市川紗椰がたたえるコロッケの優秀さ「コロッケよ、この値段で本当にいいんですか」

いま一度みんなでコロッケをたたえましょういま一度みんなでコロッケをたたえましょう

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「コロッケ」について語る。

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この連載でも何度も語っている、コロッケ。2026年、あらためてコロッケと向き合う。その結果、私の結論=コロッケって優秀。

まずは値段。「コロッケよ、この値段で本当にいいんですか」と思ってしまいます。スーパーのお惣菜(そうざい)売り場で80円。商店街の肉屋さんで100円。昨今、なんでも値上がりしているのに、コロッケだけは妙に踏ん張っている。もちろん昔よりは値上がりしている。でも、体感としてはまだ「小銭で買える食べ物」の側にいる。メンチカツがちょっと偉くなり、唐揚げもそれなりの顔をするようになった中、コロッケはまだ庶民派。

しかし、自分で作ったことがある人ならわかるはず。コロッケにかかる手間は全然、庶民的ではないのです。

まずジャガイモをゆでる。皮をむく。潰す。タマネギを刻む。泣く。ひき肉と炒める。混ぜる。冷ます。成形する。小麦粉、溶き卵、パン粉という3つの関所を通過させ、ようやく油で揚げる。しかも食べ終わった後には、油の処理という巨大な問題が残されている。これだけやって、完成するのがコロッケ。

労働と社会的評価がまったく釣り合っていない。もしレストランでイチから作ればけっこうな仕事なのに、肉屋では紙袋に入れられて「はい、100円」。最近はおにぎりもパンもずいぶん立派な値段になりました。その横でコロッケだけが「まあまあ、私は100円くらいで」と言っている。材料費だけでなく、あの工程まで込み。コロッケには、自分の労働価値をもう少し主張してほしい。

街中での存在感も優秀。街を歩いていると、コロッケは突然現れる。観光ガイドには載っていない精肉店。駅前のなんてことないスーパー。商店街の惣菜屋さん。観光名所でもないし、わざわざ検索するほどでもない。でも見つけると買いたくなる。たい焼きやソフトクリームほど「食べ歩きでどうぞ」という顔もしていないので、ただ紙に包まれた熱い物体を持って歩くことになる。急にコロッケに遭遇したときの幸福感、最高です。

もちろん味わいも優秀。まず食感の設計と満足度。揚げたてを割る。ザクッと衣が裂け、その直後に現れるのは、ほとんど抵抗のないイモの壁。外側は油で水分を飛ばしてカリカリにしているのに、内側には水分を抱えたホクホクを閉じ込めている。ひと口の中で「乾燥」と「湿潤」が隣り合っている。ソースをかければ、最初は衣の表面にのっているのに、数分後には染み込み始める。この「カリッ→じゅわっ→しんなり」の時間変化まで含めてコロッケ。

形まで味の一部になっているのも好き。薄い小判形は衣の比率が上がってサクサク寄り。分厚い俵形はイモを食べる感じが強い。つまり同じ重量でも表面積で性格が変わる。地味に幾何学的な食べ物。コロッケは勉強になる。

パンに挟めばコロッケパンになり、ご飯のおかずにもなり、立ったままでも食べられる。ソースなしでも成立するし、ソースをドバドバかけても怒られない。冷めたら冷めたで、あの少し油の回った衣が妙にうまい。すべてにおいて優秀なコロッケ。

もっとコロッケに感謝と栄光を。

●市川紗椰 
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。10年前にこの連載で取り上げた竜ヶ崎線のコロッケトレインにまた乗りたい。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!

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