長嶋茂雄(右)が打点王を獲得し、王貞治(左)の三冠王を阻んだ。今の森下と佐藤に重なる構図だ

打率にも不安がないわけではない。交流戦明けに.360近くあった打率は、7月の月間打率.229という失速を経て、.316まで下がっている。

「交流戦以降、球の速い投手に押し込まれる場面が増えました。佐藤はもともとボール球にも手を出す打者で、飛び抜けて確実性が高いタイプではない。最終的な打率は.310前後に落ち着く可能性もあります。

そもそも、甲子園を本拠地にする左打者が4番を打ちながら三冠王を射程にとらえている、という時点でもっと評価されるべきです」

対して、アルバレスへの評価は明快だ。

「これまでの三冠王候補と比べても、断然いい位置につけています。MLBの三冠王が難しいのは、各リーグ15球団の中で3部門トップという競争率もさることながら、どのシーズンもどこかの部門で〝確変〟のような成績を残す打者が必ず現れること。

同一リーグに強力なライバルがいれば、それだけで難易度が跳ね上がるからこそ、2012年に達成したミゲル・カブレラ(元タイガースほか)は本当にすごかった。

今季のアルバレスは、本塁打と打点で立ちはだかるはずのアーロン・ジャッジ(ヤンキース)がフル稼働していないという追い風もあります。ほかのライバルもWBC出場の影響などもあり、昨季よりも本塁打数が伸びていない状況ですよね。そのような流れの中で最盛期を迎える巡り合わせも含めて実力と言えます」

実際、2024年の大谷は本塁打と打点でトップに立ちながら、打率でわずか4厘及ばず三冠王を逃した。アルバレスが達成すれば、カブレラ以来、実に14年ぶりとなる大偉業だ。

最後に、お股ニキ氏はふたりに共通する〝三冠王ルート〟を示してくれた。

「アルバレスにしても、佐藤にしても、鍵は無理に本塁打を追わないこと。力まずに甘い球を逃さなければ、本塁打は自然についてくる。それが唯一の三冠王ルートです」

果たして、「史上初の日米ダブル三冠王」は誕生するのか? 残り2ヵ月を切ったレギュラーシーズン終盤戦から目が離せない。

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