友清哲
ともきよさとし
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ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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高市政権がいよいよ本腰を入れ始めた食品減税。ありがたいはずなのに、なぜかちっともワクワクしない経済対策
今年2月の衆院選で争点となった「食品消費税0%」。高市政権がいよいよ本腰を入れ始めたのだが、出てきた案は税率が1%に下方修正されている上、実施は来年春と、迷走の感が否めない。やるだけマシ? それともやってもムダ? ふたりの識者と全力で考える!
高市政権が2年間限定の「食品消費税0%」案をぶち上げたのは今年1月のこと。春を過ぎてもいっこうに動きなし......と思いきや、ここにきて0%ではなく1%で施行するプランが現実味を帯びてきた。
なぜここまで初動が遅かったのか。経済評論家の佐藤治彦氏が言う。
「0%であれ1%であれ、政府としては消費税減税なんてやりたくないんだと思いますよ。もともと選挙前に野党との争点潰しのために掲げた政策で、与党にとって決して前向きなアイデアではありませんでした。
少なくとも財務省がこの法案に前向きであるはずがなく、党内で孤立気味の高市首相にしてみれば、今後さまざまな政策を実現する上で、あまり財務省の機嫌を損ねたくないという事情もあるでしょうね」
スタートは来年春。0%案は立ち消え。その間、物価はより高騰......
減税するとなれば、当然多くのハレーションがつきまとう。
「財源をどうするのか、現場のオペレーションをどうするのかなど、多くの課題が山積しています。そこで用意されたのが社会保障国民会議、通称『国民会議』です」
国民会議とは、高市内閣が今年2月に設置した、社会保障と税の一体改革に関して超党派で議論する場のこと。実務者による会議のほかに12人の有識者が集められ、食品消費税減税案についても議論が進められてきた。
「野党を巻き込んで議論すると言えば聞こえはいいですが、今後自らに責任が及ばないよう、国民会議で決めたことだと言い逃れるためのスケープゴート的な組織にも感じます。
高市首相はこの法案を自ら積極的に主導している印象を与えないよう、慎重に立ち回っていると見受けられますし、なんなら国民会議からNGを突きつけられたのであれば、それに越したことはないというのが本心だと思いますよ」
高市内閣が設置した国民会議で、食品消費税減税の財源や開始時期といった細かな制度設計が議論されている。写真は実務者会議
とはいえ、来年4月から税率1%での減税を実現するのが既定路線。ここには来年の統一地方選挙を見据えた思惑も透けて見える。つまり、来春まで時間稼ぎをすることで、この食品消費税1%という成果の印象が色濃いうちに、選挙戦に臨もうというわけだ。
ところで、なぜ0%案が立ち消えたのか。これは実は、小売り側の事情によるものである。スーパーマーケット評論家の三浦慶太氏が理由を解説する。
「1%という数字が浮上したのは、システム面の都合です。政府がシステムメーカー各社に聞き取り調査を行なったところ、プログラムが対応していないため0%に設定することが難しいことが判明。
大がかりな改修が必要になり、準備期間が長くなってしまいます。他方、1%であれば税率の設定を変更するだけで済むので、より迅速に対応できるわけです」
ちなみにシステムにもよるが、仮に税率を0%に設定する場合、最大10ヵ月から1年ほどの対応期間が必要になるという。
システム改修以外にも問題はある。スーパーマーケットなど小売店側のシステム改修にかかるコスト負担である。
「具体的には、中小規模のスーパーマーケットで数百万円、大手チェーンでは1億円程度の費用が見込まれています。店頭システムといえば販売データを記録するPOSレジばかりがフォーカスされがちですが、実際にはほかにも基幹システムや会計システムなど多くのシステムが複雑に連携しています。
これらは各企業に合わせてカスタマイズされていることが多いため、それぞれ個別の改修、運用テストが必要でしょう」
小野寺五典税調会長は4月8日の国民会議後、税率に関して「それなら1%でいいじゃん」と関心を示した
また、それに合わせて店頭では事前の告知、値札の変更、接客マニュアルの整備など、多くの作業負担が生じることにもなる。
「加えて2年間という時限的な措置であるなら、短期間でまた元の設定に戻さなければなりませんし、改修した機能はおそらくその後、活用されることはないでしょう。それならもっと別のことに投資したほうが有意義なはずです。
負担の大きい小売りの現場からすれば、生活困窮を緩和しようという趣旨には賛成でも、別の方策にしてほしいのが本音ではないでしょうか」
また、減税しても商品の店頭価格が下がらない〝便乗値上げ〟の懸念もあるが、三浦氏の見解は明快だ。
「基本的には、店頭価格は減税された分、きちんと引き下げられると私は思います。というのも現在、店頭での価格表示は税込みの総額表示が義務づけられており、例えばスーパーマーケットでは『本体価格500円(税込価格540円)』などと、税別の本体価格と税込価格を併記するパターンが主流です。
つまり、本体価格を恣意的に変更するのはあまりにも不自然で手間もかかり、得策ではないのです」
ただし、商品の価格は平時でも日々、変動しているもの。一般的なスーパーマーケットの店頭には1万から1万5000点もの商品が並んでおり、たまたま減税のタイミングで値上がりする商品があってもおかしくはない。
「そこできっちり減税分の値下げがされているのか過度に監視するのも問題で、便乗値上げを疑い、店頭でカスタマーハラスメントが起きる恐れもありそうです」
ところで、食品消費税を1%に下げるには、年間で4.4兆円の財源が必要になると試算されている。前出の佐藤氏は財源の妥当性について、こう批判する。
「与党内ではいろんな財源案が挙がっていて、ついには税収の上振れ分を使おうという話まで出ています。でもこれは、『馬券が当たったらそれで飲み食いしよう』というのと同じレベルの発想ですからね」
実際、先日の参院本会議ではすでに、3.1兆円の補正予算が可決されている。
「これはイラン戦争をはじめとする緊急事態に対応するための措置ですが、少なくとも今年の財政に限っては、大きく上振れていたはずの税収が、あっという間に赤字に戻ってしまいました。税収の上振れ分を財源にしようという発想は財政規律を軽視しており、非常に稚拙なんですよ」
減税はする。しかしその財源は決めていない。それが今の高市政権のあり方で、このまま事が進むのであれば、「赤字国債の発行も十分に考えられる」と佐藤氏は言う。赤字国債に頼るのは負担の先送りでしかなく、円や債券の売りを加速させかねない。
実際、2月に高市首相が衆院選で圧勝すると、財政の悪化を懸念したマーケットは敏感に反応。長期国債金利は一時2.28%まで上昇し、円は1ドル=156円台まで下落した。
円安が加速すれば当然、物価はさらに上昇するだろう。つまり物価上昇の支援策が、さらなる物価上昇を招きかねないのだ。
野放図に減税を進めれば、海外投資家から円や国債が売り込まれる。円安と債券安を招きかねない
では結論。食品消費税1%って、果たして本当にやるべき?
「私の答えはNO。食品の税率を一律1%に下げるのは、あまりにも乱暴なやり方だと思います。なぜなら、消費税が下がったところで、最も得をするのは困窮者ではないから。
食品消費税の減税とは、日頃からブランド牛や高級フルーツといった食材を口にしている富裕層が最も恩恵を受ける政策なんですよ」
佐藤氏によれば、こうした不平等を是正するために海外では、「食パンと菓子パン、つまり生活必需品と贅沢品を分けて税率を変える国もある」という。日本はシステムの面でも理念の面でも遅れているのだ。
「本当の意味で国民に必要なのは、5㎏8000円のコシヒカリではなく、3000円の普通の米です。これが食品だけでなく、例えば薬や教育、光熱費といった、生活に必要なものすべてを減税する政策なのであれば私は大いに賛成しますが、このままでは豊かな人ばかりが得をすることになりかねません」
もっと言うと、本当に必要なのは支出をサポートすることよりも、賃金を上げて国民の懐を温めることだという。
「期待しているのは、片山さつき財務大臣の動きです。片山大臣は、政府が昨年11月25日に設置した『租税特別措置・補助金見直し担当室』、つまり日本版DOGE(ドージ/政府効率化省)の担当閣僚。
さまざまな税制や補助金の効果をデータに基づいて分析し、今月下旬にも定量的に示すと言っています。つまり、日本がこれまで何十年にわたって垂れ流してきた無駄な支出を整理して、新たな財源をつくると言っているわけです。高市さんに欠けている政略は、まさにこれですよ」
食品消費税についても、今月中に中間取りまとめが行なわれるという。果たして、高市政権の結論やいかに――。