トランプの「中間選挙インチキ工作」大作戦! 負けそうなら、勝てるルールに変えればイイジャナイ!!

取材・文/川喜田 研 写真/共同通信社

ここで政権交代することはないものの、トランプ大統領は共和党の敗北を防ごうと次々と策を繰り出しているここで政権交代することはないものの、トランプ大統領は共和党の敗北を防ごうと次々と策を繰り出している
有権者資格の厳格化、郵便投票の規制強化、共和党に有利な選挙区割り――。中間選挙を前に、トランプ大統領は選挙の"ルール"にまで手を出している!?

共和党によるあの手この手は、選挙結果をどこまで左右するのか。共和党が敗北すれば、むしろトランプが大暴れする可能性も......?

【投票所まで車で50分!? ハードルを高くせよ!】

共和党の苦戦が取り沙汰されるアメリカ中間選挙。10月19日に発表されたロイターの世論調査では、トランプ大統領の支持率が31%と、第1次政権時代も含めて最低を記録した。

しかし、アメリカ政治が専門の上智大学教授・前嶋和弘氏によれば、中間選挙は政権与党にとってそもそも厳しいものなのだという。

「生活への不満は現政権に向かいますから、中間選挙では大統領の所属政党が不利になるのが既定路線なんです」

とはいえ、あのトランプのことだ。ただ負けを待っているはずもない。

「苦戦を強いられるとわかっていたトランプ政権は、昨年の政権発足直後から、今年の中間選挙で共和党が有利になるような『インチキ』を次々と準備してきたんです」

選挙の1年以上前から、いったいどんなインチキを仕込んできたのか?

「まずひとつは『有権者登録の厳格化』です。日本と違い、アメリカでは原則として事前に有権者登録をする必要があるのですが、その登録を難しくしようとしたのです」

昨年3月にトランプは「不正投票の防止」を理由に、有権者登録時に米国籍を証明する書類の提示を求める大統領令に署名した。

「しかし、米国籍を証明するためのパスポートや出生証明書などは、誰もが簡単に用意できるものではありません。

特に貧困層はパスポートを持っていない人も多い。そうした人々は民主党の支持者も多いため、投票のハードルを上げれば共和党に有利になると考えたのでしょう。

さらに、今年1月には共和党議員らが、有権者登録時の国籍証明に加え、投票時の身分証提示も義務づける『SAVEアメリカ法案』を提出しました」

ただし、この法案は2月に下院を通過したものの、上院では成立に至っていない。一方、共和党が強い一部の州では、独自に有権者資格の厳格化を進める動きもある。

アメリカでは36州が投票時に身分証明書の提示を求めている。顔写真付き身分証が必要な州もあり、運転免許証などを持たない人には投票のハードルになるアメリカでは36州が投票時に身分証明書の提示を求めている。顔写真付き身分証が必要な州もあり、運転免許証などを持たない人には投票のハードルになる
しかし、無事に有権者登録ができても、投票をするまでにはさらなるハードルがあるという。

「これも日本では想像しづらいかもしれませんが、南部ジョージア州の一部では、投票所の数が減らされたことで、投票所まで車で50分近くかかるケースもあるんです。

車を持っていない人にはハードルが高いし、持っていたとしても往復で2時間近くかかってしまう。

もちろん、こうした投票所の削減が行なわれているのは民主党の支持者が多い地域ですから、結果的に民主党支持者の投票率が下がるというわけです」

ならば、投票所まで行かずに郵便投票を利用すればいいのでは? ところが、トランプは当然こちらにも規制強化の動きを見せている。

アメリカの郵便投票では、投票用紙を郵送するほか、専用の回収箱に直接投函することもできる。回収箱は図書館や役所などに設置されているアメリカの郵便投票では、投票用紙を郵送するほか、専用の回収箱に直接投函することもできる。回収箱は図書館や役所などに設置されている
「トランプ氏は郵便投票に関しても不正の恐れがあるとして、今年3月に大統領令に署名しました。

郵便投票をする人の名簿を作り、そこに名前が載っていない人に投票用紙を配達しない。そんな仕組みを導入するよう郵便当局に求めたのです。

しかし、これに州政府や市民団体などが反発して裁判に発展。9月には連邦最高裁が、今回の中間選挙でこうした規制をすることにストップをかけました」

【選挙区割りの変更で議席増を狙う!】

有権者登録や投票方法を厳格化し、民主党支持層などの投票を難しくしようとしてきたトランプ政権。

ただし、議会や裁判所によって阻まれたものも多く、実際の選挙に与える影響は限定的だとの見方もある。

一方、今回の中間選挙で全435議席が改選される下院選に少なからず影響を与えそうなのが、自分たちの政党に有利になるよう選挙区の区割りを変更する「ゲリマンダリング」だ。

例えば、相手の政党の支持者が多い複数の選挙区をひとつにまとめれば、そこでは相手が圧勝しても、ほかの選挙区では自分たちが勝ちやすくなる。

つまり、有権者の数も支持政党も変わらないのに、選挙区の区切り方を操作するだけで、獲得する議席数を増やすことができるのだ。

「昨年夏、トランプ氏が共和党の強い州に対して、自分たちに有利になるよう選挙区を引き直すことを求めると、まずテキサス州が動き、その後ミズーリ州、ノースカロライナ州、オハイオ州などが続きました。

しかし、アメリカの選挙区再編は10年ごとの国勢調査を基に行なわれるのが通例で、本来なら次の再編は2030年の調査結果を基に行なわれる予定でした。

こうした共和党の動きに対抗して、民主党の地盤であるカリフォルニア州でも選挙区再編に踏み切りました。

これにより、共和、民主両党による〝ゲリマンダリング合戦〟という、民主主義や選挙制度本来の意味を考えればなんとも悲惨な事態に陥っているのです。

当初の試算では、ゲリマンダリングによって共和党は最大で10議席、民主党は最大で5議席増えるとされていました。仮にそのとおりになれば、差し引き5議席分、共和党が有利になる計算です」

とはいえ、たった5議席でどれほどの効果があるのだろうか?

「第2次世界大戦後の中間選挙では、大統領の所属政党は下院で平均約26議席を失っています。5議席は、その約5分の1に当たる数字です。

もともと共和党の苦戦が予想される中、それだけ負け幅を抑えられるなら、〝インチキの見返り〟としては決して小さくないと思います」

【共和党が敗北すればむしろ大暴れ!?】

ほかにも「共和党が上下両院の多数派を維持すれば、成人の米国民全員に5000ドルを支給する」と公約。さらに、批判的な報道機関をホワイトハウスの取材から締め出したり、連邦通信委員会(FCC)を通じてテレビ局に圧力をかけたりと、メディアへの介入も強めている。

加えて、選挙直前の10月12日には、トランプ政権に批判的な民主党のイルハン・オマル下院議員の自宅を、国土安全保障捜査局(HSI)が家宅捜索する事態も起きた。

中間選挙で政権交代が起こるわけではない。それなのに、トランプ大統領がこれほどまでに選挙結果にこだわる理由はなんなのか?

「支持率が低下しているとはいえ、トランプ氏の熱狂的な支持層『MAGA』の9割程度は、今もトランプ氏を支持しています。

ただ、中間選挙はトランプ氏本人に投票する選挙ではありません。そのため、MAGA層にも投票に行かない人が出てくる。だからこそ、共和党は苦戦を強いられるのです。

そう考えると、今回の選挙では、民主党が下院の多数派を奪い返す可能性はかなり高いと思います。

一方、上院の行方はまだわかりません。今回は全100議席のうち35議席が改選され、内訳は共和党が22議席、民主党が13議席。民主党が自分たちの議席を守りつつ、共和党から4議席を奪えば、上院でも過半数を獲得できます。

仮にそれが実現すれば、大統領と上下両院を共和党が握る現在の『トリプルレッド』から一転、議会の上下両院を民主党が押さえることになります。

この最悪のシナリオだけはなんとしても避けたいというのが、おそらくトランプ氏の本音なのでしょう」

10月12日、民主党のイルハン・オマル下院議員の自宅を家宅捜索する連邦捜査官。選挙直前の強制捜査にオマル議員側は反発している10月12日、民主党のイルハン・オマル下院議員の自宅を家宅捜索する連邦捜査官。選挙直前の強制捜査にオマル議員側は反発している
しかし、前嶋氏がさらに懸念するのは、共和党が敗北した場合のトランプの反応だ。

「バイデン氏に敗北した2020年の大統領選のときと同じように、今回も『選挙に不正があった』と訴えたり、裁判所や議会に阻止されて実現しなかった自分の作戦を持ち出して、選挙結果にイチャモンをつけたりする可能性もあります。

特に上院選で共和党と民主党が拮抗(きっこう)する接戦となった場合には、なりふり構わず選挙結果に異議を唱えるかもしれません。

連邦議会襲撃のような騒ぎが再び起こるかどうかも、上院の結果がどこまで揉めるか次第。可能性がないとは言い切れないんです」

さらに、共和党が大敗して議会の主導権を失えば、トランプがこれまで以上に議会を無視し、大統領令を連発する可能性もあるという。

ただ、こうした選挙を巡る問題は、トランプの登場以前から存在していた。

「実は、これまで紹介したトランプ政権の工作の多くは、トランプ氏の専売特許ではありません。

アメリカではこの20年ほど、ゲリマンダリングや投票制度の改革を通じて相手陣営の投票を制限しようとする試みが続いていて、それがこの国の民主主義をじわじわとむしばんでいました。

そう考えると、トランプ政権の誕生や、今のアメリカ社会が抱える深刻な分断も、こうした流れが生んだ結果のひとつだと言えるのかもしれません」

今回の中間選挙で米国民はどんな答えを示すのか。そしてそれは、トランプ政権の任期後半にどんな影響を与えるのか? 世界はその結果を、固唾(かたず)をのんで見守っている。

  • 川喜田 研

    川喜田 研

    かわきた・けん

    ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。

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