都市圏で急増中の"ペンシルハウス"が選ばれるのは安さだけじゃない! 読めば住みたくなる「狭小住宅」最前線

取材・文/興山英雄

西武鉄道練馬駅(東京都練馬区)から徒歩5分の住宅地に立つ5階建ての賃貸マンション。2~4階には約11㎡の狭小住戸が3室あり、現在は満室となっている。細長い三角形の建物形状が特徴で、先端部は幅わずか60cmという細さだ(撮影/興山英雄)西武鉄道練馬駅(東京都練馬区)から徒歩5分の住宅地に立つ5階建ての賃貸マンション。2~4階には約11㎡の狭小住戸が3室あり、現在は満室となっている。細長い三角形の建物形状が特徴で、先端部は幅わずか60cmという細さだ(撮影/興山英雄)

狭小地に立つ細長い住宅を〝ペンシルハウス〟と呼ぶ。いま、そんな家が都市部で増えてきている。ただ、「一戸建てが買えない人の消極的な選択」と思うなかれ。建築の現場では狭さを軽減させる工夫の数々があった。住まいの選択肢としてマジで考えたくなる、そんな狭小住宅の最前線を取材した!

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【ニーズが高まる理由】

国土交通省は、「健康で文化的な住生活」を送るために必要な住宅の広さとして、「最低居住面積水準」を定めている。その目安は単身世帯で25㎡、2人世帯で30㎡、4人家族で50㎡だ。ちなみに、25㎡は15畳ほどの広さで、浴室やトイレなどを除いた居住スペースは、10畳前後のワンルームに相当する。

この基準を下回る、いわゆる「狭小住宅」は、人口が密集する大都市部に多い。

東京都の統計(2023年)によると、都内全世帯の17.8%、約130万世帯がこの基準未満の住宅に暮らす。賃貸住宅に限ればその割合は21.8%に上り、約5軒に1軒が「最低限の広さ」を満たしていない計算だ。

さらに、国の基準を大きく下回る〝超狭小〟住宅も。大手不動産情報サイトで東京23区内を検索すると、居住スペースが5~6畳になる15㎡の物件は約3500件。さらに、ベッドと机を置くだけで居室の大半が埋まる10㎡以下の物件も約500件ある。

狭小住宅に詳しい「らくだ不動産」の不動産エージェント、鈴木成禎氏がこう語る。

「不動産価格が高騰中の都心部では、狭小住宅の供給が増えています。標準的な広さの住宅は中間層でも手が届きにくくなり、土地や建物を小さくして価格を抑える動きが強まっているのです。都心暮らしへの根強い需要を背景に、住宅の狭小化が加速している状況です」

こうした流れを後押しする政策転換もあった。

政府は今年3月、今後10年間の住宅政策の指針となる「住生活基本計画」を閣議決定。その中で、冒頭に記した「最低居住面積水準」の項目が削除された。この水準は法的な拘束力を持たず、あくまで行政上の目安に過ぎないが、この基準が撤廃されたことで、狭小住宅の供給はさらに勢いづきそうだ。

狭小住宅は業者にとって、こんなメリットがあるという。

「土地を細かく分けるほど、地主も不動産会社も利益が増えます」

例えば、業者が200㎡の土地を地主から仕入れたとする。これを50㎡ずつ4区画に分譲するよりも、40㎡ずつ5区画に切り分けたほうが販売戸数を増やせる。

「不動産会社は1棟ごとに利益を上乗せすることが多く、その数が多いほうが利益の総額は大きくなる。その見込みがあれば、地主にも高い買い取り価格を提示できるため、土地の仕入れ競争でも圧倒的に有利になります」

さらに、買い手側にもメリットが生まれる。

「土地と建物が小さくなれば、そのぶん分譲価格は抑えられる。都心志向が強い層にとっては、十分に現実的な選択肢になるのです」

【狭小住宅の建築テク】

では、こうした狭小住宅はどのように建てられるのか。

一戸建てには大きく分けて建売住宅と注文住宅がある。前者は不動産会社が土地を仕入れて建築・販売するものだが、後者は土地探しの段階から施主と建築士が伴走、ゼロから住まいを構築していく。

狭小注文住宅を数多く手がける設計事務所「アナザーアパートメント」の小林 剛氏(一級建築士)の元には、「この土地に家は建ちますか?」という相談が持ち込まれることが多いという。その多くは、不動産サイトで見つけた狭小地や、親から相続したものの狭すぎて活用できず、長年放置されてきた土地だ。

小林氏が手がけた東京都荒川区の住宅も、まさにそんな使い道のない土地から始まった。依頼主が見つけたのは、間口約2.7m、奥行き11mという細長い敷地だ。周囲は建物に囲まれ、およそ住宅用地には見えない。

小林氏が設計した東京都荒川区の狭小住宅。敷地の間口は2.7m、建築面積は5坪。狭小住宅を得意とする同氏にとっても過去最小という狭小物件だ。1階は賃貸、2階は施主夫婦の住まい。写真提供/アナザーアパートメント(株)小林氏が設計した東京都荒川区の狭小住宅。敷地の間口は2.7m、建築面積は5坪。狭小住宅を得意とする同氏にとっても過去最小という狭小物件だ。1階は賃貸、2階は施主夫婦の住まい。写真提供/アナザーアパートメント(株)

上写真の物件の着工前。現地を視察に訪れた小林氏は「ただの路地だと思い数回通り過ぎた」写真提供/アナザーアパートメント(株)上写真の物件の着工前。現地を視察に訪れた小林氏は「ただの路地だと思い数回通り過ぎた」写真提供/アナザーアパートメント(株)

幅約1.8mの極細ながら、天井高3.5mとロフトで高さを生かし、窮屈さを感じさせない設計に。写真提供/アナザーアパートメント(株)幅約1.8mの極細ながら、天井高3.5mとロフトで高さを生かし、窮屈さを感じさせない設計に。写真提供/アナザーアパートメント(株)

段差や壁を設けず、リビングから浴室までをワンルームでつなぐ。空間の抜けが広さを生む。写真提供/アナザーアパートメント(株)段差や壁を設けず、リビングから浴室までをワンルームでつなぐ。空間の抜けが広さを生む。写真提供/アナザーアパートメント(株)

人ひとり通るのがやっとの廊下。この極限の狭さをストレスと感じるか、面白がれるか......? 写真提供/アナザーアパートメント(株)人ひとり通るのがやっとの廊下。この極限の狭さをストレスと感じるか、面白がれるか......? 写真提供/アナザーアパートメント(株)

だが、小林氏は「なんとかなる」と考えた。狭小住宅では、「面積よりも、容積で考えることが大事」だからだ。この細長い敷地も、そこに打開策があった。

一般的な住宅の天井高は2.4~2.5m程度だが、この住宅では3.5m近い高さを確保した。建物の間口は1.8mしか取れないが、ロフトや吹き抜けを巧みに組み合わせ、縦方向へと空間を広げたのだ。

小林氏は、「天井が高いだけで、空間の感じ方はまったく変わる」と、縦の空間活用の重要性を強調する。一方、狭小住宅に特化する設計事務所「設計工房」の久保宗一氏は、さらに大胆な発想で空間を拡張する。

同氏が手がけた、JR阿佐ケ谷駅(東京都杉並区)から徒歩10分の住宅は、敷地わずか5坪(約16㎡)。駐車場1台分ほどの広さしかない。しかも交差点に面した角地のため、敷地いっぱいに建てると車が曲がれなくなる。条例による制限を受け、実際に建築できる土地は「4坪」まで削られた。

普通なら建築そのものを諦めそうな条件だが、一歩室内に入ると窮屈さは感じない。その秘訣は、久保氏の設計思想である〝境界線の排除〟にある。室内の段差をなくし、壁や扉も極力設けない。久保氏が手がける物件では、浴室やトイレにまで扉をつけない住宅も少なくないという。

「もちろん施主の合意が前提ですが、必ずしもすべての部屋に扉や壁が必要とは限りません。視線を遮るものが減るだけで圧迫感は軽減され、結果として建築コストも抑えることができます」

もうひとつ、久保氏が重視するのが「光」の演出だ。天窓から取り込んだ自然光を1階まで届けるため、2階の床に光を透過する特殊素材を採用。建物の最下部まで光を落とし込む仕掛けを施している。

「抜けをつくることにより、空間は実際の面積以上に広く感じられます」

だが、こうした設計以上に難しいのが施工の現場だ。前出の荒川区の狭小住宅では、地盤改良用の重機が敷地に入らず、複数の業者から断られたという。

建築中も大型クレーンは使えず、資材の多くは人力で搬入。足場も一般的な仕様では組めないため、細い単管パイプを組み合わせる、文字どおり〝綱渡り〟のような現場になるケースも多い。

前出の鈴木氏は、「危険も手間も増えるため、狭小地の工事を敬遠する工務店や職人も多い」と明かす。対応できる施工会社はまれであるため、小林氏も「建築家同士のネットワークや紹介で施工会社を探すこともある」という。

【多様化する住人たち】

では、こうした狭小住宅には、どんな人たちが暮らしているのだろうか。

「狭小住宅といえば、かつては都心に家を持ちたい30代、40代の子育て世帯が中心でしたが、最近はその顔ぶれがかなり多様化しています」

前出の久保氏は現状を語る。例えば同氏が設計したJR上野駅(東京都台東区)の徒歩圏内に立つ敷地10坪の住宅は、60代女性の単身住まい。当初、女性は3階建てを希望していたが、久保氏は「将来的に階段の上り下りが負担になる」と見越しあえて2階建てを提案した。

JR上野駅近くに立つ久保氏設計の狭小住宅。高気密・高断熱の性能を重視した家に60代女性が暮らす。こちらも空間の抜け感のために、トイレ、洗面所の扉はつけていない(写真提供/設計工房)JR上野駅近くに立つ久保氏設計の狭小住宅。高気密・高断熱の性能を重視した家に60代女性が暮らす。こちらも空間の抜け感のために、トイレ、洗面所の扉はつけていない(写真提供/設計工房)

その代わり、断熱材にセルロースファイバーを採用して高気密・高断熱性能を徹底的に追求。24時間の熱交換換気システムを導入したほか、壁には珪藻土、内装には天然木をあしらうなど、住み心地の向上へと予算を集中させた。

「年齢を重ねるほど、家の中で過ごす時間は長くなります。だからこそ、広さよりも快適性を重視すべき。小さくても心地よく暮らせる〝ついのすみか〟を求める高齢層は着実に増えています」

同じく久保氏が手がけた埼玉県さいたま市内の敷地7坪の住宅の施主は、40代の独身男性だ。

敷地わずか7坪、間口2m。さいたま市内で長年放置されたデッドスペースに今年3月出現した超狭小住宅。久保氏が設計し、現在は40代独身男性の秘密基地に(写真提供/設計工房)敷地わずか7坪、間口2m。さいたま市内で長年放置されたデッドスペースに今年3月出現した超狭小住宅。久保氏が設計し、現在は40代独身男性の秘密基地に(写真提供/設計工房)

天窓からの自然光を1階まで届けるため2階床(1階天井)に透過素材を採用。最下部まで光を落とす仕掛けだ(写真提供/設計工房)天窓からの自然光を1階まで届けるため2階床(1階天井)に透過素材を採用。最下部まで光を落とす仕掛けだ(写真提供/設計工房)

「結婚しないという選択をする30代、40代の方が、ひとり暮らしを前提に、『自分のための家を建てたい』という依頼はもはや珍しくありません」

さらに興味深いのは、子育ての終わりを機に熟年離婚を選択した50代男性の事例だ。

「娘たちの独立を機に別々の道を歩もうと決めた」という男性が、新たな住まいに選んだのは都内に建てたわずか8坪の住宅だった。

1階には愛車のバイクやキャンプ用品が並び、仕事場や友人を招く場としても機能する。父親としての役目を終えて、これからは自由に暮らす――狭小住宅は、人生の転換期を迎えた単身シニアの新たな受け皿となっていた。

さて、先述したように狭小住宅は通常の住宅よりも価格面で大きな利点がある。

まずは土地代。敷地となるのは一般住宅には向かない変形地や旗竿地といった不整形地であることが少なくない。そのため、「周辺相場と比べて1~2割ほど低めに売り出されることが多い」(都内の不動産会社社員)という。

買い手がつきにくい土地ゆえに、価格交渉によって実勢価格が下がるケースも目立つ。ある建築士はこう明かす。

「都心部の駅から徒歩10分圏内で、約10坪の土地が800万円で売り出されていました。しかし、現地は間口約2mの細長い敷地で、車を入れてもドアが開かないほどの狭さ。コインパーキングなどの転用も難しく、評価がつきにくい土地だったからこそ、価格交渉の余地がありました。結果として、600万円まで引き下げることができたのです」

建物の価格も抑えやすい。この建築士によれば、「2階建てで延べ床面積が15坪程度であれば、建物だけで1500万~1700万円がひとつの目安。都心部であっても条件次第では、土地と建物を合わせて総額2000万円程度に収まるケースもある」という。

足元では建築資材の高騰により価格は上昇傾向にあるものの、都市部で安くマイホームを取得できる有力な選択肢であることは間違いない。

【落とし穴は「天井」と「隣人」】

狭小住宅選びの注意点について、前出の鈴木氏は「見落とされがちなポイントがふたつある」という。ひとつ目は天井高の問題だ。

「住宅地には日当たりや景観を守るため、建物の高さを制限する斜線規制がありますが、敷地が狭いほど、この制限は厳しく作用します。限られた高さ制限の中で3階建てを成立させようとすれば、各階の高さが削られやすい。一般的な住宅の天井高は約2.4mですが、狭小住宅では2.1~2.2m程度まで圧縮されることが少なくありません」

同様の理由で基礎部分(床下)を低く抑えた結果、点検口から人が入れず、将来のシロアリ被害や水漏れトラブルの修繕が大がかりになるリスクも潜む。鈴木氏は「入居した後に『思ったより天井が低い!』と気づくのが最悪のパターンです。契約前に必ず、天井高を確認してほしい」と注意喚起する。

もうひとつは「近隣関係」だ。特に警戒すべきは、分譲地に複数棟が並ぶ建て売りタイプの狭小住宅。密集して建つため、「隣家との距離が30cm程度しかないケースも珍しくない」という。

そのため、将来の外壁補修や建て替え時の隣地立ち入りが必要だったり、車庫入れで隣地をまたぐことが前提の設計だったりする物件も見られる。その結果、「うちの敷地に入らないで」「車をはみ出させないで」といった近隣トラブルに発展する例もある。

久保氏設計による東京都世田谷区の狭小住宅。間口1.8m、奥行き14m。元資材置き場を、直線移動のみ可能なトンネル風の家に再生。現在は40代男性がひとりで暮らす(写真提供/設計工房)久保氏設計による東京都世田谷区の狭小住宅。間口1.8m、奥行き14m。元資材置き場を、直線移動のみ可能なトンネル風の家に再生。現在は40代男性がひとりで暮らす(写真提供/設計工房)

すべての居室が中庭に面し、そこから採光する。空間の抜けをつくるため、トイレや浴室には扉を設けていない(写真提供/設計工房)すべての居室が中庭に面し、そこから採光する。空間の抜けをつくるため、トイレや浴室には扉を設けていない(写真提供/設計工房)

既存の地域住民から歓迎されないリスクもある。特に東京都世田谷区など、ゆとりある街並みを残す住宅街では細長い建物が乱立することへの反発や、「景観が損なわれた」といったネガティブな感情を抱かれる場合も......。

狭小住宅の購入は予算や間取りだけでなく、「どんな隣人と、どんな地域環境で暮らすか」をしっかり検討することも欠かせないようだ。

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