
当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表⽰する⽬的で Cookie を使⽤する場合があります。
詳しくはこちら
高市早苗首相(右)と議員定数削減を猛プッシュする日本維新の会の吉村洋文代表(左)
今、日本に求められている政治の改革は「小選挙区制度」の見直しではないのか? そう考えている政治パーソンは、実はけっこう多いらしい。平成の政治改革の中で歴史の闇に葬られた「中選挙区制度」の復興、その価値について、選挙制度改革を訴え続ける前議員とジャーナリストが熱く語り合う!
* * *
今、国会でホットな話題のひとつが衆議院議員の定数(465議席)削減だ。自民党と日本維新の会が昨年10月に結んだ連立政権合意書に「1割を目標に衆院議員定数を削減する」と明記。維新側のかねての主張を自民党が受け入れた形だった。
与党は現在、削減対象を「比例選のみ45議席」とする方針を示しているが、野党は反発している。比例区だけを削減した場合、比例当選者の多い野党が不利になるからだ。それでも与党は衆院議席の3分の2以上を占める〝数の力〟で押し切ろうとするだろう。
5月28日、議員定数削減を巡る議論をする「衆院の選挙制度の在り方を検討する協議会」の様子
ただ、そもそも現行の選挙制度そのものにメスを入れる必要はないのだろうか? というのも、最近、衆院では新しい選挙制度のあり方について議論が続いていた。その中には「多党化時代に二大政党制を想定した小選挙区制はそぐわなくなったので、中選挙区制の導入も検討すべき」という論点があったのだ。
ひとつの選挙区からひとりしか当選できない小選挙区制に対して、ひとつの選挙区から複数(3~5人)の当選者を出す仕組みが中選挙区制だ。1994年に廃止されたこの制度の復活を望む声が少しずつ盛り上がりつつある。
中選挙区制の復活ってどうなの? ふたりのエキスパートにこのテーマを語ってもらった。
* * *
(左)ジャーナリストの鈴木哲夫氏と(右)前衆議院議員の福島伸享氏
――今年2月の衆議院選挙において、小選挙区での得票率49%の自民が議席の86%を占めました。この結果について「民意を正しく反映していない」という批判もあります。
鈴木哲夫(以下、鈴木) 小選挙区制では2位以下の候補に投じられた票がすべて死に票となります。そのため2月の総選挙では、一番得票の多かった自民党の「勝者総取り」となり、単独で316議席、衆院3分の2を超えるガリバー与党が誕生しました。これを見ると確かに小選挙区制には民意が反映されづらい側面があると思います。
――そのほかにも現行の選挙制度には、1票の格差是正のために頻繁に選挙区割りを見直さなくてはいけないことや、落選したはずの候補者が比例復活で当選するなどの問題も指摘されています。
福島伸享(以下、福島) 近年、国会は現行の小選挙区比例代表並立制の弊害に気づき、抜本的な制度改革について論議をしてきました。
議論の場として、ふたつのチャンネルがあり、ひとつは衆院内に2024年12月に設置された「選挙制度協議会」(以下、協議会)。もうひとつが超党派議員で作る「選挙制度抜本改革議連」(以下、議連)。私は今回の総選挙で落選する直前まで、前者の協議員、後者の幹事長として改革案作りに取り組んできた。
予定では今年5月頃をめどに改革案の結論を出すはずでしたが、残念なことに突然の解散・総選挙で構成メンバーが大幅に変わったこともあって、協議の日程や枠組みが白紙に。以来、自民と維新は定数削減のことばかりで、選挙制度改革は足踏み状態が続いています。
鈴木 中選挙区制だった選挙制度が、小選挙区制と比例代表制の並立へと変わったのが1994年です。当初の狙いは民意の集約機能の高い小選挙区制を導入することで、政権交代が可能な「二大政党政治」を実現させようというものでした。
ただ、あれから30年以上たっても政界は二大政党への努力すらしていない。それどころか、小政党が乱立する多党化時代になりました。
福島 私が通商産業省(現経済産業省)に入省したのは小選挙区制が導入された翌年の95年。当時はイギリスやアメリカのように、二大政党による政権交代のある政治は成熟した民主主義国家の標準形態という認識が一般的でした。
私も小選挙区制の導入で、日本にも二大政党による政権交代がある、緊張感を持った政治が実現するかもしれないと期待していた。03年の総選挙時に思い切って経産省を飛び出し、旧民主党所属として茨城1区から出馬しました。
――その6年後、09年の総選挙で旧民主党が大躍進して政権交代が実現しました。
福島 このときは各省庁から多くの有望な若手官僚が二大政党制を実現させようと選挙に打って出ました。私も3回目のチャレンジで初当選を果たした。今考えると、この09年が小選挙区制の下、二大政党による政権交代可能な政治を目指そうというムーブメントのピークでしたね。
鈴木 当時、僕はテレビ局の報道部にいて総選挙を取材する立場でした。二大政党政治への移行は壮大な社会実験でもある。取材を通じて感じたのは有権者の熱でした。94年の選挙制度変更以来、多くの有権者がこの社会実験に参加した感触がありました。
ただ、政権交代を実現した民主党は、その後、混乱と失政が続いて3年で下野。12年12月の衆院選で政権を奪回した安倍晋三首相が率いる自民党も政権の座に安住して構造改革に踏み切れず、日本の長期停滞がさらに深まってしまったという印象です。
福島 平成の時代に政治学者が言っていたように「小選挙区制度を導入すれば二大政党政治になって政権交代が起こる」というのは頭でっかちの机上の空論だった、というのが今のところの結論ですね。
――では、今どんな選挙制度が日本にはふさわしい?
鈴木 僕はもともと〝中選挙区推し〟なんです。ひとりだけが当選する小選挙区制が白か黒かを決める峻烈な二元論的制度だとしたら、中選挙区制は白黒の中間にある色も選べる穏やかなシステム。穏健で急な変化を好まない日本人の国民性にも合っています。
福島 私も中選挙区制をベースとした、ひとつの選挙区で複数が選ばれる制度がいいと思っています。多くの有権者は党でなく、人に投票する。党の綱領でなく、候補者の人柄や資質を見て支持を決める。そんな有権者にとって、党を選ぶことを強いられるのはストレスです。
民意の集約を重視する小選挙区制は政権選択選挙、つまり政党を選ぶ選挙で、党より人で投票先を選ぶ日本の政治風土ではうまく機能しなくて当然です。
鈴木 小選挙区制は、世論や社会が両極端になり、分断や対立が深まりがちですよね。
前衆議院議員の福島伸享氏は「民主政治の極意は、二者択一ではなく、ひとりでも多くの国民が納得できるよう議論するプロセスにある」と語る
福島 民主政治の極意は、二者択一ではなく、ひとりでも多くの国民が納得できるよう議論するプロセスにあると考えます。
中選挙区制をベースとする選挙制度になれば、多党制となり、おのずと連立内閣が常態化します。いろいろなパターンの連立を組みながら、その過程で議論を尽くし、少しずつ相手の政策を受け入れたり修正したりしながら中庸の道を行く。そんな政治が今求められていると思います。
――実際、協議会や議連の席でも、各党の意見は細部で違いはあれど、中選挙区制の導入を良しとする案が大勢を占めていたと聞いています。
福島 昨年末の議連総会で各党メンバーがそれぞれの案を持ち寄って議論したんですが、そのほとんどが中選挙区をベースとする選挙制度に類する案で、各党が腹を割って話し合えば、抜本的な選挙制度改革案の取りまとめは十分にできると感じていました。
私自身は谷口将紀東京大学教授らが提唱する、47都道府県をそれぞれひとつの中選挙区とする比例代表制、それも党名でも候補者名でも書ける非拘束名簿式で行なうという案に魅力を感じています。
――どういったところに?
福島 まず区割りがやりやすいこと。人口最少の鳥取県を定数3にすると他県への配分もうまくできて、1票の格差是正もやりやすいです。
また、非拘束名簿式なので、私のような無所属議員でもミニ政党をつくって出馬し、10万~15万票くらいを取れば当選可能となる。比例代表と言いながら実質は都道府県単位の中選挙区制で、小選挙区制のデメリットの多くがこの谷口案だとかなり解消できると思っています。
鈴木 ただ、中選挙区制の導入を仮定するとしても、その前にやらなければならないことがふたつあると思います。ひとつは小選挙区制の総括。なぜ、30年かかっても二大政党政治は実現しなかったのか?
しっかりと政治家自身が総括しないと、次のステップに進めない。そしてふたつ目が「連立の作法」を政党が身につけることです。
――「連立の作法」とは?
鈴木 多党制の進むヨーロッパでは一政党だけで過半数を占めることが難しく、いくつかの政党が連立して政権樹立するケースが日常となっています。ただ、各党とも何ヵ月もかけて党員全員が参加して政策を議論し、「この党と連立する」と公言して選挙前に有権者に政権構想を示すことが半ばルールになっている。
中選挙区制となれば、日本でも多党化がさらに進み、連立政権となるでしょう。だったら、なおのこと事前に連立構想を示し有権者に投票の判断材料を与える「連立の作法」を政党が身につけることが必要になってくる。
自民と維新が連立しましたが、この2党は直前まで政治とカネの問題などで、まるっきり逆の主張で激しく対立していたんです。なのに突然、数合わせをして連立を組んだ。「連立の作法」がまったくできていない。
福島 日本では小選挙区制が二大政党政治に向かわないのは、〝野党第1党ボーナス〟のせいで、野党が本気で政権交代を目指さなかったからだと思っています。
例えば、24年の総選挙で野党第1党の立憲は支持率が10%もないのに、約150の議席を得ました。明らかに実力以上の議席数です。そうなった原因ははっきりしている。アンチ自民の有権者が自民候補の当選を阻止したい一心で、最も当選可能性の高い野党第1党候補に鼻をつまみながらも投票したからなんです。
――野党第1党であること自体が選挙に有利に働くこともあると。
福島 そうです。労せずしてそこそこの議席が取れるので、一度そのボーナスに味を占めた野党第1党は本気で政権奪取に汗をかかなくなるし、野党第2、第3党もまずは第1党を攻めてその地位を奪うことに力を注ぐ。こうなると、野党はドングリの背比べ状態で乱立することとなり、与党は安泰。二大政党政治は実現しないというわけです。
――選挙制度改革に自民は後ろ向き。これまで野党と同じように中選挙区制導入の検討を口にしていましたが、5月に入ると、従来の小選挙区制を重視すると言い出しました。
鈴木 2月の総選挙で、自民は全国の小選挙区の8割超で勝った。前言を翻して小選挙区重視に転じたのは、自分たちに好都合な状況を維持したくなっただけのことでしょう。
福島 自民は明らかにこれまでの選挙制度改革の論議を後退させようとしているように見えます。世界を見渡しても小選挙区制、その帰結としての二大政党制は崩壊しつつあります。
単純小選挙区制で保守党、労働党の二大政党が政権交代を繰り返してきたイギリスでは、5月の統一地方選で両党とも大敗、イングランド地方議会では新興右派の「リフォームUK」が第1党へと躍進しました。
二大政党政治が長らく続いたイギリスを揺るがしている極右政党「リフォームUK」のファラージ党首(中央)
「世界的に見ても二大政党政治にはほころびが生じている」と話すジャーナリストの鈴木哲夫氏は、多様性を包摂する中選挙区制度の復活に希望を見いだしている
鈴木 アメリカも従来の共和党、民主党のエスタブリッシュメントで構成する二大政党制に不満な層が、結果的にトランプを支持した。そう見ると、やはり二大政党制にはほころびが生じていますね。
福島 だからこそ、小選挙区制が現状にマッチしているかどうか、ここでしっかり点検すべきなんです。西洋近代が生んだ民主政は、絶対過半数を取る候補が現れるまで何度も選挙をやるコンクラーベ(教皇選挙)が原点であるといわれています。
フランスの国民議会選挙は小選挙区制ながら、2回投票制を導入している。オーストラリアのようにすべての候補者に順位をつけて投票し、そのポイントで当選者を決める国もある。単に一回の投票で相対的に多数を取ったから何をやってもいいということではないのです。
なのに、今の選挙制度で圧勝したから選挙制度改革などやりたくない、という高市政権の姿勢は疑問です。
鈴木 近年はSNSなど、ネット世論が政治に大きな影響を与えるようになっています。ただ、ネット空間と小選挙区制はあまり相性が良くない。ネットは対話より匿名の人がののしり合う空間になりがちで、対立と分断をもたらす小選挙区制はそうした傾向を加速させかねません。
そう考えると、中選挙区制に戻して多様性を高める試みはネット世論のゆがみに対抗する一種のチャレンジなのかも。選挙制度改革の行方に注目したいですね。
●鈴木哲夫(すずき・てつお)
1958年生まれ、福岡県出身。テレビ西日本の報道記者として活躍後、95年に東京メトロポリタンテレビジョンやBS11などで報道制作の中心を担った。2013年からフリーに。新聞・雑誌などへの寄稿、テレビ番組でのコメンテーターなど幅広く活躍。『東京政界地図』(河出書房新社)、『政党が操る選挙報道』(集英社新書)など著書多数。
●福島伸享(ふくしま・のぶゆき)
1970年生まれ、茨城県出身。95年、通商産業省(現経済産業省)に入省。2003年、衆院選に茨城1区から民主党公認で初出馬。2度の落選を経て09年の衆院選で初当選。21年、24年の衆院選では無所属で出馬し当選するも26年の衆院選で敗れる。「政治改革の柱として衆議院選挙制度の抜本改革を実現する超党派議員連盟」で幹事長を務めた経歴がある。




