
渡辺雅史
わたなべ・まさし
渡辺雅史の記事一覧
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。
夏コミ開催中に配達をやってみました連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第164回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
* * *
毎年8月と12月に開催されるコミックマーケット。昨年8月は開催2日間でおよそ25万人、12月は2日間でおよそ30万人が来場したというビッグイベントは、私のようなウーバーイーツ自転車配達員にとって最高の稼ぎ場所です。
会場の東京ビッグサイトがある有明や隣接するお台場にはたくさんのホテルが建ち並び、期間中はコミケに参加する多くの人々が宿泊します。
コミケに精力を全振りしている方々は、ホテルの滞在時間で翌日に向けての体力の回復に充てたいと思っているのか、ウーバーイーツで夕食を頼む人が多く、開催1日目の夜は有明エリアのホテルに商品を運ぶ依頼がものすごく増えます。
ただし、有明エリアは土地勘のない自動車やバイク配達員だと、目的地までとんでもなく遠回りしてしまうリスクがあります。そのため、ここで稼ごうという自動車やバイク配達員は少なめです。また、自転車で行こうにも高低差のある大きな橋をいくつか渡らなければたどり着かないので、自転車配達員もあまりいません。つまり、注文は多いのに配達員が少ないという現象が起こり、いい感じに稼ぐことができます。
コミケ開催による需要上昇傾向は、2019年のコロナ以前からでしたが、当時は有明に飲食店があまりなく、3kmほど離れた豊洲エリアにある店の商品を運ぶのが主でした。そのため、配達料が多少高くても、商品受け渡し後に再び豊洲まで3km戻らなければならず、往復6km、受け渡し時間を含め30分ほど配達してもらえるのが600円から800円ほどと、高収入を得られる場ではありませんでした。
ところが20年、会場周辺のホテルまで数百メートルの場所に巨大商業施設「有明ガーデン」がオープンしたことで店→ホテル→店という流れが豊洲時代の6kmから1kmほどに。さらに、コロナによる入場制限が解除された23年の夏の開催以降は人出も戻り、自転車配達員が一夜だけ稼げる場所が誕生しました。
とはいえ、稼ぐことができるのは17時以降の5時間ほど。22時を過ぎると次の日の開催に備えて寝てしまうのか、配達依頼は一気に減ってしまいます。有明までの往復時間を考えると効率の悪い稼ぎ場所とも言えます。
なぜ私がそんな場所で配達をしているのか。それは、ホテルで商品を受け取る人のキャラクターが強いから。
ホテルの場合、基本はフロントでの商品受け渡しですが、多くは大手サークルの関係者と思われる、趣味ビジネスに興味があるといった雰囲気の方や、人気コスプレイヤーの周囲のスタッフの方と思われる、ワイシャツやスーツ姿の人。こういった方には「お盆の時期や年末にお仕事ご苦労様です」と思いつつ商品を渡していますが、心を惹かれる感じではありません。
一方、キャラ強なのはコスプレイヤーの方。女性の場合、ほとんどの人がすっぴんで疲れ切った顔。8月開催の場合はダルダルのTシャツに短パンで商品を受け取りにきます。
さらにキャラ強なのは男性の女装コスプレイヤー。華奢で女性っぽい体をして、肌もものすごくきれいなのに、メイクで隠していたであろうヒゲがうっすらと見えている感じ。自分の脳内で男性と女性の認識がバグる感覚はすごくシビれます。
コスプレイヤーの方々は会場でキャラクターになりきることにすべてを賭けているので、スーツケースの中はコスプレ用の衣装や小道具がぎっしり。ホテルで滞在する際の服を入れるスペースがないのでしょう。また、顔の筋肉をはじめ、キャラクターになりきるためのポーズを再現するので全身の筋肉を使い疲労がMAXとなっているのでしょう。フロントで商品を受け渡す際に現れる会場ですべてのエネルギーを出し切った感じと、次の日のために余計なエネルギーは一切使わないといったところにプロ意識が感じられて好感が持てます。
ワイシャツ、スーツ組でも、コスプレ組でもないけど、コミケには関わっているだろうなと感じさせるTシャツ姿の人も興味を惹かれます。
開催中の会場近くのホテルに宿泊するには相当なお金がかかるはず。にもかかわらず、ラフすぎる姿。このホクホクした顔は、相当な額を稼いだ大手サークルの作家さんなのか? 今、ここに泊まっているということは、2日目に参加する可能性が大きい。2日目は男の欲望が詰まった同人誌がたくさん並ぶ日。ということは......。なんて妄想が止まりません。
そんなわけで、この夏も開催1日目の8月15日夕方から有明エリアで配達をやってみました。
猛暑となる可能性もある8月開催は、屋外エリアでの活動が主体のコスプレイヤーにとって体力的にきつい季節。多くの注文が期待できます。
有明ガーデンに到着後、配達員用アプリのスイッチを入れて待機。すぐに依頼が届きますが、行き先を見ると有明エリアのタワーマンション。これを断り、ホテルからの依頼を待ちますが、依頼はタワーマンションのものばかり。
断ってばかりいても仕方ないので、距離の短い依頼を受けつつ有明ガーデン近くで配達していたのですが、ホテルへの配達依頼がまったく入りません。
20時を過ぎてようやくホテルからの依頼が入り、届けたのですが、受け取りに来たのは海外の方でした。何かのキャラクターが描かれたTシャツを着ていたので、おそらく昼間に同人誌を買い漁り、部屋でじっくり読みたいのでウーバーイーツを利用したのでしょう。
結局、ホテルからの依頼はこの1件だけでした。この日の東京の最高気温は29.7℃、日没後は25℃ほどだったので、コスプレイヤーの方などは1日目に体力をあまり消耗せずウーバーイーツを利用する人が少なかったのでしょう。おかげで1回あたりの稼ぎも400円から600円と例年より低く、この日はあまり稼ぐことができませんでした。
次回のコミックマーケットは12月29日から31日。今回より1日多い3日間の長期戦。気温が下がれば外に出るのが面倒となり、ウーバーイーツを頼むホテル宿泊者も増えると思うので、年末こそ有明エリアでガッポリ稼ごうと思います。