
吉井透
吉井透の記事一覧
フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中
中国による言論統制や検閲が、その対象を海外にまで広げはじめている
重電メーカー大手の中国現地法人の日本人社員が5月以来、遼寧省大連で中国当局に拘束されていることが分かった。中国が輸出規制を敷くレアアース関連の物品を、国外へ持ち出そうとしたことが法令違反と見なされた可能性があるとされている。
また2023年、中国・北京で日本の製薬会社の日本人男性幹部(60代)が反スパイ法違反容疑で拘束され、翌24年に起訴された事件では、現在も中国で裁判・拘束が続いている。中国では2014年以降、日本人17人がスパイ容疑で拘束され、今なお5人が拘束中だ。
さらに今後は、一般の観光客までもが中国で拘束されるリスクが浮上している。発端は、7月1日に中国で施行された「中華人民共和国民族団結進歩促進法(民族団結法)』である。
中国事情に詳しいジャーナリストが解説する。
「少数民族を含めた『中華民族共同体意識』の強化を目的とする同法は、民族団結の促進や民族分裂の防止を掲げ、教育、インターネット、文化活動など幅広い分野を対象としています。なかでも注目されているのが第63条で、中国国外にいる個人や団体が『民族団結と進歩を損なう行為』や『民族分裂を扇動する行為』を行った場合でも、中国の法律に基づいて法的責任を追及できると規定しています。
さらに、国外で行われた言動についても法的責任を追及できるとする『域外適用条項』も盛り込まれており、中国以外の国で行った発言やSNSの書き込みなどが中国渡航時に問題視され、処罰される可能性も否定できません。中国国籍ではない外国人も罰則の対象から排除されていないため、日本人が過去に日本で行った投稿内容が、中国当局によって『民族分裂を扇動した』と判断されれば、中国出入国時に事情聴取や捜査対象となる可能性は理論上否定できないのです」(ジャーナリスト)
中国の反スパイ法に反したとして、2014年以降、日本人17人が拘束され、今なお5人が拘束中だ
6月24日、中国司法省の胡衛列次官は記者会見で、「海外適用は国際的にも一般的な考え方であり、国外から行われる違法行為を防ぐために必要な措置だ」と説明。一方で、「通常の人的交流、学術的議論、経済・貿易活動には影響しない」とも強調し、西側メディアによる「誤った解釈」だと批判している。
しかし実際、中国や香港では近年、域外での言動が後に処罰対象となった事例が存在する。香港国家安全維持法では、日本留学中にSNSへ投稿した内容が問題視され、帰港後に有罪となった事例も報告されており、域外適用の実例がある。民族団結法についても同様の運用が行われるのではないかという危惧は、荒唐無稽とは言い難い。
そんななか、中国との関係が深い民間企業でも警戒が高まっていると言う。都内の専門商社の社員が話す。
「7月1日以降、うちの会社では中国出張時に個人用のスマートフォンやタブレット、ノートパソコンを持参することが不可となり、会社貸与の通信端末のみを持参することになりました。渡航中のSNSへのログインも禁止です。出入国時に通信端末の中身を確認され、難癖をつけられることだけでなく、中国国内でのWi-Fi接続などにより通信内容を覗かれる可能性を警戒しての措置です」(専門商社社員)
中国側から問題視されかねないのはSNS上の振る舞いだけではない。今年4月に北京を訪問した30代の男性はこんな体験をした。
「7日間の旅程を終え、北京空港から帰国しようとしていた私は、出国審査で2人の職員に促されて別室に連れて行かれました。そこで『あなたは○月○日に北京市内の○○と言う場所にいましたね?』と翻訳アプリを使って聞かれ、ある特定の時間のカメラロールを見せるよう要求されました。
私はいわゆる撮り鉄で、列車が通るのを見渡せるその場所からその時間、40枚ほどの写真を撮っていました。職員はそれらを確認し終えると、『協力ありがとうございました』と言って私を解放しましたが、『拘束されるかも?』と思い肝を冷やしました。しかし今でも不思議なのは、なぜ私の行動をそんなにピンポイントで把握していたかと言うこと。中国の路上には防犯カメラがたくさんあるとはいえ、不可思議です」(30代男性)
前出の専門商社社員も、中国出国時にトラブルになった経験があるという。
「3泊の出張を終えて上海からの帰国便に搭乗しようとしたところ、出国審査で『昨日の夜はどこに泊まったのか?』と聞かれました。その夜は、ホテルに泊まらず、中国人の友人の家に泊めてもらっていたのです。実は中国では、ホテル以外に宿泊する際には、管轄の派出所に届出を出さなければならないのですが、それを怠っていたのです。その場で宿主の友人と連絡が取れたことで厳重注意で済みましたが、『次回からは罰金2000元だ』と念を押されました」
商用や観光で訪中の際には、くれぐれもこの監視社会を侮ってはいけない。