【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】フェルスタッペンの"逆転王座"には角田裕毅の力が絶対に必要!

構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄

「レッドブルは角田選手をフェルスタッペン選手のために犠牲にするような戦いよりも、2台そろって速く走り上位に入賞するような戦い方にシフトしては?」と語る堂本光一「レッドブルは角田選手をフェルスタッペン選手のために犠牲にするような戦いよりも、2台そろって速く走り上位に入賞するような戦い方にシフトしては?」と語る堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE38

夏休み明けに開催された第15戦オランダGPで今季7勝目を挙げたオスカー・ピアストリ。持ち前の冷静沈着な走りで、チームメイトのランド・ノリスに34ポイントもの大差をつけてチャンピオン争いをリードしていたが、ここ数戦、急激にパフォーマンスを落としている。

連戦となった第19戦アメリカGPと第20戦メキシコGPではともに5位に終わり、表彰台を逃す結果となった。その一方でチームメイトのノリスは安定した走りを披露し、メキシコでは今季6勝目を挙げてポイントリーダーの座を奪還する。

今シーズンは次戦のブラジルGP(決勝11月10日)を含めて残り4戦。マックス・フェルスタッペンはアメリカGPで今季5勝目をマークし、マクラーレンのふたりを猛追している。3者による熾烈なチャンピオン争いは最終戦のアブダビまで続いていきそうだ。

* * *

【完璧な戦いをしていたピアストリに何があった?】

ランド・ノリス選手がメキシコGPで予選からライバルを圧倒し、今季6勝目を挙げました。ここ数戦、不調に陥っているチームメイトのオスカー・ピアストリ選手は5位に終わり、ドライバーズ選手権でノリス選手(357ポイント)がピアストリ選手(356ポイント)を抜いて首位に立ちました。

ここまでチャンピオン争いをリードしてきたピアストリ選手の冷静な走りは、アイルトン・セナのライバルで4度の世界チャンピオンに輝いたアラン・プロスト選手と重なる部分があると思っていました。シーズン7勝目を挙げた8月末のオランダGPまでは、ピアスリ選手は完璧とも言える戦いを見せていたのですが、最近は元気がないですね。

「マシンが急に乗りづらくなった」と彼自身はコメントしています。マクラーレンのマシンがノリス選手の好みに寄ったセッティングになってしまっているのか、それともメンタルに問題を抱えているのか、不振の理由はわかりません。

でも今シーズンのピアストリ選手の戦いぶりを見ていると、チャンピオンシップが佳境に入り、プレッシャーがかかって本来の力が発揮できなくなった......とは僕には思えません。メンタル以外の何かしらの原因があるのでしょうが、チャンピオンシップの流れは今、明らかにノリス選手に傾いています。

ピアストリ選手とは対照的にノリス選手は感情が表に出てくるドライバーで、ダメなときはあからさまに落ち込んでいますが、勢いに乗ると今回のメキシコGPのように手が付けられない速さを発揮します。ノリス選手をこれ以上、乗せてしまうと止めるのは難しくなっていくでしょうね。

ポールポジションからスタートしたメキシコGPで2位以下に30秒以上の大差をつけて今季6勝目を挙げたノリス。チャンピオン争いでも僚友ピアストリを抜いて首位に返り咲いたポールポジションからスタートしたメキシコGPで2位以下に30秒以上の大差をつけて今季6勝目を挙げたノリス。チャンピオン争いでも僚友ピアストリを抜いて首位に返り咲いた

【フェルスタッペンは奇跡を起こせるのか】

ここ数戦、ノリス選手以上に勢いがあったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手です。8月のオランダGP終了時にはチャンピオン争いでトップにつけていたピアストリ選手に100ポイント以上の大差をつけられ、夏休み前にはもうフェルスタッペン選手の5連覇は難しい......と見られていました。

ところが、9月上旬の第16戦のイタリアGPでおよそ4ヵ月振りの優勝を達成すると、第17戦のアゼルバイジャンGP、そして19戦のアメリカGPではスプリントと決勝の両方を制し、再びチャンピオン争いに名乗りを上げてきました。

メキシコGP終了時点で、ランキング首位のノリス選手とのポイント差は36。逆転でタイトルを獲得するのは厳しい状況にあるのは変わりありませんが、次戦のブラジルGPと第23戦のカタールGPはスプリントもあります。タイトル獲得の可能性はゼロではありません。

もしフェルスタッペン選手が5連覇を達成したら、F1史に残る大逆転劇になると思います。レッドブルとフェルスタッペン選手が奇跡を起こすためには、チームメイトの角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手のサポートは絶対に欠かせないと思います。

角田選手はアメリカGPのスプリントと決勝の両レースで素晴らしいスタートを決めて、ともに7位入賞を果たしました。続くメキシコGPは入賞こそ逃しましたが、安定した走りを披露しています(11位完走)。角田選手は着実に前進しています。

レッドブルのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコ氏は、メキシコGPまでのパフォーマンスを見て、2026年のドライバーラインナップを決定すると話していましたが、その決断は先送りされることに。角田選手が成長する姿を見て、レッドブルの首脳陣はもう少し様子を見ようという判断になったのだと思います。

あと角田選手がやるべきことは、結果を残すことだけなんですよね。だからこそメキシコでのピットワークのミスは痛かった。ジャッキ作業のミスで10秒以上もタイムロスをしてしまった。あれがなかったら、7位か8位に入賞はできたと思います。

【レッドブルの戦い方には疑問を感じる......】

メキシコでのレース前半、フェルスタッペン選手を援護するために、角田選手にはポイントリーダーのピアストリ選手を抑え込むようにとチームからの指示があったと思います。ある意味で、自分の走りを犠牲にしながら順位を上げていくという戦いの中でピットの作業ミスが起こってしまった。

レッドブルは今、角田選手を"戦略的"に使い、フェルスタッペン選手がチャンピオンになることを最優先にして戦っています。その結果、チーム全体がフェルスタッペン選手をサポートすることに集中するあまり、角田選手がパフォーマンスを発揮できない状況になっています。

メキシコでも担当エンジニアとのコミュニケーションがうまくいかず、角田選手と順位を競っていたドライバーがピットインしてコースに復帰するタイミングすらきちんと伝えていなかった。ピットのミスは仕方がない面はありますが、ドライバーにきちんと状況説明をしないのはどうなのかな......。角田選手もフラストレーションが溜まりますよね。

レッドブルは角田選手をフェルスタッペン選手のために犠牲にするような戦いよりも、2台そろって速く走り上位に入賞するような戦い方にシフトしてくれないかなあと思っています。2台がそろって上位を走れば、角田選手がフェルスタッペン選手のライバルのポイントを削ることができる可能性が増えますし、フェルスタッペン選手に対してもより効果的な援護ができると思います。

何よりも角田選手がもっと前で走ることができれば、フェラーリやメルセデスと熾烈なバトルを繰り広げているコンストラクターズ・ランキング2位争いにおいてもプラスになると思います。だからレッドブルの今の戦い方はちょっと疑問に感じてしまう部分が多い。

【今年のブラジルも何かが起きるか!?】

角田選手はレースペースがかなり改善していますので、予選さえまとめれば、メキシコで4位に入賞したハースのオリバー・ベアマン選手のような光る結果を出せるチャンスは十分にあると思います。

メキシコでのベアマン選手はレースペースがよく、レース序盤からフェルスタッペン選手とも好バトルを繰り広げていました。僕はレース中のベアマン選手のラップタイムを追いかけていましたが、本当に速かった。

フェルスタッペン選手といえども、最初のスティントではベアマン選手をコース上で追い抜くことはできませんでした。結局、集団の中で乱気流に巻き込まれてしまうと、ポジションを上げるのは難しいので、苦しい展開にならざるを得ません。そういう状況の中で角田選手はずっと戦い続けているので、レッドブルは予選でもう少し前に行かせるようにサポートしてほしい。

今シーズンの予選は大接戦で、コンマ一秒の差で順位が大きく変わっています。角田選手のマシンにはアップデートパーツが入ってきているとはいえ、まだフェルスタッペン選手と同じ仕様になっていません。メキシコでもフェルスタッペンのみ新型フロアが投入されていましたが、角田選手は従来のままでした。それがもどかしい。

それでもベアマン選手のような光る結果を残していくしかないのですが、次のブラジルGPは角田選手が上位入賞するチャンスはあるかもしれません。ブラジルGPの舞台となるインテルラゴスは天候が変わりやすく、開催カレンダーの中では珍しい反時計回り、コースの全長が1周約4キロと短いので、予期せぬ展開が起こりやすい。

昨年も不振にあえいでいたアルピーヌの2台が雨で大混乱となったレースで2位と3位に入り、ダブル表彰台を獲得しています。本当にいろんなドラマが起きるサーキットなので、角田選手はチャンスをしっかりとつかんで、光る走りを見せてほしいです!

☆取材こぼれ話☆

アメリカGPとメキシコGPの時差はそれぞれ14時間と15時間。レースのスタート時間は、日本では月曜日の早朝(アメリカGPは朝4時、メキシコGPは朝5時)となったが、ともにリアルタイムでTV観戦したという。

「アメリカとメキシコの両レースは時差がかなりキツイので、ライブで見られない人が多いかもしれません。でも僕の場合は、普段の生活スタイルに合っているかもしれません。

メキシコGPのときはソロライブツアーでフリー走行と予選が行われる10月24日(金)と25日(土)は福岡にいて、決勝日の26日(日)に東京に帰ってきました。

レースの前にお風呂に入って寝る準備をしてから、F1をじっくりと見て、そのままベッドに潜り込んで寝る。そのサイクルが僕には合っていますね」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝

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  • 堂本光一

    堂本光一

    Koichi Domoto

    1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした1987年頃からF1のファンに。
    公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】

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