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地上の天国、バリーランドの前で。巨大なセントバーナード像と
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「バリーランド」について語る。
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この世にはディズニーランド、レゴランド、よみうりランドと、さまざまな「ランド」があります。しかし私にとって、今最もイケているランドはスイスにありました。バリーランド。何がいるのか。セントバーナードである。以上。もう十分。
バリーランドは、スイスアルプスの麓、マルティニーにあるセントバーナードをテーマにした施設。名前の「バリー」は、19世紀初頭、アルプスの峠で遭難者の救助に活躍した伝説的な犬が由来です。もともとセントバーナードは、この峠の修道院で飼育され、深い雪や霧の中で遭難者を捜す役割を担ってきたそう。
つまりバリーランドは単なる「巨大な犬をいっぱい見られてうれしい場所」ではなく、セントバーナードの歴史と文化を守り、繁殖や飼育を続けながら、その魅力を伝える施設なんです。
とはいえ、中に入った瞬間、そんな知的なうんちくはだいたい吹き飛びます。セントバーナードが歩いてくると、毛の生えた家具がこちらへ移動してくる感じでした。オスなら70㎏超え。脚が太く、頭も大きい。伏せれば「ドスン」。立ち上がれば「よっこらしょ」。こちらが犬を見ているというより、犬のほうから小型の生き物を観察しているような気さえする。
なのに、あのすべてを許してくれそうな垂れ目。体格だけ見ればラスボスなのに、顔は「まあまあ、そんな日もありますよ」な感じ。サイズと穏やかさの不釣り合いこそ、最大の魅力なのかも。猛獣のサイズで、老舗旅館の女将(おかみ)の安心感。おやつを手であげたときのセントバーナードの唇は、強烈な吸引力なのに優しかったー。
そしてバリーランドの犬たちはなんとも優雅でした。広々とした場所でのんびり過ごし、スタッフに大切に世話をされ、散歩をし、ごろごろする。毛や爪の手入れの時間、プールでのウオーキング。ロケの疲れを抱えて歩き回っているわれわれより、ワンコのほうが明らかにウェルネスの質が高かったです。
でも彼らには、人間を助けてきた歴史がある。雪山で遭難者を発見し、救助につなげてきた。バリーは40人以上を救ったと伝えられています。人命救助のプロ。履歴書で完全に負けています。
ちなみに、セントバーナードといえば首にたるをぶら下げて遭難者にブランデーを届ける姿が有名ですが、これは史実というより後世に広まったイメージ。19世紀の絵画から定着したものだそう。人間、犬に小道具を持たせがち。本人たちは200年近く、「酒を配る巨大犬」という、応募した覚えのない仕事まで背負わされている。
ちなみにちなみに、アメリカ人の私にとってのセントバーナードの代名詞は、1990年代にヒットした映画『ベートーベン』シリーズ。同じタイミングで、家族でセントバーナードを飼いそうになり、子犬を見に行きました。結局バセットハウンドの子犬に出会ってその子を迎え入れましたけど。
その経験があるからなのか、バリーランドでも1匹バッグに入れて連れ帰りそうになりました。入りませんが。むしろ私がセントバーナードのバッグに入るサイズでしたが。あはは。
●市川紗椰(Saya ICHIKAWA)
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。デレデレしてスイスから帰国したら、留守番していた愛犬のスクービーに問い詰められた。公式Instagram【@its.sayaichikawa】