市川紗椰が2026年上半期の一大トピック「骨折」について語る

人生初の骨折。ご迷惑、ご面倒、ご心配をかけた皆さん、すみませんでした人生初の骨折。ご迷惑、ご面倒、ご心配をかけた皆さん、すみませんでした

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「骨折」について語る。

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もうすぐ6月。2026年上半期の市川一大トピックは、人生初の骨折! 25年の12月20日に右手の手首をがっつり折り、しばらく骨折と共に歩みました。

初骨折。しかも利き手。もちろん世の中には、もっと深刻なケガや病気の人、大きな困難と向き合いながら生きている方もいるのはわかってます。それに比べれば、手首を骨折したくらいで騒げるのはぜいたくな話。それをわかった上で、ぶーぶー言わせてください。

大人になって利き手の手首を骨折すると、その破壊力に、誰もが一度は文明社会のもろさを思い知ります。日常は手首でできている。手首の無事の上に成り立っているのです。

まず、転倒直後はプライドが折れる。「こんなことで?」と思う程度で骨折する情けなさ。「老い」とか「骨密度」という聞きたくない単語が飛び交います。病院でエックス線写真を見せられた瞬間、自分の手首に走る線が妙に現実的で、「あ、これは本当にやってしまったやつだ」と静かに観念しました。

ただ、その写真を、なぜか人に見せたくなるんですよね。「これ見てー。ちゃんと折れてるでしょ?」と、妙な被害者意識と軽い自慢が同居する不思議な感覚です。

そして、ギプス生活。これが想像以上に生活の根幹を揺るがします。まず着替え。シャツが着られない、下着は難攻不落、ズボンをはくのすら片手だと格闘技になる。衣類のボタンやジップには静かな殺意が芽生えます。

シャンプーに至っては、何げなくこなしていた「両手で泡立てる」という行為が、いかに人類の英知の結晶だったかを思い知りました。片手で髪を洗うと、泡立ちもすすぎも雑になり、敗北感だけが残ります。

さらに、利き手を失うと文字が壊滅します。ペンは震え、スマホ操作すら「こんなに手首使ってたの!?」と驚愕(きょうがく)。財布を開く、カードを出す、バッグを閉めるという一連の動作もぎこちない。改札前でもたつくという、都市生活者としての尊厳が少し削られる瞬間が日常茶飯事です。

そして、いくら気をつけてもギプスは汚くなる。手を見るたびテンションダウン。ギプス内部のかゆみは哲学的ですらあり、「かけない」という状況がここまで人を追い詰めるのかと思い知る。しかし、冬のギプスは温かい! どの手袋よりもぬくぬくな最強の防寒具としての利点もありました。

ほかにもプラスな副作用は、周囲から「サイン書こうか?」と言われるたびに味わえる、ちょっとした学生気分。実際はペンで書けない素材だったけど......。みんなの優しさも感動もの。荷物を持ってもらう、ペットボトルを開けてもらうといった、ささいな手助けが妙に染みました。普段は照れくさい親切が、骨折中は素直にありがたい。

いざギプスが外れると、手首は驚くほど細く、頼りなく、自分の一部なのに少し他人行儀に感じました。その瞬間、私は静かに誓った。「もう二度と、あんな転び方はしない!」。もっとも、その慎重さは早速薄れがちだが、少なくとも骨折経験者は知っています。大人の骨折とは、骨だけでなく、日常生活の過信も一度きれいに折ってくるのです。みんな気をつけろー。

●市川紗椰 
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。骨折した箇所だけにピンポイントで、初めて毛がびっしり生えてきて、人体の神秘を感じた。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!

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