【茶そば&あなご天】埼玉発祥のご当地立ち食いそば店で食べる狭山茶そばとあなご天:パリッコ『今週のハマりめし』第242回

取材・文・撮影/パリッコ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

西武池袋線清瀬駅の改札から北口へと向かう階段の踊り場に、かつて「狭山そば」という立ち食いそば屋があった。

いかにも昔ながらの大衆的な佇まいで、駅構内に立ち食いそばがあるという風景がとても良かった。ごくまれにこの街を訪れることがあり、確か1、2度は利用した記憶がある。時代の流れか、いつしか閉店してしまったようで、寂しく思っていた。

ところが先日久しぶりに清瀬を訪れて嬉しくなった。なんと駅南口を出てすぐの場所に、線路にへばりつくように狭山そばが復活していたのだ。

「狭山そば 清瀬店」「狭山そば 清瀬店」
そこで調べてみると、狭山そばは昭和47(1972)年に西武鉄道所沢駅のホームで創業した店で、そちらは今も健在。その後清瀬に2号店が誕生し、2023年に踊り場の店は閉店したものの、すぐに南口に移転オープンしていたようだ。こういう駅そばは地元エリアからはなくなってしまったので、今や希少な存在だ。寄っていくことにしよう。

店頭に貼られた豊富なメニュー写真を順に眺めてゆき、そのなかの1枚に胸を撃ち抜かれた。茶そばとあなご天のセット。店名になっている「狭山」といえば、本店のある所沢と隣接する埼玉県の市。狭山茶が有名な茶所だ。きっとそのお茶を使ったそばであるのだろうから、ぜひ食べたい。

さらにそこには「至福のひと時に茶そばにあなご天はいかがでしょう?」と添えられている。

茶そばのポスター茶そばのポスター
そのポスターが、実に味わい深い。おそらく茶そば単体を撮影したであろう写真に、かなりあやふやな境界線によって切り抜かれたあなご天の写真が合成してある。その、なんとも言えないゆるさ。

昨今、AIを使えばもっと派手でそれらしい広告は簡単に作れてしまい、そういうものが世にあふれまくっている。けれども、まだどことなくむずがゆいような違和感があって僕は苦手で(時代遅れなのかもしれないけれど)、同じくコンピューターを駆使して作られたのにも関わらず大いに人間味を感じるそのポスターが、家に1枚飾りたいくらい好ましかった。

券売機メニュー券売機メニュー
券売機の前に立ち、期間限定メニューの「冷し茄子天おろし」や「冷しまぜうどん」などもうまそうだったが、今回は「茶そば」(税込570円)を選択。もちろん「あなご天」(400円)も。かき揚げやコロッケなどのトッピングがひとつ150円なことを考えると、なかなか高級なメニューだ。

カウンター数席と、ふたりがけのテーブルが3つという小さな店内が、いかにも立ち食いそば(正式には椅子あり)といった風情でとても落ち着く。席に着いてほどなく、茶そばとあなご天のセットが到着。まず驚いたのは、さっきの見本写真の比ではない、茶そばの緑色の濃さだ。

「茶そば」と「あなご天」「茶そば」と「あなご天」
まずは麺を2、3本ほどとり、こういう店でやることではないかもしれないが、つゆにつけずそのまま食べてみる。角が立ち、つるつる、ぷりぷりとした食感とのどごしが心地よい麺だ。噛み締めると、そばよりはお茶の香りのほうが後味にふわりと香り、なんとも粋。

艶のあるそば艶のあるそば
あとはもう遠慮なくどぷんとつゆにつけ、薬味のねぎとわさびもふんだんに使って食べすすめる。きりりとしたつゆとの相性も良く、文句なしのうまさ。やっぱり僕は、こういう気どらないそばがいちばん好きだ。

至福のそばタイム至福のそばタイムあなご天あなご天
あなご天は大ぶりのものがふたつにカットされている。付属の天つゆにつけ、さくりとひと口食べてみると、まったくくさみがなく、肉厚ふわふわで、確かにこれは店が推すだけある逸品だ。

かなりレベルの高い天ぷらかなりレベルの高い天ぷら
本来ならここで、よく冷えた日本酒をくいっとやって悦に入り、そこからそば、天ぷら、酒のループに突入していきたいところ。が、残念ながらここには酒類の取り扱いがなかった。調べてみると埼玉には地酒が豊富にあるらしいので、そのなかのカップ酒1種類だけでもいいから、冷やして提供してもらえないだろうか(正確には清瀬は埼玉寄りの東京都だけど)。この茶そばと天ぷらで一杯やれるなら、定期的に清瀬に通うのに......。

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  • パリッコ

    パリッコ

    ぱりっこ

    1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
    著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
    公式X【@paricco】

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