あのサッカー監督がワイナリー経営者に! 来日のトルシエ氏をフランス料理界の巨匠が究極の"おもてなし"

ライター/佐久間秀実 撮影/立松尚積

2002年のサッカーW杯日韓大会で、日本代表を初のベスト16に導いた名将フィリップ・トルシエ氏は、現在フランス・ボルドーでワイナリーを経営している。その来日に際し、45年のキャリアを誇るフランス料理界の巨匠ドミニク・コルビ氏が、人生の師と仰ぐトルシエ氏をもてなした。

今回コルビ氏は、日本の特定地域で生まれる「GI産品」を使った特別のメニューを用意。28年の親交があるふたりが、トルシエ氏が造るワインも傾けながら、食材、料理、ワイン造りについて語り合った。

28年の親交がある元サッカー日本代表監督のトルシエ氏(左)と、フランス料理界の巨匠コルビ氏(右)28年の親交がある元サッカー日本代表監督のトルシエ氏(左)と、フランス料理界の巨匠コルビ氏(右)

――まず、おふたりの出会いからお教えいただけますか?

コルビ 初めてお会いしたのは1998年でした。トルシエさんが日本代表監督に就任されたばかりのタイミングで、私が来日後にエグゼクティブシェフを務めた「トゥールダルジャン東京」でお食事をご一緒させていただきました。テーブルに着くなりサッカーの話で盛り上がって、すぐ仲良くなりましたね。

トルシエ あの日の光景は、今でも鮮明に覚えています。

コルビ そこからの28年間で、食事をしながら語り合った時間は私の財産です。一緒に日本の街を歩いていると、「トルシエさん!」と多くの方が声をかけてくるので、私がボディーガードを務める場面もありましたね(笑)。

トルシエ 私にとっても、コルビシェフと食事を共にした時間は特別です。サッカーの監督として過密スケジュールの中にあっても、彼と食卓を囲む時間はまるで別世界のように穏やかで、自分を取り戻せる場所でした。

コルビ 私はトルシエさんと同じフランス・パリ出身。少年時代にサッカーのクラブチームでプレーし、今ではパリ・サンジェルマンの試合を欠かさず観戦するほど、サッカーは私の人生に深く根ざしています。トルシエさんとは料理の話もサッカーの話も尽きません。

――今回はコルビシェフとも縁がある服部栄養専門学校のスペースをお借りし、会食をしながらの対談となりました。

トルシエ 今回、コルビシェフは日本の特定地域でのみ生まれる「GI産品」の食材(以下、GI食材)を調理していますね。フランスには日本よりも古くから「AOC」という認証制度があり、国が厳格な審査をし、地域を代表する特産物を国家ブランドとして法的に保護しています。

コルビ氏(左)の料理の仕上げを待つトルシエ氏コルビ氏(左)の料理の仕上げを待つトルシエ氏

コルビ GI食材は、特定の地域で生まれ、農林水産省のGI(地理的表示)保護制度によって地域の知的財産として保護された産品です。日本では現在、「飛騨牛」「北海道米」「小笹うるい」など、国内167産品が希少ブランドとして登録されています(※2026年3月25日時点)。

今回ご用意したのは、私が厳選した9品のGI食材のうま味を最大限に引き出した料理です。メニューはこちらです。

【メイン料理】「和牛ロースト、うるいソテー」

1.飛騨牛(岐阜県)2.鹿児島の壺造り黒酢(鹿児島県) 3.青森の黒にんにく(青森県) 4.小笹うるい(山形県)

【付け合わせ】「リゾット 白味噌の鮮やかなアクセント」

5.北海道米(北海道) 6.サヌキ白みそ(香川県)7.豊橋花穂(愛知県)

【デザート】「干し柿 黒糖シロップ、白みそクリーム添え」

8.市田柿(長野県) 9.沖縄黒糖(沖縄県) ※2.鹿児島の壺造り黒酢、6.サヌキ白みそも使用。

――調理のポイントは?

コルビ メインは「飛騨牛」のローストと「小笹うるい」のソテーです。飛騨牛は私が飛騨高山大使を務めたご縁もあって、特別な思い入れがある食材です。肉質が非常に柔らかく、口いっぱいに豊かなうま味が広がります。

トルシエ 和牛はどう仕上げましたか?

コルビ 飛騨牛は黒毛和牛A5等級のサーロインのブロック。肉の状態を見極めて焼き上げ、表面は香ばしく中はジューシー。肉の端材に「鹿児島の壺造り黒酢」や玉ねぎを加えた特製ソースが、和牛のうま味を引き立てます。

和牛を調理するコルビ氏和牛を調理するコルビ氏

トルシエ 「小笹うるい」の調理も教えてください。

コルビ 新鮮なシャキシャキ感を活かして、生とバター炒めを織り交ぜています。そして、熟成された「青森の黒にんにく」と黒酢を練り込んだ黒いペーストも作りました。ソースにペーストを付け加えることで、肉とうるいのうま味が口の中で広がります。

トルシエ リゾットの調理は、どのように工夫を?

コルビ もちもち感と深い甘味がある「北海道米(ゆめぴりか)」を、贅沢なリゾット風に仕立てました。炊き立てのご飯に「サヌキ白みそ」や生クリームなどを加え、白みそのやさしい甘味でお米本来の美味しさを際立たせています。

メイン料理の「和牛ロースト、うるいソテー」と、付け合わせのリゾットメイン料理の「和牛ロースト、うるいソテー」と、付け合わせのリゾット

トルシエ リゾットの上に飾られた花穂に、和の美しさと瑞々しさを感じます。

コルビ こちらは「豊橋花穂」で、日本らしい料理の華やかさと繊細な美しさを表現しています。

トルシエ 柿のデザートも気になりますね。

コルビ 「市田柿」は、心地よい弾力と上質な甘みがあります。前日からシロップに浸して果肉に奥ゆかしいうま味を加えています。 このシロップは、ミネラル豊富な「沖縄黒糖」と「鹿児島の壺造り黒酢」を贅沢にブレンドしたもの。仕上げに、「サヌキ白みそ」で風味付けした生クリームを重ねました。

デザートの「干し柿 黒糖シロップ、白みそクリーム添え」デザートの「干し柿 黒糖シロップ、白みそクリーム添え」

トルシエ 一貫したストーリーを感じますね。

コルビ トルシエさんのワイナリーのワインと一緒にお召し上がりください。

トルシエ (試食して)おぉ、これは......。和牛、うるいが口の中でとろけて絡み合い、優雅なうま味と香りが広がりますね。黒酢ソースと黒にんにくペーストの深みある酸味が、美味しさをぐっと放っています。

コルビ ぜひ、リゾットもご一緒に。

トルシエ マイルドですね。濃厚な食感と甘味があり、花穂の香りが奥深い余韻を響かせています。この計算された完璧なバランスが、コルビシェフの真髄ですね。

コルビ 最後に、デザートの干し柿を。

トルシエ 柿は、黒糖シロップ・白みそクリームの甘味と酸味がまろやかに溶け合っています。食材や白みその配置まで細やかに設計済みで、まるでサッカー名監督の采配を見ているかのようです。料理の「素材」とサッカーの「選手」。どちらも「個性を引き出して活かす」という本質は、共通していると思います。

コルビ ありがとうございます。私のシェフ歴45年の技術を結集させました。

――トルシエさんのワイナリーで製造するワインについてはいかがですか?

コルビ トルシエさんが造るワインは、私のお料理の美味しさを極限まで高めてくれる最高のパートナーです。

トルシエ ありがとうございます。私は2014年から、フランスの名産地ボルドーのサン・テミリオンにあるワイナリー「ラ・ベル・ガブリエル」でワインを製造しています。ワインというものは、料理を圧倒するものではなく、互いの魅力を引き立て合うものです。

コルビ 2016年頃にトルシエさんのワインをいただいた時に、「10年後にさらに素晴らしくなる」と確信していました。そして今回のこのワイン「ソル・ベニ」は、まさにその熟成のピークを迎えています。

トルシエ 「ソル・ベニ」は、異なる土壌で生まれた2種のブドウを組み合わせています。非常に美味しく、コルビシェフの料理との相性も抜群ですね。

ワインを口にするトルシエ氏ワインを口にするトルシエ氏

コルビ これほど贅沢な瞬間を、尊敬できる方と豊かな空間を共有できることに心から感謝しています。

トルシエ 服部栄養専門学校というこの神聖な場所、コルビシェフのお料理、私のワイン。友と過ごす時間、感動の記憶に深く刻んでおきたいと思います。

――トルシエさんがワイナリー経営を始めたきっかけは?

トルシエ 人生における、良い意味での新たなチャンスが訪れたんです。2014年にサン・テミリオンを訪れた時に、新聞の広告でワイナリーの売り出しを見つけ、直感的に「これだ!」と思いました。私の両親がパリで肉屋を営んでいたこと、つまり自然や家畜と関わる仕事をしていたことも影響しています。

コルビ 「自然に還る」という道を選んだわけですね。

トルシエ ワインは農業を通じてブドウという植物から生まれます。農業において人と自然の関係性は非常にデリケートで、実に深い。ワインを作るとは、大地と対話することでもあります。

コルビ トルシエさんがサッカーの戦術を組み立てるように、ワインにおいても細部まで計算してプロセスを大切にする。その哲学は私の料理の世界にも通じますね。

■取材協力:農林水産省
公式HP>>

■農林水産省のSNS発信プロジェクト「BUZZ MAFF(ばずまふ)」
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■取材会場:学校法人服部学園 服部栄養専門学校
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■通訳:塩田明子(上智大学外国語学部フランス語講師)

■今回のGI産品の調達先
・飛騨牛(岐阜県:飛騨牛銘柄推進協議会、(株)丸明)
・鹿児島の壺造り黒酢(鹿児島県:鹿児島県天然つぼづくり米酢協議会、宇都醸造(有))
・青森の黒にんにく(青森県:協同組合青森県黒にんにく協会、青森第一食糧(有))
・小笹うるい(山形県:山形農業協同組合 南部営農センター)
・豊橋花穂(愛知県:豊橋温室園芸農業協同組合、(株)政義青果)
・北海道米(北海道:ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部)
・サヌキ白みそ(香川県:香川県味噌工業協同組合、(有)中屋醸造所)
・市田柿(長野県:みなみ信州農業協同組合、丸西産業(株))
・沖縄黒糖(沖縄県:沖縄県黒砂糖協同組合、沖縄県黒砂糖工業会)

  • フィリップ・トルシエ

    フィリップ・トルシエ

    1955年3月生まれ、フランス・パリ出身。フランス出身のサッカー指導者、元サッカー選手。革新的な「フラット3」戦術を武器に、2002年W杯で日本代表を史上初のベスト16へと導いた。日本を含め、コートジボワール、モロッコ、ベトナムなど計8カ国の代表監督を歴任した世界的名将。現在はフランス・ボルドーでワイナリー「SOL BENI(ソル・ベニ)」を運営。勝負師としての哲学をワイン造りに注ぎ込み、スポーツと食文化を繋ぐ新たな挑戦を続けている。WEB>>

    【主な経歴】

    1977年~1983年 選手としてフランスリーグで活躍

    1983年~ 28歳で選手から指導者に転身

    1998年~2002年 サッカー日本代表監督

  • ドミニク・コルビ

    ドミニク・コルビ

    1965年8月生まれ、フランス・パリ出身。15歳より料理の道に入る。パリの名門レストラン「トゥールダルジャン」副料理長を経て、1994年、ホテルニューオータニ東京「トゥールダルジャン東京店」エグゼクティヴ・シェフとして来日。以降、ホテルニューオータニや銀座「レカン」の総料理長、ル・コルドン・ブルー・ジャパン校長を歴任したフランス料理界の重鎮。現在は堪能な日本語を活かし、食育や後進の育成、商品開発、日仏の文化交流を支える架け橋として多角的に活動している。WEB>>

     【主な経歴】

    2007年 フランス農事功労章シュバリエ受章

    2019年 フランス農事功労章オフィシエ受章

  • 佐久間 秀実

    佐久間 秀実

    さくま・ひでみ

    (株)コミュニケーション戦略研究所 取締役。COLD Bオフィス専務執行役員。コミュニケーション・ブランド戦略を軸に、企業の収益化推進、著名人の省庁アンバサダー起用、大学への研究資産導入などを手がけ、産官学を横断する事業を展開。これまで日本、フランス、ベルギーで省庁・プロスポーツの取材執筆を経験。浦和レッズユースでのプレー経験あり。龍谷大学卒。行政書士資格を保有。

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