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高市早苗首相の支持率は65.3%(FNN調査、6月14日時点)。今も高水準を維持するが、下落傾向にある
高市政権が"加速"している。首相自ら成立を目指すと宣言しつつも、ハードルが高かった法案や法改正の数々。それらを一気に審議入りまでこぎ着け、自民党の"数の力"で完成まで持っていこうとしているのだ。しかし、各法案の中身を精査すると、どれも詰め切れておらず拙速さがにじむ。高市首相は何に焦っているのか?
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「国論を二分するような政策にも果敢に挑戦したい」
高市早苗首相がそう話したのは、衆議院の解散を表明した1月19日のこと。その宣言どおり、今国会の終盤である6月に入ってから、怒涛のペースでサナエカラー全開の目玉法案成立に乗り出している。
その典型とも言えるシーンとなったのが6月16日。7月17日の会期末を見据え、衆院定数削減法案、国旗損壊罪法案、再審見直し改正法案と、一気に3本もの重量級法案を成立させる動きを見せたのだ。
自民党国会議員秘書が言う。
「この日は午後から衆院本会議もあり、目の回るような忙しさでした。この3法案は与野党間で意見の差が大きく、まとまりそうになかった難物。それでもわずか1日で衆院定数削減法案、国旗損壊罪法案の国会審議入りが確定、再審見直し改正法案は衆院議決にまでこぎ着けた。
おかげで法案を検討する党の政調審議会、総務会などは早朝からフル稼働。議員だけでなく、秘書たちも終日、野党対応などに追われました」
国旗損壊罪法案を衆議院事務総長(前列左から3人目)に共同提出する自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党の議員
ただ、高市政権が成立を急ぐ法案はこの3本だけではない。皇室典範改正案、国民投票法改正案の2本も同時進行で走っている。
皇室典範については、皇族数の確保に向け、「女性皇族が婚姻後も皇族身分を保持する」「旧宮家の男系男子を養子として迎える」の2案を軸とした「立法府の総意」がすでに取りまとめられ、6月下旬にも法案提出が予定される。また、憲法改正の前段となる国民投票法改正案も6月11日に審議入りとなり、今国会中に可決の見込みだ。
「高市政権は国家情報局設置法も5月27日に可決させている。異論が多く、継続審議になってもおかしくない法案をこれだけ一挙に成立へと持ち込めるのは2月の衆院選で大勝したおかげ。自民党は定数の3分の2(310議席)を超える316議席を獲得しましたが、そのパワーはすごいなと改めて実感しました」
ただ、その一方ではこんな声も。経済産業省の元官僚・古賀茂明氏が言う。
「多くの人々が政府に早急な物価高対策を望んでいる。そんな国民の目線からすると、いま高市首相が成立に執念を燃やしている法案は緊急性に乏しいという印象です」
国会会期末まですでに30日を切った。高市首相の公設秘書が自民党総裁選などで他候補を中傷する動画のSNS投稿に関与した疑惑があり、首相はその対応にも追われている。6月22日から始まる衆参の予算委員会などでは野党からの質問攻勢も予想され、国会日程はタイトだ。
そう考えると、これだけ多くの目玉法案を一気に仕上げようという高市政権のもくろみには無理があるように見える。
成立を急ぐあまり、サナエカラー法案の中身が生煮えのままに上程されているという点も見逃せない。
例えば、「時は来た。(憲法)改正の発議についてメドが立ったと言える状態で来年の自民党大会を迎えたい」と高市首相が今年4月にぶち上げたことから、にわかに今国会の目玉法案に浮上した国民投票法改正案。国民投票の手続きに詳しい国民投票総研の南部義典代表がこう叱る。
「自民、日本維新の会など与野党4党で提出した改正案は生煮えのままです。21年の前回改正時に付則として明記されていた『政党CMやネット広告、運動資金の規制を講じる』という宿題がまったく実行されないままになっているんです。これでは公正、公平な国民投票は実施できません」
南部氏によれば、改正案はテレビとラジオの広告放送が投票日の14日前から禁止されているのに、ネット広告にはそうした規制がなく、「AI作成の広告も増えており、誰が発信したものかもわからなくなる可能性がある」という。
「改正案には運動資金の上限ルールもなければ、収支報告の義務もない。これでは特定の陣営が資金力をバックに世論を誘導したり、発議の内容をねじ曲げて拡散したりするリスクが残ってしまう。
来年4月の自民党大会までに改正発議の環境を整えたいという高市首相の意向になんとか合わせようとこんな不十分な法案を出してきたのでしょうが、あまりに生煮えです。
国民投票法を長年ウオッチしてきた身としては、いまの高市自民の姿はレールのない鉄路に無理やり『憲法改正』という名の列車を走らせようとしているように見えてなりません」
国旗損壊罪法案もにわか作りの感は否めない。同法案は日本の国旗を損壊、除去、汚損することに対する刑罰を規定するもの。
国旗を損壊した様子をSNSなどに投稿する行為を処罰対象から外すという国民民主の修正を受け入れることで法案上程のめどをつけたものの、それまではお子さまランチの日の丸損壊を対象とすべきか否かなど、気が抜ける国会論戦に終始していた。
国旗損壊罪法案に関して、自民党は国民民主党と一部修正することで合意した。写真は国民民主の玉木雄一郎代表
「それでいて国旗を燃やすなどの行為を罰することは憲法に定める表現の自由の侵害にならないか、刑法の器物損壊罪で代替可能ではないかといった、国旗損壊罪への根本的な異論はスルーされた。国会は国の唯一の立法機関。国会議員はもっとまじめに法律作りに取り組むべきです」(全国紙政治部デスク)
皇室典範改正案にも「急ぎすぎ」の批判が上がる。愛子さまの国民人気は高く、女性天皇を容認する声は多くの世論調査で70~90%にもなる。なのに、改正案には「女性天皇の検討」という文字はどこにも見当たらない。
「皇族数を増やす手立てを講じるのは大切ですが、秋篠宮家の文仁親王をはじめ、3人の男子皇位継承者がいる。今国会でどうしても結論を出さないといけないという状況ではありません。
天皇は国民の総意に基づく地位である以上、女性・女系天皇の可能性も含め、できるだけ多くの国民が納得するようじっくりと議論すべきです。
高市政権がアピールする『改正案は立法府の総意』という売り文句も、実際には国会14会派中7会派の賛意に過ぎません」
それにしても高市首相はなぜ、サナエカラーの法案の早期成立にこだわるのか?
「首相を巡る党内力学から党を牛耳る麻生太郎自民党副総裁や、連立を組む維新への配慮が見え隠れする」と指摘するのは前出の自民党秘書だ。
衆院選で大勝し、盤石に見える高市首相だが、そんな首相にとって最も怖い存在は高市政権生みの親となったキングメーカー、麻生氏の存在だ。
「5月に高市首相を支える『国力研究会』という議連が発足し、当初は事実上の高市派になると目されていました。ところが、ふたを開けてみると、その中心にいたのは麻生氏。
しかも、その呼びかけで高市政権という勝ち馬に乗って主流派に連なろうという自民議員が347人集まり、麻生氏の政治力がさらに増すことになった。
一方で高市首相の求心力は低くなっており、実際、麻生氏周辺からは『高市支持が急落したら、次は茂木敏充外相を担ぐ』という声がちらほらと聞こえてきます。
2月の衆院選大勝のおかげで、28年夏の参院選まで国政選挙をやる可能性はほぼゼロ。なので、国民人気のない茂木さんでも十分に政権運営できると計算しているのです」
自民党の有志議員が設立した「国力研究会」の初会合の様子。麻生太郎副総裁(右)と小林鷹之政調会長(手前)
高市首相もそうした党内の空気はわかっているのか、一時は麻生氏に衆院議長就任を執拗に打診するなど、麻生封じ込めを画策したが、いまでは麻生氏に対して融和路線へとかじを切っている。
「そのサインのひとつが今国会での皇室典範改正案成立なんです。麻生氏の実妹の信子さまが三笠宮家に嫁いでおり、麻生氏は皇室とは縁戚関係。ただ、三笠宮家は女性皇族しかおらず、このままではいずれ消滅するしかない。
旧宮家の男系男子を養子にして宮家を存続する、結婚後も女性皇族として認めるなどの改正案の実現は、そんな麻生氏の不安を解消するナイスアシストになるんです」
その結果、麻生氏の首相への覚えがめでたくなれば、高市政権の安定につながるというわけだ。
では、維新への配慮とはどんなものか?
「与野党共に反対論が根強い衆院定数削減法案を推すことです。この法案は維新が自民との連立条件に掲げた肝いり政策。実現できないときは維新の連立離脱もありえる。子分の少ない高市首相にとって、維新は自民党内のうるさ方を牽制できる頼もしい集団です。
なので、高市さんは維新を手放したくない。だから、衆院定数削減法案の実現をこれほど急いでいるのです」
こうした高市首相の政治姿勢に前出の古賀氏が言う。
「高市首相の政策はどうにもピント外れが多い。緊急性のないサナエカラー政策より、給付付き税額控除の実現、富裕層への増税といった国民の暮らしが少しでも楽になる法案を優先して仕上げるべき。衆院で単独3分の2を持つ高市政権なら十分にやれるはずです」
盤石に見える高市政権だが、その足元は案外もろいのかもしれない。