愛知・名古屋アジア大会が終幕。期間中のさまざまな"失態"はなぜ起きたのか?

取材・構成・撮影/ボールルーム 写真/共同通信社

熱戦が連日繰り広げられた一方、大会運営は......熱戦が連日繰り広げられた一方、大会運営は......

10月4日に幕を閉じたアジア大会。今大会は選手の輸送システムや宿泊施設、運営のミスなどさまざまな問題が浮き彫りになった。なぜこれらの問題は起こったのか!? 原因と今後の課題を探ってみた!

【トラブルはなぜ起こったのか!?】

10月4日に閉会式を終えた愛知・名古屋2026アジア競技大会。実に32年ぶりの日本開催で注目されたが、さまざまなトラブルや失態が浮き彫りになった。そのトラブルの一例を挙げていくと......。

●ホッケー男子の韓国戦で、韓国ではなく北朝鮮の国歌が流れた。

●近代五種団体男子の表彰式で、優勝した韓国の選手の国名が誤って紹介された。

●バドミントン女子の宮崎友花選手の試合が午前0時8分という深夜に始まった。

これらはおそらく運営の混乱が招いた不手際やヒューマンエラーが原因と考えられるが、さらに今大会で多かったのは選手の輸送ミスや宿泊施設の問題。

●バスケットボール男子決勝の日に韓国の送迎バスが配車されず、韓国は午前の練習を中止した。

●中国、インド、カザフスタンなどの選手や関係者が、送迎バスが来ず空港で数時間待たされた。5時間以上、食事なしで待ったケースもあった。

●サッカー男子の韓国代表とカタール代表のバスが隣の野球場へ向かい、到着が約30分遅れた。

●宿泊施設のコンテナハウスについて、ベッドの全長が195㎝と小さい、水漏れがある、などの苦情が出た。

選手村がつくられる予定だった名古屋競馬場跡地。円安と物価高騰から断念された選手村がつくられる予定だった名古屋競馬場跡地。円安と物価高騰から断念された

既存のホテルだけでなく、クルーズ船も宿泊施設として使われた既存のホテルだけでなく、クルーズ船も宿泊施設として使われた

これらの混乱の背景について、日本レスリング協会名誉副会長で今大会のレスリングの運営にも携わった至学館大学の谷岡郁子(くにこ)学長はこう語る。

「原因のひとつは運営の不慣れです。よく私は『大会運営は4次元パズル』なんて言うんですが、会場、全体のマネジメント、競技そのものの流れ、それが時系列でどう連携するかをお互い理解してつながっていないと、ちゃんとした運営にはならないんです。

そのためには自分がパズルの中のどのポジションにいて、周りとどうつながらないといけないのか見えていないといけないんですが、その大切さが今大会の組織委員会には少し欠けていたように思いました。そこが反省点です」

ただ、運営においてはさらに大きな問題が介在しているという。

「会場運営に長けた人間がいろんな判断をして、発生する問題に対してどこまでカバーできるかというと、実はさまざまな制約があってできないというのも事実なんです。

そのもとにあるのが、IOC(国際オリンピック委員会)やその傘下にあるOCA(アジア・オリンピック評議会)を含めたいろんな国際スポーツ団体の基本ルールです」

具体的にはどういうことなのだろうか。

「今回の愛知・名古屋アジア大会を例にして言いますと、あれをしろ、これはするなといったすべての権限は組織委員会ではなく、アジア大会の主催者であるOCAにあるんです。組織委員会はそこに逆らえない。

昨年から今年にかけてクリケット、パデル、テックボール、バーチャルテコンドーと競技種目が増えて、宿泊者数が契約以上になってしまったのですが、そういうことを平気で開催地の組織委員会に言ってくる文化がIOCやOCAにはあるんです」

競技種目を増やしたい理由はなんなのだろうか。

「競技ごとに、そのスポーツを扱う企業の利権がついてきます。また、その競技を推薦する国にいい顔ができます。今のOCAの役員は投票で決まるわけですから、彼らにとってそれは権力を維持していく手法でもあるわけで、いいことだらけなんです。

競技種目を増やす権限はOCAにあって、誰も文句を言えない。その結果、参加人数が増えて宿泊施設が足りない。競技が増えてオペレーションがさらに複雑になり、人が足りない。資金が足りない。泣くのは愛知・名古屋の組織委員会なんです」

宿泊施設に関しては当初、選手村を名古屋競馬場の跡地に建てて大会後は公営住宅にする予定だったが、円安や物価高騰を理由に2023年に断念。既存のホテルとクルーズ船の活用に切り替えたが、それでも足りないと見込まれ、25年にコンテナハウスを使うことも発表された。

選手の輸送もパンク状態であったことがうかがえた。

コンテナハウスのあるエリアに設けられた大型バス専用の駐車場に行くと、広大な敷地に大型バスが数え切れないほど並んでいるのだが、それぞれの車体を見ると「OSAKA」など、明らかに名古屋以外からかき集められたバスだった。近所で運送業に携わる住民はこう語ってくれた。

「確かに、ほとんどが急遽全国から集められた寄せ集めのバスでしょうね。運転手も名古屋の道などよく知らないはずですし、土地勘もないはず。この寄せ集めのバスに任せてしまっているところが、選手の送迎ミスが出る原因のひとつだと思います」

コンテナハウス近くの大型バス駐車場には「OSAKA」と車体に書かれた県外のバス会社のものと思われるバスも多かったコンテナハウス近くの大型バス駐車場には「OSAKA」と車体に書かれた県外のバス会社のものと思われるバスも多かった

【ノウハウのない代理店の参入】

そのほかにも、今大会は大きな変化があった。誘致から大会に携わる愛知県議会議員のひとりが語る。

「今大会は東京五輪での談合や汚職事件の影響で、国際スポーツ大会の運営ノウハウを持つ電通などの大手代理店が参加していません。

県や名古屋市の職員を中心とした組織委員会と地元の広告代理店に、フランス企業の日本法人の『GLイベンツジャパン』が協力するという体制でやっていたんですが、地元の代理店は国際スポーツ大会の運営に携わった経験がない。

そもそも『無理ゲー』だったのではないかと思うんです。今回のトラブルはすべてそこに起因している気がします」

ベッドが小さい、水漏れが起こったなど苦情が相次いだコンテナハウスベッドが小さい、水漏れが起こったなど苦情が相次いだコンテナハウス

コンテナハウスコンテナハウス

大会前の時点でかなりの不安があったという。

「開催の数ヵ月前だったと思います。チケットの購入に関して、組織委員会から県のほうに関係者向けのチケット販売サイトができたと伝えられたので、購入しようとしたら『こんな買い方をさせるの?』と言いたくなるやり方で、驚いたことがありました。

サイトにアクセスして、日時と競技種目を選ぶと次に『エクセルをダウンロードしてください』と出てくるんです。チケットを買うのになぜエクセルが必要になるのか? 『えっ』となりますよね。

パソコンに詳しくないお年寄りは絶対にチケットを買えないですし、パソコンに慣れた人でも、『こんな面倒くさいことをしてチケットなんか買ってられないわ』となってしまって当然です」

そうした不安が的中して、大会期間中もいろんなトラブルが起こった。

「そもそも大きな大会を運営したことがない人たちが無理してやろうとしていたから、そういう問題が出てきて当然なんです。それが一番の理由なのに、SNSでは大村(秀章)県知事が悪い、組織委員会が悪い、代理店が悪いなどとまるで〝犯人捜し〟のような内容が飛び交っています。

けれど、招致からずっと見てきた私から言わせれば、誰が悪いとかの問題ではなく、そもそもやったことのない人に無理なことをやらせているわけですから、うまくやれなくて当たり前だったんですよね」

失敗をレガシーにして次へ!

失態続きではあったけど、前出の谷岡学長は今大会のトラブルについて前向きにまとめてくれた。

「この失敗もレガシーだと思っています。失敗にも原因があるんです。だから今、大村知事と大会が終わったら検証するための組織体をつくりましょうと話しています。そこで課題の抽出をしっかりして改善の方法を探る。

そして、次に日本や世界で同じような大会を開催するときに参考となるように何が大事なのか、どこに気をつけないといけないのか今回の失敗の原因を追究して、正しい答えを出すべきだと思っています。

今の国際大会はどんどん営利主義、拝金主義に陥り、それがはびこっています。今回、大手代理店を排除して運営できたのは一定の評価ができると思います。今回の失敗を糧に、本来の目的である、アスリートたちが交流を深め、人々に感動を与える。アスリートが輝ける大会のあり方を模索していこうと思います」

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