
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
藤井一至氏いわく「絶滅するというより、『今みたいに安く、気軽に食べられなくなる』という感じです」
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との5回目です。バナナがなぜ絶滅しそうなのか? 絶滅させる病原体とは? その対策は? そして、現在の農業の問題などを教えてもらいました!
***
ひろゆき(以下、ひろ) 「バナナはこのままだと絶滅する」みたいな話をよく聞きますが、あれって本当なんですか?
藤井一至(以下、藤井) 絶滅するというより、「今みたいに安く気軽に食べられなくなる」という感じですかね。
ひろ なくなるわけじゃないと。
藤井 そもそも私たちが普段食べているバナナって、かなり特殊なんですよ。育てやすくて、おいしくて、実が収穫しやすい高さにできる。人間にとって都合のいい特徴が詰め込まれているんです。
ひろ 食べる側に都合がいいだけじゃなくて、作る側にも都合がいいんですね。
藤井 でも、インドネシアやマレーシア、パプアニューギニアなど、バナナのふるさとに近い地域には、もっといろんなバナナがあります。背丈が高かったり、実が食べにくかったり、あまりおいしくないものもある。そういうバナナは生き残るでしょうね。
ひろ ということは、危ないのは「バナナという種」じゃなくて、「人間が好きなバナナ」ですね。
藤井 そうです。育てやすくて、おいしくて、収穫しやすくて、流通にも向いている。そういう商業用のバナナが危ういんです。
ひろ でも、なんでですか。
藤井 理由は、バナナがクローンであることです。バナナは種から育てるのではなくて、株分けした苗から育てます。ですから、現在主流の「キャベンディッシュ」という品種のバナナの遺伝子は同じです。すると、一度土壌中の微生物に「このバナナはこう攻めれば弱い」と見抜かれてしまうと、一気に病気が広がります。実際、過去にやられたことがあるんですよ。昔は「グロスミッチェル」という品種のバナナが主流だったんです。グロスミッチェルはキャベンディッシュよりもおいしかったといわれています。でも、パナマ病という病気が流行して、私たちはグロスミッチェルを食べられなくなってしまった。そして、現在のキャベンディッシュという品種に代わったんです。
ひろ すでに一度、おいしいバナナは交代してるわけですね。で、そのパナマ病の原因の微生物って、何物なんですか?
藤井 フザリウム菌といいます。ただ、面白いのは、普段は落ち葉を分解している畑の掃除屋さんなんです。
ひろ むしろ有益な存在なんだ。
藤井 そうです。ところが、ある条件がそろうと急にバナナを枯らしにいく。〝鬼モード〟に切り替わるスイッチがあるんです。
ひろ そのスイッチとは?
藤井 それがわかったらノーベル賞です。現状で言える一般的なところでは、ライバルが少なくなって菌の密度が高まると、突然振る舞いが変わります。
ひろ 普段はいいやつなのに、数が集まると暴徒化するんですか。
藤井 そうなんです。しかも、対策が取りづらい。微生物は世代交代が早いので、人間なら何十年もかかるような変化が微生物ではあっという間に起きます。だから、人間が対策を考えても、それより先に微生物のほうが変わってしまうことが多いんですよ。
ひろ かなり不利な戦いですね。
藤井 あと、人間の育て方にも問題があります。例えばフィリピンに行くと、同じ品種のバナナ畑が延々と続いています。つまり、同じ遺伝子を持った植物をものすごく広い面積で栽培している。それを見ると「そりゃ病気も広がるよな」と思います。
ひろ 病原体にしたら、天国みたいな環境ですね。
藤井 人間側が病原体にとって最高の環境をつくってしまっているんです。さらに問題は土だけにとどまらなくて、例えば、あるバナナ農園で病気が広がると、バナナを輸出している大手企業がその地域から撤退してしまうこともある。すると、現地の雇用が何千人単位で失われてしまう。だから、これは単に果物や土の被害の話だけではなくて、その国の雇用の問題でもあるんです。
ひろ じゃあ、今はどういう対策をしているんですか。農薬を増やすとか?
藤井 それもありますが、それだけでは限界があります。そこで考えているのが「バナナ畑の中や周辺に少し木を植えて、森に近い環境に戻す」という方法です。
ひろ 木を植える?
藤井 はい。バナナだけを延々と並べるのではなく、環境に少し多様性を持たせてやるんです。
ひろ 木を植えるだけで変わるんですか。
藤井 森林にはフザリウム菌がほとんどいません。その森林の特徴をバナナ農園に持ち込むことで、変わることがあるんです。木が少し入るだけで病原体の密度が下がって、リスクを減らせます。農薬を毎週まくよりもトータル的なコストは安いし、カカオやドリアンを育てれば、副収入になります。
ひろ 面白いですね。バナナを守る最先端の答えが、「強い薬で管理する」じゃなくて、「少し自然に戻す」なんですね。
藤井 そうなんです。同じものを並べすぎて壊れた環境は、多様性を少し入れることで安定することがあります。
ひろ でも、その病気に強い新しい品種を作れば解決しないですか。
藤井 それが、品種改良はそう簡単じゃないんですよ。さっきも言ったように商業用バナナは基本的にクローンで増やしているので、種を使った品種改良がやりにくいんです。
ひろ 種がないんですか。
藤井 ごくまれに見つかることはあります。でも、それは本当に低い確率です。だから、品種改良をしようとしたら、まず「バナナの種を探す」ところから始めなきゃいけない。
ひろ バナナの種探しは、めちゃくちゃ地味ですね(笑)。
藤井 そうなんですよ。だから、病原体が進化するスピードに対して、人間側の品種改良はどうしても遅れがちになります。
ひろ 敵はどんどん変わるのに、こっちはまず種を探してから次の品種を作らなければいけない。
藤井 しかも、ようやく次の品種ができても、味が落ちるかもしれないし、育てにくくなるかもしれない。だからバナナの問題は、単に「病気が怖い」という話だけじゃないんです。便利さやおいしさを追求したクローン農業そのものの問題だということです。
ひろ なるほど。
藤井 そして現在は、今流通しているキャベンディッシュ品種を枯らす「新パナマ病」という、さらに進化したフザリウム菌の変異株が世界中に広がっていて、再び絶滅の危機にあるということです。
ひろ 過去においしいグロスミッチェルが病気にやられて世界からほぼ姿を消したのに、今度またキャベンディッシュが食べられなくなる可能性があるんですね。
藤井 ええ。自然界にあるバナナが全部なくなるわけではないんですが、私たちが当たり前のように食べている「安くて、甘くて、見た目もそろったバナナ」はかなり危うい状態にある。実際、昔よりもバナナは値上がりしています。それでも今の価格で食べられることはありがたいことです。
ひろ 確かにそうですね。
***
■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





