2021年10月、津軽海峡を堂々と通航する中露連合艦隊(写真:防衛省統合幕僚監部)
開放に向かいながらもいまだ不安定なホルムズ海峡。『週刊プレイボーイ』27号では、イラン戦争が収束したとて、これからの石油物流に大きな変化が訪れると予測した。しかし、海峡封鎖が国際社会に認められてしまえば、その影響は石油物流だけでは済まなくなる。そして、その"新常態(ニューノーマル)"の最前線は日本になっている――。
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ホルムズ海峡は開戦後、「航行サービス料」を徴収するようになった。開放後もこの仕組みを続ける構えだ。イランは「通航料ではない」としているが、これが国際社会に認められてしまえば、海峡を押さえている国や勢力も同じ手法を取る可能性は大きい。
しかし、地政学・戦略学を専門とする奥山真司氏(多摩大学大学院客員教授)は、実際にその兆しがあると言う。
「マラッカ海峡がそうなんですよ。なんとインドネシアが『我々も通航料を取りたい』というようなことを言っています。ただ、シンガポールと、マレーシアから袋叩きにあって、引っ込めるみたいな話も出ています」(奥山氏)
ただ、海峡封鎖が及ぼす影響は経済面だけにとどまらない。19世紀の米国の海洋戦略家・マハンが言った「海を制すものが世界を制す」がよみがえり始めている。そして、その最前線は日本周辺の海峡だ。中国の動きによれば、すでにそうなりつつあるのだ。
5月に行なわれた米中首脳会談で、対米融和した中国は100隻以上もの軍艦や公船を日本、台湾、フィリピンへと一気に展開した。
すでに九州南端から台湾にかけての約1200kmにわたる南西諸島の各海峡は、いつでも封鎖可能だ。さらに台湾は中国軍艦船で包囲され、フィリピンの西海岸から南シナ海にかけては占領状態になっている。
また、5月26日から中国空母「遼寧」などを伴う艦隊が、宮古島南方で発着艦訓練を開始。6月22日には宮古海峡を北西に抜けて東シナ海に入った。40日間近く日本の南、西太平洋で発着艦訓練などの長期航海をしていたことになる。
さらに太平洋と東シナ海を結ぶ中間点にある大隅海峡付近では、6月27日から7月1日にかけて4隻の中国海軍駆逐艦、フリゲート艦が通過している。
中国海軍空母遼寧とその艦隊は、40日近くの長期訓練を行い、宮古海峡から東シナ海に入った(写真:防衛省統合幕僚監部)
台湾有事に向けて海峡封鎖の構えを見せている中国。ならば、日本も海峡封鎖で対抗することが可能ではないのか?
【特定海域は必要なのか】
まず、経済面から考えてみよう。米中融和によって、5月の中国の対米貿易の輸出は19.4%、輸入は27.45%増えた。日本に関わる海路としては、シアトル行きが対馬海峡、津軽海峡を抜け、サンフランシスコ行きは大隅海峡を通っている。
海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長、第二潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏はこう言う。
「中国の弱点はシーレーン(重要な海上交通路)にある、という着眼点は正しいと思います。
ただし、対馬、津軽、大隅の各海峡は国際海峡ではなく、日本が自ら指定した『特定海域』です。領海を3マイルにして真ん中に公海を残しています。つまり、平時にここを封鎖すると、日本は法的にも外交的にも非常に危ういことになります」(伊藤元海将)
そのうえで、「特定海域制度の廃止」を訴えるのは、米海軍系シンクタンクで戦略アドバイザーを務め、海洋法に詳しい北村淳氏だ。
「日本独特の特定海域という制度を廃止すべきです。そうすることで津軽海峡と大隈海峡は全域日本の領海となり、対馬海峡東水道の大部分も日本の領海となります。すると、国連海洋法条約によって国際海峡に指定されるので、軍艦も商船も通航でき、潜水艦は潜航状態で通過可能になります。
日本には不利という意見もありますが、それは誤りです。国際海峡として、あらゆる船舶への通行権を認めるといっても、日本の主権が及ぶため日本に管轄権があります。細かく航路の指定ができる上、当然ながらソナーやレーダーなどの軍事的設備で監視することは日本の権利となり、潜水艦を含めて通過する艦艇船舶は日本のコントロール下に入ります。特定海域制度の廃止の世論を盛り上げねばなりません」(北村氏)
この特定海域が制定されたのは、約半世紀前の1977年。非核三原則を堅持しながら、米海軍の空母や原潜の通過を可能にするため、与党自民党が苦肉の策として編み出した。そして、日本は米国の核の傘の下に入り、米ソ冷戦を乗り切った。
しかし、今ではこの特定海域が中露によって利用されている。2021年10月には、中露連合艦隊の計10隻が日本を一周した。それ以降、中露はたびたび日米への牽制と存在感誇示のため、この特定海域を利用している。日本の特定海域は、中露のために存在しているともいえる状態なのだ。
ならば、特定海域を廃止すれば軍事的メリットもある上、ホルムズ海峡封鎖のように中国経済へ影響があるのでは? これに対して、伊藤元海将は異を唱える。
「『中国経済が止められる』というのは、地理的にも法的にも過大評価ではないかと考えます。中国の対米海上貿易は、対馬、津軽、大隅よりも、台湾―フィリピン間のバシー海峡がメインですから。そこはどうにもできません」(伊藤元海将)
【封鎖すべきは「宮古海峡」】
軍事的メリットはあるが、海上封鎖で中国経済にダメージを与えることは難しい。しかし、軍事面を考えれば、「むしろ日本が先に封鎖するなら、宮古海峡のほうがメリットは大きい」と伊藤元海将は続ける。
「基本的に中国海軍の太平洋進出に、宮古海峡が使われています。この宮古海峡の使用拒否であれば、中国海軍に対する抑止策となります」(伊藤元海将)
中国は宮古海峡を通り、首都圏核攻撃を示唆している。6月26日にも中露爆撃機計4機が、中国戦闘機の護衛付きで宮古海峡を通過し、四国沖、太平洋上空まで飛行した。核弾頭長距離ミサイルが撃たれれば、関東平野は消滅する......。
たしかにここを封鎖することは中国への牽制になるかもしれない。しかし、宮古海峡の幅は300㎞。海峡の全海域が日本国領海にならない宮古海峡はどのように封鎖するのか?


中露爆撃機4機は、中国軍戦闘機の警護を受けて、宮古海峡から左旋回、四国沖まで 武力誇示飛行をした(写真:撮影航空自衛隊 提供:防衛省 統合幕僚監部)
陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長を務めた二見龍氏(元陸将補)はこう言う。
「宮古、石垣に配備されている12式地対艦ミサイル部隊はそのままで、本土から新しい部隊を持ってきて、宮古島東岸と沖縄本島に宮古海峡を挟むように配備します。同時に、住民の有事の退避壕を建設するとして、地対艦ミサイルの射撃、予備陣地を山ほど作ります」(二見元陸将補)
しかし、平時には何もできない......。
「北朝鮮と同じように、宮古海峡の一定海域と空域を射撃演習海空域に指定すれば問題ありません。そして、地対艦ミサイルの発射訓練をします」(二見元陸将補)
海と同時に、その上空の空域を安全にするためにも封鎖しなければならない。空自の地対空ミサイルと、戦闘機部隊がその空域の外側を封鎖、海上には海自イージス艦が空に睨(にら)みを効かす。中国空軍爆撃機部隊も接近は難しくなる。
「さらに、『国籍不明の機雷が発見されたので宮古海峡海域を掃海します』として、掃海します。その次は、『水中ドローンの運用試験をします』と海域を指定します」(二見元陸将補)
中露が威嚇するならば、こちらも口実を設けて色々と訓練を実施するのだ。前出の奥山真司氏はこう話す。
「地政学的には、この戦略ではアメリカは日本が頼りになると思いますね。同じような方法で一時期、大英帝国がどこかにナンバー1の国が出て来るのを抑えた歴史があります。
脅威となるランドパワーが出現すると、大英帝国のようなシーパワー国家はそのランドパワー国家の周辺国と連携して抑えにかかります。ドイツが台頭するとフランスと組み、フランスが台頭するとロシアやドイツと組みます。アメリカも同じことをしています。ソ連が台頭するとトルコや(西)ドイツ、さらには日本と組んだことが冷戦期の特徴でした」(奥山氏)
ホルムズ海峡を封鎖するイランには紅海のインド洋への出口、マンデブ海峡を封鎖するフーシ派がいる。日本はアメリカにとってのフーシ派となるのだ。日本の生き残りには非核兵器海峡封鎖は必須であるといえるのではないか。