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「大人のお子様ランチ」の代表、長崎のトルコライス
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「大人のお子様ランチ」について語る。
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日本各地を旅していると、時々「これは郷土料理というより、少年時代の夢では?」と思うひと皿に出会うことがあります。福井県越前市のボルガライス、長崎県のトルコライス、石川県金沢市のハントンライス、そして北海道根室市のエスカロップ。「食べたいもの全部のせました」という極めて正直な方向に進化したご当地グルメ。私はこの手のメニューを「大人のお子様ランチ」という日本独自の食文化ジャンルだと考えてます。
まずボルガライス。オムライスの上にトンカツを豪快にのせ、デミグラスなどのソースをかける。黄色い卵、茶色いカツ、濃厚ソースの三重奏は、見た目からして〝カロリーの祝祭〟。オムライスだけでも完成されているのに、「さらに勝利を」と言わんばかりにカツを追加する精神が素晴らしい。まるで優雅な洋食に、体育会系が乱入してきたような迫力です。
トルコライスは、より自由奔放。ピラフ、ナポリタン、トンカツがひと皿に同居し、場合によってはカレーまで加わる。長崎という国際港らしい異国風の名前だが、トルコとの直接的関係はない。それでも問題ない。重要なのは「なんだか遠い国みたいで豪華」という雰囲気。炭水化物と揚げ物がプレート上で友好条約を結ぶその姿は、もはや料理というより食の総力戦。
一方、ハントンライスは少し優雅さをまとう。ケチャップライスを卵で包み、白身魚のフライをのせ、ケチャップとタルタルソースをかける。魚フライが入ることで「少し上品です」という顔をしているが、実際にはオムライスと揚げ物の魅力を最大限に活用した欲張りメニュー。タルタルまで加わることで、味は渋滞寸前。しかし不思議と成立してしまう。これぞ地方洋食の底力。
そしてエスカロップ。バターライスの上に薄切りトンカツをのせ、デミグラスソースをたっぷり。北の港町らしくシンプルながら、バターの香りとカツの力強さが絶妙に共存する。どこか寒冷地仕様のエネルギー補給感があり、「寒さに勝つにはまず満腹」とでも言われているような説得力があります。
「大人のお子様ランチ」は、ネーミングも大事ですね。ボルガ、トルコなど、とにかく異国情緒をまとわせたい気持ちが伝わってくる。昭和の洋食店にとって、外国っぽさとはそのまま特別感でもあったはずで、重要なのは「なんだかすごそう」という響き。料理そのものがすでに十分すごいので、名前まで壮大になる。
一番の共通点は、理性より幸福を優先した構造。栄養学的には多少乱暴でも、「好きなものを全部ひと皿に集めたらうれしい」という真理がここにあります。昭和の洋食文化、地方食堂のサービス精神、高度経済成長期のごちそう感覚。それらが合体した結果、日本全国で「全部のせ」が花開いたのかも。
たとえサラダ中心の生活を志したとしても、旅先で鉄板にのったナポリタンの横にトンカツが鎮座していれば、その決意は驚くほどもろい。地方グルメはその土地の歴史や文化を味わうものでもあるが、同時に「人類は昔から欲望に忠実だった」という事実確認でもあります。
食べたことない方はぜひ!
●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。京都にある「キッチンゴン」の、チャーハンにカツとカレーソースをのせた「ピネライス」をいつか食べたい。公式Instagram【@its.sayaichikawa】