2月8日に軍総司令官を交代させたゼレンスキー大統領。昨年秋からメディアを通じて、現状の厳しさを率直に認めるザルジニー前総司令官と、前向きに成果を強調するゼレンスキー大統領とのスタンスの違いは表面化していた 2月8日に軍総司令官を交代させたゼレンスキー大統領。昨年秋からメディアを通じて、現状の厳しさを率直に認めるザルジニー前総司令官と、前向きに成果を強調するゼレンスキー大統領とのスタンスの違いは表面化していた

「ウクライナはどうすれば勝てるか」が盛んに議論されていた1年前とは大きく変わり、今や「今年は我慢の一年」「領土の一部を諦めての停戦もやむなし」といった厳しい声も聞こえる。しかし、このままでは侵略国ロシアが笑う最悪の結末が待つ。勝利のための「逆襲の一手」を徹底的に検証した!

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■大きくずれてしまった軍の事情と政治の事情

2022年2月24日にロシア軍(以下、露軍)がウクライナ侵攻を開始してから間もなく2年。最初の1年は目まぐるしく戦況が動き、ウクライナ軍(以下、ウ軍)の大攻勢による領土奪還の動きもあったが、次の1年はウクライナにとって「停滞」だったと言わざるをえない。

その象徴が、ウ軍が昨年6月に開始した反転攻勢作戦の失敗だ。元米陸軍大尉で、現在はミリタリーアドバイザーとして頻繁に渡欧している飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏が解説する。

「大きな理由のひとつは、欧米からの武器支援のタイミングがバラバラだったことです。あれだけ兵器や弾薬を供給されてなぜ勝てないのかと思う人もいるかもしれませんが、軍隊は統率されたオーケストラのような組織で、最も重要なのはC2(指揮統制)です。

各楽器を『はい、バイオリン』『はい、ビオラ』などとバラバラに提供されても、交響曲を演奏できないのと同じことです。しかも、その状況にウクライナの汚職体質が輪をかけてしまった部分もあります」

また、戦術面でもかみ合わなかった。元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見 龍(ふたみ・りゅう)氏(元陸将補)は次のように分析する。

「昨夏の反転攻勢に際し、米軍はザポリージャ戦線から南進してアゾフ海に達する一点突破の攻撃軸に兵力を集中する作戦を提案しました。

しかし、露軍が侵攻開始時に多方面から同時攻撃を仕掛けたのを見てもわかるように、旧ソ連の軍事文化には兵力を分散させる傾向がある。ウ軍にもそれが残っているのか、東部を含む数ヵ所で反撃を開始した結果、本命の攻勢も失敗に終わってしまいました」

そして、ついにウクライナ内部の不協和音も表面化した。ゼレンスキー大統領が2月8日、軍トップのザルジニー総司令官を解任したのだ(後任はシルスキー陸軍大将)。かつて航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた杉山政樹氏(元空将補)はこう語る。

「軍人の立場から見れば、現状ではまず『負けないこと』が大事で、無謀な作戦で兵を死なせたくもない。長期的に勝機をうかがうべく、今できることはやっているという認識でしょう。

しかし、全領土の奪還という目標を掲げるゼレンスキー大統領は、政治家として後戻りできない。欧米の支援疲れも感じているし、早く成果を出せないことに焦っている。両者の確執は必然といえます」

そんな中、国際社会でも逆風が吹き始めた。最大の支援国アメリカで、今秋の大統領選挙に向け、トランプ前大統領がウクライナ支援に極めて消極的な発言を繰り返しているのだ。国際政治アナリストの菅原 出(すがわら・いずる)氏はこう語る。

プーチン大統領は3月に大統領選を控えるが、再選は事実上確定。現状の戦況では露軍側に戦いを急ぐ必要はなく、最近の様子からは余裕さえ見える プーチン大統領は3月に大統領選を控えるが、再選は事実上確定。現状の戦況では露軍側に戦いを急ぐ必要はなく、最近の様子からは余裕さえ見える

「アメリカ以外のNATO(北大西洋条約機構)諸国では、イギリスがウクライナと2国間安全保障協定に署名したのに続き、フランスも同様の協定を結ぶ予定で、この流れが他国にも波及していくかもしれません。

しかし肝心のアメリカでは、バイデン政権が今後10年ウクライナを継続的に支援する予算案を連邦議会にかけているものの、トランプはこれを通過させないよう働きかけており、今のところ成立は見込めません。

つまり現状では、ロシアのプーチン大統領は、ゆっくり待っていれば勝手に有利な状況になっていくと考えていると思われます」

ウクライナが直面している苦境は、1年前とは比較にならないほど厳しい。勝利への道をつなぐためには、米大統領選がある11月までに、目に見える「結果」を出し、国内の士気をまとめ、諸外国の支援熱を取り戻す必要があるのだ。

■ついに供与されるF-16の使い方は?

ゼレンスキー大統領は年間100万機の無人機製造体制を構築し、「無人機軍」を創設すると発表したが、もちろんそれだけで露軍に勝てるわけではない。最大限の戦果を得るためには、どんな作戦シナリオが考えられるのか?

ポイントは以下の3点。

●陸軍だけの作戦では昨年同様に厳しい。特殊部隊やドローン、そして空軍力をより機動的に組み合わせる。

●その空軍力の要として、欧州諸国から供与され始めるF-16戦闘機をフル活用する。

●目標は明確に一点突破。内外にインパクトの大きい象徴的な戦果を目指す。

これらの条件を踏まえ、前出の二見元陸将補はこう言う。

「〝一撃〟が年内に必要だというなら、最適なのは9月でしょう。兵力を1ヵ所に集中して、昨年6月に失敗した南部のザポリージャ戦線からもう一度突破を図り、露軍のクリミア半島への補給路を断つ。すべてを1ヵ月以内に終わらせる電撃作戦です」

これは米政治のカレンダーを考えてもベストな時期だ。大統領候補が選挙を前に大きな政策を打ち上げる「オクトーバー(10月)・サプライズ」の直前に、いわば「セプテンバー(9月)・サプライズ」で大きな印象を与えられる。

前出の杉山元空将補はこう語る。

「数千、数万の兵が動く陸軍の作戦文化を急に変えることは難しい。やはり空軍や特殊部隊が先陣を切ることが必要でしょう。特に、最近の露空軍の動きを見ると、ウ空軍にいつF-16が配備されるのか、相当恐れを抱いて警戒しているようです。

露空軍パイロットの不安はよくわかります。これまでは旧ソ連製のミグやスホーイと戦っていたのが、今度は全世界で何千機も飛んで技術的に熟され、しかもまだ現役のF-16が、レベルの高いウェポンを搭載して飛んでくる。怖いはずです」

ウクライナが熱望していたF-16戦闘機が、欧州各国からようやく供与され始める。これが軍事面では今年最大のポイントだ(写真は米空軍の機体) ウクライナが熱望していたF-16戦闘機が、欧州各国からようやく供与され始める。これが軍事面では今年最大のポイントだ(写真は米空軍の機体)

そのF-16の供与スケジュールについて、フォトジャーナリストの柿谷哲也(かきたに・てつや)氏はこう推測する。

「欧州各国の準備状況などを総合すると、9月には36機ほどが配備可能になると思われます。あとはパイロットがどれだけそろうかですが、4月の時点で11人が搭乗可能になり、その後も米アリゾナ州とルーマニアで20人弱が高等レベル教育を受ける予定なので、9月には合計30人前後にはなっているはずです。

一般的なセオリーからいえば、F-16は敵前線の突破を図る陸上部隊を上空から支援するエアカバーの任務に就きます。敵のレーダーや地対空ミサイルを含む10個の目標に対するストライク・パッケージなら、30機程度の編隊になりますから、一点突破の作戦であればなんとか形になる機数でしょう」

しかし、前出の杉山氏は次のように懸念する。

「教育を受けたばかりのパイロットたちの仕上がり具合では、まだ対地支援のストライク・パッケージはできないでしょう。であれば、F-16を2、3機ずつ特殊部隊的に使って、ウクライナ南部のアゾフ海へ抜ける回廊に、局地的な航空優勢を取る作戦にすべきだと私は思います。

F-16はまず、露軍の地対空レーダーを射程148㎞の誘導ミサイル『HARM』で潰す。次に、露軍の地対空ミサイルを射程92㎞の滑空式誘導爆弾で破壊します。

これで局地的な航空優勢を確保できたら、フランスから40発供与される予定の射程250㎞の巡航ミサイル『SCALP-EG(フランス製ストーム・シャドウ)』が生きます。ウ空軍がもともと保有していたSu-24戦闘機に搭載し、内陸の安全な空域から、クリミア大橋の重要な橋桁へ精密に撃ち込んでいくわけです」

昨年6月にウ軍が仕掛けた反転攻勢が失敗して以来、戦線はほとんど動いていない。露軍の補給線が強固な東部よりも、やはりクリミア半島を孤立させることを狙うべきだろう。F-16をフル活用してクリミア大橋の破壊、ザポリージャ州南部の補給網の遮断を狙いたい 昨年6月にウ軍が仕掛けた反転攻勢が失敗して以来、戦線はほとんど動いていない。露軍の補給線が強固な東部よりも、やはりクリミア半島を孤立させることを狙うべきだろう。F-16をフル活用してクリミア大橋の破壊、ザポリージャ州南部の補給網の遮断を狙いたい

ウクライナ軍は2022年10月、昨年8月にもクリミア大橋への攻撃に成功している。今回はより攻撃を集中させ、補給線をなるべく長期間、完全にダウンさせたいところだ ウクライナ軍は2022年10月、昨年8月にもクリミア大橋への攻撃に成功している。今回はより攻撃を集中させ、補給線をなるべく長期間、完全にダウンさせたいところだ

ロシアからクリミア半島へ延びる鉄道補給路2本のうちの1本であるクリミア大橋を破壊した後は、陸側に狙いを絞る。

「F-16は滑空式誘導爆弾、あるいはフランスから供与される精密誘導兵器『AASMハンマー』で、露軍の鉄道・道路網、砲撃火網、防御陣地を破壊します。この段階では、地上の特殊部隊が運用する自爆式ドローンによる攻撃も加え、ハイブリッド型の作戦ができるでしょう」(杉山氏)

陸の補給路を断たれた露軍は、船を使ってアゾフ海経由での補給を試みるはずだが、「F-16に搭載できる射程315㎞の対艦ミサイル『ハープーン』で撃沈することも可能ですし、ウ軍特殊部隊が運用する自爆型無人艇も、露軍の補給船を撃沈すべく監視しているはずです。

こうして南部の補給路が遮断されれば、クリミア半島は孤立し、南部の露軍部隊も混乱する。ここにウ陸軍の兵力を集中的に投入するのが最善手でしょう」(杉山氏)

上がSCALP-EG、下がAASMハンマー(写真/Wiki Commons By Killersurprise64)。どちらもフランスから供与される航空機発射型ミサイルだ 上がSCALP-EG、下がAASMハンマー(写真/Wiki Commons By Killersurprise64)。どちらもフランスから供与される航空機発射型ミサイルだ

■アゾフ海沿岸まで打突する必要はない

では、陸軍の動きは? 前出の二見氏はこう語る。

「情報戦として、『今年8月までに、NATO軍が保有する渡河資材が南部ヘルソン方面へ大量に輸送される』という話を流します。露軍はウ軍が渡河し、東へ攻めてくることを警戒しているため、ウ軍側が陽動として最小限の規模で渡河の動きを見せるだけで、露軍の兵力をヘルソン方面に張りつけ、吸引することができます。

本命のザポリージャ戦線では、南へ向けた3本の攻勢軸をまず偵察し、露軍の防御が最も手薄な1本を攻撃線として選びます。攻勢を始める前には、近距離から小型自爆ドローン、中距離から中型無人機、遠距離からはアメリカから供与されるGLSDB(ハイマースから発射する射程150㎞のロケット弾)、そして空軍のF-16やMig-29の対地攻撃で、露軍の指揮所、弾薬庫、防御陣地などを徹底的に叩きます。

そして、残り少ない貴重な砲弾は、露軍陣地前の地雷原に集中的に叩き込んで、露軍対戦車防御部隊の兵と機甲戦力を潰すことに使います。ここが不十分ですと後が続きませんから、非常に重要なプロセスです」

〝露払い〟の仕上げとして、米海兵隊から供与された「M58地雷除去ラインチャージ」を起爆させ、幅8m、長さ100mの突撃路を造る。ここに米英独製の戦車を主戦力とするウ軍機甲旅団が突撃し、露軍第1防衛線を蹂躙・突破していくのだ。

「突破口ができた後、重要なのは突破を行なう正面の敵を孤立させることです。進撃路の左右の露軍陣地の要所に空爆とGLSDBで阻止攻撃を加えながら、予備隊を逐次投入し、敵の防御組織を力で押し、広げていきます。

そうして占領地域を奪取したら、あとは確保態勢を築いて粘ることが肝要です。目的はアゾフ海沿岸まで打突することではなく、露軍の物資や部隊が移動できないよう、補給路となっている鉄道と道路を射程内に収め続けることだからです」(二見氏)

ここまでいけば、「来年にはクリミア半島の奪還へ」というムードができ、国際社会の支援熱も再び上がってくるはずだ。ゼレンスキー政権と新たな総司令官率いるウ軍は、一枚岩となって戦果を上げることができるだろうか?

左がシルスキー新総司令官、右がザルジニー前総司令官。シルスキー氏には旧ソ連型の指揮官という気になる評判もあるが、果たして...... 左がシルスキー新総司令官、右がザルジニー前総司令官。シルスキー氏には旧ソ連型の指揮官という気になる評判もあるが、果たして......

小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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