【11.3 アメリカ中間選挙現地ルポ】"トランプの命綱"テキサス州「反エリート票」争奪戦の実態(リアル)!

取材・文/SakuYANAGAWA 写真/共同通信社

10月19日、ロイターが発表したトランプ大統領の支持率は31%で、任期中の過去最低を更新した10月19日、ロイターが発表したトランプ大統領の支持率は31%で、任期中の過去最低を更新した

人気の低下が止まらない――米トランプ大統領が追い込まれている。中間選挙で「共和党が勝って当たり前」と目されていた赤い州・テキサスでまさかの民主党と票読みが拮抗しているのだ。

"保守の牙城"で何が起きているのか? そしてこの異変は全米に広がるのか? アメリカ在住の日本人スタンダップコメディアン・Saku YANAGAWA氏が現地取材! 【11.3 アメリカ中間選挙①】

【敬虔な信徒が掲げる「アフォーダビリティ」】

11月3日(現地時間)に行なわれる中間選挙を前に、アメリカでは共和、民主両党の選挙戦がいよいよ大詰めを迎えている。

中間選挙は、大統領そのものを選ぶ選挙ではないものの、現政権の最初の2年間を有権者がどう評価するか、その「通知表」としての意味合いが大きい。今回、問われるのは第2次トランプ政権の2年間だ。

判断材料は、物価や家賃、ガソリン価格などの経済問題から、イラン戦争や「トランプ関税」、ICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)による移民摘発、エプスタイン文書やトランプ一族の金銭問題まで多岐にわたる。

そして今のところ、世間の評価は手厳しい。

直近の世論調査では、トランプ大統領の支持率は31%。過去に中間選挙で大敗を喫した大統領たちの選挙前の支持率と比較しても低い水準だ。

その逆風は、当然ながらトランプが所属する共和党全体にも及んでいる。前回、共和党が大勝した州でも接戦が相次ぎ、各地で苦戦を強いられているのだ。

その苦境の中、共和党は中間選挙前としては史上初となる党大会をテキサス州ダラスで今年9月に開催した。壇上に上がったトランプが「私の名前が投票用紙に載っていると思って、投票所に行ってくれ。もし共和党が勝利したら全成人にひとり5000ドル(約79万円)を配る!」と大胆に宣言すると、テキサスの聴衆は大きな歓声を上げた。

ところが、これまで共和党が勝って当然とされたこのテキサス州が今、選挙戦の大きな鍵を握る最重要地になった。

2024年の大統領選において、トランプが14ポイント差で民主党のカマラ・ハリスを破ったテキサス州は、伝統的に共和党の強固な地盤とされ、最後に民主党が上院選で勝利を収めたのは1988年にまでさかのぼる。州全体の選挙でも30年以上にわたって共和党優位が続いてきた、まさに「牙城」だ。

そんなテキサスで今、旋風を巻き起こしているのが民主党候補ジェームズ・タラリコである。元中学校教師の37歳で、テキサス大学、ハーバード大学院を経て州議員になった。牧師の祖父を持ち、自身も神学校に通う敬虔(けいけん)なクリスチャンで、愛や融和といったキリスト教的価値観に重きを置く。

テキサス州で支持を集める民主党候補のジェームズ・タラリコ氏。元中学教師の敬虔なクリスチャンであり、その素朴な見た目も含めて良い意味でエリート感が薄いテキサス州で支持を集める民主党候補のジェームズ・タラリコ氏。元中学教師の敬虔なクリスチャンであり、その素朴な見た目も含めて良い意味でエリート感が薄い

そして今回の中間選挙では「アフォーダビリティ(手が届く価格)」の危機を中心テーマに掲げている。医療、住宅、公教育、食料品といった「普通の生活」が手の届く水準でなくなってしまっている現状を改善すべく、「普通の人々」に寄り添うことを繰り返す演説はSNSなどで話題を呼び、すでに全国区の注目を集めている。

対する共和党のケン・パクストン候補はテキサス州の司法長官を務め、トランプとも近しい人物だ。

トランプの支持を受け、予備選で現職を破ったが、過去には汚職疑惑で弾劾訴追されたほか、女性問題などのスキャンダルも抱える。攻撃的な鋭い弁舌が持ち味で、今回もタラリコを繰り返し「Low-T(テストステロンが少ない=男らしくない)」と揶揄してきた。

しかし、直近の世論調査ではタラリコが約3ポイント差でリードと報じられており、共和党陣営はパクストン支援に巨額の資金を追加投入しているという。

テキサス州の共和党候補、ケン・パクストン氏。不倫など複数のスキャンダルを抱えながらもトランプの支持で党内予備選を勝ち抜いたが、中間選挙での苦戦は必至かテキサス州の共和党候補、ケン・パクストン氏。不倫など複数のスキャンダルを抱えながらもトランプの支持で党内予備選を勝ち抜いたが、中間選挙での苦戦は必至か

【俺たち「タラフリーコ」】

テキサス州の〝異変〟をこの目で確かめるため10月、筆者は同州を訪れた。

最初に訪れたのは州最大の都市、ヒューストン。NASAを擁し、石油・エネルギー産業の大企業が集まる全米第4の都市だ。人口は約240万人で、そのうち44%がヒスパニック、23%が黒人である。州でも有数の多様さを持つこの街で、さまざまな人に中間選挙に対する思いを聞いた。

まず、市の中心部を訪ねた。新しい高層ビルの建設が進むダウンタウンから歩いて15分もすれば、アパートが立ち並び、人々の生活が見えてくる。アメリカでは選挙戦の前に、住民が支持する候補者の名前を看板にして掲げるのを目にするが、ハロウィーンの装飾がなされるアパートに「タラリコforテキサス」のボードを見つけた。

その近くで犬の散歩をしている女性のTシャツに目が行った。Tシャツには「I'm a Talafreako(私はタラフリーコ)」の文字。この言葉はもともと共和党陣営がタラリコを罵倒する意味で放った言葉だ。freakには「おかしなやつ」「変人」という意味があり、パクストンやトランプは「変人のタラリコ」という意味で「タラフリーコ」と繰り返し呼んだ。

しかしfreakには「マニア」や「大ファン」の意味もある。タラリコの支持者たちは揶揄(やゆ)を逆手に取り「タラリコの大ファン」という意思表示へと変換したのだ。この「タラフリーコTシャツ」は現在、タラリコ支持者の間で人気グッズになっているという。

5月31日、テキサス州のオースティン郊外で開かれたタラリコ氏の演説会。約2000人と推定される聴衆の様子5月31日、テキサス州のオースティン郊外で開かれたタラリコ氏の演説会。約2000人と推定される聴衆の様子

続いて訪れたのは中心部から車で40分ほどに位置するマグノリア・パーク。人口の89%がヒスパニックのこの地域は、前回の大統領選挙で共和党への票が大きく伸びたエリアとしても知られている。テキサス州では前回、ラティーノ(ラテンアメリカ系)有権者の55%がトランプに投票したと報じられた。

地元で人気のタコス屋で隣の席に座ったティトさん(男性、30歳)に話を聞いた。

「俺は正直、前回はトランプに入れた。俺の両親は移民としてアメリカにやって来て、必死の思いで俺を育てた。裕福じゃない中で俺も頑張ってなんとか暮らしてるのに、ここから大量に移民を受け入れちゃフェアじゃない。

そう思ったからトランプに入れた。でも今トランプがやってることはひどい。ICEはアミーゴ(友達)もファミリーもみんな逮捕した。そのために票を入れたんじゃない。だったら今回は消去法でタラリコだ」

店の奥で3人の子供と食事をしていたジュディスさん(女性、34歳)も話しかけてきた。

「タラリコのことをインタビューしてるの? 彼は誠実そうね。クリスチャンだし、好感を持てるわね」

すると横でスマホをいじっていた夫はため息をつく。

「俺はどちらにも投票しない。今メディアはそうやってタラリコを持ち上げるが、どうせ俺たちの生活は何も変わらない。テキサスではまず変わるのは白人の生活からだ。いつも俺たちは後回し」

ジュディスさんは苦笑いを浮かべ、スペイン語で「Si(そうね)」と返した。

最後に訪れたのはサードワードと呼ばれる地域。人口の多くが黒人系で、伝統的に黒人教会や文化施設などが集まるコミュニティだ。

民主党の予備選では黒人女性のジャスミン・クロケットが出馬しタラリコに敗れたが、この地域では多くの人々が彼女に投票した。

タラリコ陣営も黒人票の獲得が今回の中間選挙の鍵ととらえ、戸別訪問やイベント、地域のコミュニティへの出向などを通して黒人有権者に積極的かつ重点的にアピールすることを計画しており、その費用として2500万ドル(約40億円)を計上している。

街の中心に位置する黒人大学「テキサス・サザン大学」で経営学を専攻するミックさん(男性、21歳)はこう話す。

「本音を言えばジャスミン・クロケットのほうが良かったですが、タラリコにも期待しています。黒人としては、彼の言う『上と下』の政治問題に切り込んでほしい。おそらく彼自身もこの街の重要度をわかっていると思いますよ」

タラリコが言う「上と下」とは、アメリカの政治対立の構図を「保守とリベラル」ではなく、「少数の富裕層、政治権力者(=上)」と「一般市民、労働者階級(=下)」としてとらえる考え方だ。

タラリコは今年6月、このサードワードを訪れている。地元のチキンの名店「ミッキーズ」に来店し、ソウルフードのスマザードチキン(煮込んだ鶏にグレービーソースをかけた一品)を注文し有権者と交流する〝アピール〟をしてみせた。その際、注文を取った店員のアリスさん(女性、54歳)はタラリコについて、こう振り返る。

「好青年だったわ。グッドボーイって感じ! エリートっぽくないのが好印象ね」

タラリコ氏も注文したという名物「スマザードチキン」。約18ドル(約2800円)タラリコ氏も注文したという名物「スマザードチキン」。約18ドル(約2800円)

【クレメンスとギリスの凱旋】

この「エリートっぽくなさ」、言い換えると「エリートへの反発」が、今回の選挙戦のキーワードだ。

24年の大統領選敗北以降、民主党内では大きな反省があった。それは有権者が家賃や食費、医療費に苦しむ一方で、党はトランスジェンダー政策やDEI(多様性・公平性・包摂性)政策などにこだわり、「都市部の高学歴層」の党に見えてしまったのではないか、というものだ。

実際、共和党は「普通の人の感覚から離れたウォーク(差別に敏感な)エリート」として民主党を描く広告を大量投入し、これが同党にとって痛手となった。

しかし今、民主党は「上から目線で『正しい』ことを押しつけてくる党」という見え方を警戒し、「生活と直結する問題」を入り口に選挙戦を展開している。

この変化は他州でも見られる。ノースカロライナ州のロイ・クーパーは医療費や生活費の負担軽減を前面に出し、サウスカロライナ州のナンシー・ラコアもアフォーダビリティと穏健さを掲げる。

一方で「脱エリート」の選挙戦略は共和党でも顕著だ。元来、エリートへの反発は「MAGA(Make America Great Again=アメリカを再び偉大に)」の信条と重なる。16年の大統領選で共和党はワシントンのエリートやメディア、ハリウッドなどに対抗、「忘れ去られた人々」のための政治を標榜し、勝利を収めたが、今回の中間選挙でもその軸は変わらない。

テキサス州で今年10月に行なわれた共和党の集会においてこんな一幕があった。支持者たちを前にしたトランプが突如、MLBの往年の大投手ロジャー・クレメンス(テキサス育ち)に、大統領自由勲章を授与すると発表したのだ。

自由勲章とは文民に送られる最高位の栄誉。通算354勝を挙げながら、薬物疑惑でMLBの殿堂入りを認められなかったクレメンスへの勲章授与は、既存のエリート組織から認められなかった彼を、トランプ自らがたたえ、救うという語りを演出する狙いがあるように見える。

そしてエンタメ界においても、この「反エリート」のトレンドがテキサスから全国へと波及している。アメリカを代表する大衆文化、スタンダップコメディの世界で近年起きていることを紹介したい。

コロナ禍中、カリフォルニアの厳しい規制やキャンセルカルチャーに反発したコメディアンの一群がテキサスへ移り住んだ。彼らはオースティンを中心に自由で攻めた笑いを目指したが、その代表的な存在となったのがシェーン・ギリスだ。

もともと過去の差別的発言でNBCの番組から解雇されていたギリスだが、オースティンでのライブをYouTubeに公開すると人気が拡大し、あっという間に全国区へカムバックを果たした。自身を解雇したNBCの番組にも〝凱旋〟を果たすと、ネットフリックスでも冠番組を制作し、まさに全米屈指の人気コメディアンへと成長した。

解雇からわずか5年でのスターへの過程はまさに、テレビという既存の「エリート」による承認を得ないものだった。ギリスも自身を「既存の枠を超え、ルールに挑戦するコメディアン」と評しているように、議論を呼ぶネタを大舞台で繰り返している。

ヒューストンで連日にぎわいを見せるコメディの劇場「ザ・ライオット」の舞台に連日立つコメディアン、トリップ・トルーマン(男性、23歳)は「ギリスを尊敬している」と話す。

「ギリスの活躍は僕たちに勇気をくれる。『これを言っちゃダメ』『そんなのには誰も笑わない』っていう誰かが偉そうに作ったルールの中で縛られなくてもいいんだって希望を見せてくれてるんだ」

過激なネタで聴衆の笑いをさらう、スタンダップコメディアンのトリップ・トルーマン過激なネタで聴衆の笑いをさらう、スタンダップコメディアンのトリップ・トルーマン

そんな彼も舞台上で人工妊娠中絶や同性婚といった触れにくい話題に関する攻めたジョークを連発し、会場の爆笑をさらっていた。

トルーマンはニヤリと笑う。「僕は今回の中間選挙、僕のジョークを笑ってくれる候補に入れるよ」

アメリカを覆う反エリートの機運は今回の中間選挙にどんな結果をもたらすのか。

Saku YANAGAWA氏Saku YANAGAWA氏

●Saku YANAGAWA
1992年生まれ。アメリカ・シカゴで活動する日本人スタンダップコメディアン。シカゴのクラブにレギュラー出演しながら、全米でツアー公演を行なう。2021年、フォーブス・アジア「世界を変える30歳以下の30人」選出。著書に『スタンダップコメディ入門』(フィルムアート社)や『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)ほか。公式Instagram【@saku_yanagawa】

  • Saku YANAGAWA

    Saku YANAGAWA

    さく・やながわ

    1992年生まれ。アメリカ・シカゴで活動する日本人スタンダップコメディアン。シカゴのクラブにレギュラー出演しながら、全米でツアー公演を行なう。2021年、フォーブス・アジア「世界を変える30歳以下の30人」選出。著書に『スタンダップコメディ入門』(フィルムアート社)や『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)ほか。公式Instagram【@saku_yanagawa】

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