友清哲
ともきよさとし
友清哲の記事一覧
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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【松のや】《運営会社》松屋フーズHD 《店舗数》634店舗*「松屋」や「マイカリー食堂」に併設された店舗を含む ご存じ、松屋フーズHDのとんかつ形態。豚肉は薄めだが、特製ソースのうまさで満足度をカバーしている印象で、コストパフォーマンスは群を抜いている。訪れた店舗はご飯の大盛りが無料だった
飲食大手がとんかつ業態に相次いで参入している。これは一過性のブームなのか、それとも底堅いトレンドか? そもそも物価高の今、なぜとんかつに注目が? 気になる裏事情をサクサクッとご紹介! *記事は5月25日時点の情報に基づく。価格はすべて税込
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大手によるとんかつ業態への参入が相次いでいる。2025年2月に「焼肉きんぐ」で有名な物語コーポレーションが「熟成肉とんかつ ロース堂」を愛知県豊橋市にオープンしたのを皮切りに、「串カツ田中」を展開するユニシアHD(ホールディングス)は同年3月に東京都品川区に「厚切りとんかつ 厚(あつ)とん」の1号店をオープン。このほか、「築地銀だこ」運営のホットランドHDは同年1月に、和歌山県を地盤に複数店舗を展開する「厚切りとんかつ よし平」を子会社化した。
一方、長らく首位を占めていた「かつや」の売上高は5ヵ月連続前年割れ。その間に松屋フーズHDが「松のや」を年間約100店舗ペースで出店する大攻勢をかけ、店舗数でかつやを抜き首位に躍り出た。
松のやのロースかつ定食(690円)
なぜ今、とんかつ業態の新規出店がトレンド化しているのだろうか。外食ビジネスアナリストの三輪大輔氏は、次のように解説する。
「ひとつには、とんかつが価格を高く設定しやすいことが挙げられます。それに加え『リーズナブル/やや高価格』『駅前/郊外ロードサイド』という4象限ですみ分けが進んでいて、一部の領域にまだ成長の余地があることが活況につながっています」
【かつや】《運営会社》アークランドサービスHD《店舗数》507店舗 682円からカツ丼が食べられるファストフード型チェーン。特注のオートフライヤーで多店舗展開に成功。みそ汁ではなくとん汁がつくのがうれしい。卓上には割り干し大根も
かつやのロースカツ定食(913円)
例えばホットランドHDはコロナ禍以降、銀だこのロードサイド出店を強化。そのノウハウを生かして新たな戦略を模索する上で、たこ焼きより高値をつけやすいとんかつに白羽の矢が立つのは、自然な流れだと三輪氏は指摘する。
「前出の4象限で言えば、よし平は『やや高価格×郊外ロードサイド』の領域ですね。原材料費の高騰が深刻な中、それなりの価格帯で勝負できるとんかつは貴重な商材です。
駅中や駅ビルなどの商業施設は競争が激しいですが、郊外のロードサイドにはまだまだ伸びしろがあります」
【とんかつ和幸】《運営会社》和幸商事《店舗数》145店舗*テイクアウト売店を除き、レストラン業態のみカウント。また、「かつ工房和幸」や「とんかつ和幸 恵亭」などの類似業態も除く やや高級路線のイメージがあるが、大半のメニューが2000円未満となっている。ご飯、キャベツに加え、しじみのみそ汁がお代わり自由。キャベツ用のゆずドレッシングがおいしい
とんかつ和幸のロースかつ御飯(1530円)
また、とんかつには出店攻勢をかけやすい、もうひとつの特性がある。とんかつを揚げるフライヤーの進化である。
かつては肉の選定から温度管理、衣づけ、そして何より揚げる際の匙(さじ)加減に、職人的な技能が求められた。しかしテクノロジーの進化が、参入障壁を下げることに一役買っている。
「かつやが自動フライヤーの導入で店舗数を増やしてきたのはよく知られていますが、最近は機能面でも目覚ましい進化が見られます。
油が劣化しにくい構造で、操作がほぼワンタッチで行なえるんです。まったくの未経験者や外国人労働者でも調理できるのは大きなメリットでしょう」
【とんかつ 新宿さぼてん】《運営会社》グリーンハウスフーズ《店舗数》353店舗 1966年に東京・西新宿で1号店をオープンし、全国に展開。イートインだけでなく、テイクアウト店舗でも強みを発揮する! 弁当以外にもかつ丼やかつサンドなども取りそろえる
とんかつ 新宿さぼてんの特撰やわらかヒレかつ弁当(1100円)
新店のポテンシャルを探るべく、実際に足を運んでみた。
まずはロース堂から。とにかく目を引くのはコスパの良さだ。例えば看板商品「ロースかつ定食」(1199円)は、ランチタイムには1089円で味わえる。
低糖質のパン粉にこだわり、衣は少し硬めの印象。また、ロースでありながら脂は控えめ。ご飯やキャベツはお代わり自由としながら、その他の漬物類などは最小限にとどめ、"上質のとんかつをとにかく安く食べさせたい!"というコンセプトが明確に伝わってきて、これからはやりそうだと感じた。
【熟成肉とんかつ ロース堂】《運営会社》 物語コーポレーション《店舗数》 1店舗 愛知県豊橋市に1号店がオープンした、焼肉きんぐ運営会社の新ブランド。ボックス席が多く、家族連れも行きやすい。衣が厚く、サクサク感が強めでおいしい。ご飯、キャベツがお代わり無料
熟成肉とんかつ ロース堂のロースかつ定食(1199円)とん汁変更(+110円)
続いて伺ったのはよし平。「熟成180gロースかつ膳」(2079円)は、2.5㎝以上の熟成した厚切り三元豚を使用しているのが特徴だ。
薄めの衣のサクサクとした歯応えと、クリアで滋味深い肉汁の食感は実に満足度が高い。かまどで炊いたお代わり自由のコシヒカリ(炊き込みご飯や十穀米に変更も可能)との相性も抜群だ。
【厚切りとんかつ よし平】《運営会社》ホットランドHD《店舗数》15店舗*「厚切りとんかつ・牛かつ よし平」「厚切りとんかつ・魚かつ よし平」を含む 築地銀だこ運営会社が昨年1月に子会社化した。三元豚の熟成肉にパン粉を手作業でつけ、低温の米油で約20分かけてじっくり揚げる。ご飯、みそ汁、キャベツ、漬物はお代わり自由となっている!
厚切りとんかつ よし平の◎熟成180gロースかつ膳(2079円)
最後に厚とんへ。こちらは先の2店と違って、定食が3000円弱と明確に高級路線を取っている。卓上にはからし、ソースのほか、塩、にんにく醤油ダレも用意されている。このほか無料でパクチーがサービスされ、味変には困らない。
名前に恥じない、分厚い庄内豚の厚切りロースに加え、羽釜ご飯、キャベツ、パクチー、漬物、ゆず大根はお代わり自由。サービスもボリュームも随一なのは間違いないが、2970円は少し高く感じた。
【厚切りとんかつ 厚とん】《運営会社》ユニシアHD《店舗数》1店舗 串カツ田中運営会社が東京・五反田に開いたとんかつ店。値づけはかなり強気だが、その名のとおり肉の厚みが特徴で、脂身の主張が強いガッツリ系。パクチーのトッピングが無料
厚切りとんかつ 厚とんの庄内豚厚切りロースカツ(2970円)
最後に、とんかつチェーンは今後どこまで伸びるのか、三輪氏に聞いた。
「とんかつというのは、"横の展開"に長(た)けた食材です。丼にも定食にもできて、カレーにものせられる。この選択肢の広さは、消費者にとっても魅力でしょう。また、豚肉の価格が上がっている現状からすれば、松屋フーズHDや物語コーポレーションなど、他業種で肉を扱う事業者には一括調達でコストをコントロールしやすい側面もあり、引き続き重宝される業態と言えます」
他方、国内にとどまらず海外市場に目を向ける事業者も。
「ユニシアHDは近年、海外での出店を強化していますから、おそらくとんかつ業態についても今後のカギととらえているのではないでしょうか。海外におけるとんかつ市場はまだ覇者が決まっていませんから、目を光らせているはず。このあたりの事情は物語コーポレーションも同様でしょう」
果たして、このまま松のやが独走態勢に入るのか。あるいはかつやの巻き返しがあるのか。ひょっとして、新店によるジャイアントキリングがあるのか!? カツのはどこか、注目したい。