友人ふたりとオランダ戦を観戦した野村さん(中央)は、2014年ブラジル大会から4大会連続でW杯に参戦。今大会のスタジアムでの飲食代の高さに不満を漏らした
チケット価格が10万円を超えるなど、あらゆる費用が跳ね上がっていると話題の今大会。W杯取材経験豊富な筆者が、現地で各国サポーターと記者の怒りの声を聞いた!
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【何もかも高すぎる!!】
「1000ドル」
6月14日、米ダラスで行なわれたサッカーW杯グループFの日本対オランダ戦。日本が2度リードを許しながらも追いつき、2-2の引き分けに持ち込んだ好ゲームの裏で、現地の日本人サポーターたちが目を疑った数字がある。
試合直前、FIFAの公式リセールサイトに並んでいたチケット価格だ。グループリーグの1試合で1000ドル(約16万円)。しかも座席は、ゴール裏を含む一般席だった。
今大会について、欧米メディアではすでに"Rip-off(リップオフ) World Cup"という表現が使われている。直訳すれば「ぼったくりW杯」。挑発的な言葉だが、現地を歩いていると、決して大げさには聞こえない。
英オンライン新聞『インデペンデント』は、今大会を「史上最も高額なW杯」と表現している。平均チケット価格は前回カタール大会の3~4倍。例えば、チームをグループステージから決勝戦まで追いかける場合、航空券、宿泊、チケットなどを含めて1万ドルから3万5000ドル、日本円にして約160万~560万円が必要になると指摘していた。なぜここまで高くなったのか。
11日に行なわれた韓国対チェコ戦で、試合開始間近にもかかわらず空席が目立つ観客席の様子(写真/時事通信社)
販売の仕組みに強い違和感を抱いているのが、日本が初出場した1998年フランス大会以来、すべてのW杯を現地観戦してきた原田さんだ。
「カタール大会で一気にチケット価格が上がった感覚がありましたが、今回はさらにその上。断トツに高いです!」
彼が今大会で観戦したのは、ダラスで行なわれた日本対オランダ、イングランド対クロアチア、そしてメキシコのモンテレイで行なわれた日本対チュニジアの計3試合。いずれもFIFAの公式販売で購入し、チケット代だけで合計約25万円に達したという。
「10試合を見たカタール大会のチケット代の総額より高かったです」
中でも驚かされたのが、グループリーグの人気カードであるイングランド対クロアチア戦だ。原田さんは約700ドル(約11万円)で購入したが、その後、FIFA公式リセールサイトでは最低価格が2000ドル(約32万円)にまで跳ね上がっていたという。
「妻からは、『売って旅行にでも行って、おいしいものを食べたほうがいいんじゃない?』と言われました(笑)」
公式リセール制度そのものが問題というわけではない。非公式な転売や偽チケットを避けられるという意味では、安全な制度でもある。だが問題は、高い手数料が胴元のFIFAに入ることと、売値の設定に上限がないことだ。
開催国のメキシコ人サポーターからも、高額すぎるW杯にうんざりとの声が噴出した
公式リセールでは売り手と買い手の双方に15%の手数料がかかる。取引が成立すれば、チケット価格の30%相当が手数料として発生する計算だ。売り手が購入額を回収しようとすれば、その分を見越して出品価格を上げざるをえない。結果として、公式リセールの仕組み自体が相場を押し上げる要因になっているのだ。
「リセールでチケットが高く売れるほど、FIFAの収入が上がる仕組みになっています。これはもう、"公式ダフ屋"といわれても仕方ないですよ。
日本対オランダ戦も、一部で空席がありました。チケットはあるのに、高すぎて買えずに入れない人がいたということだと思います。FIFAとしては、1次販売で売れていれば、実際にスタジアムに空席が出ても痛みはないのかもしれません。そこに一番違和感があります」
チケットだけではない。現地に来てからも、サポーターの財布は削られ続ける。
4回目のW杯観戦となる野村さんら、日本人サポーター3人組が不満を口にしたのはスタジアム内の飲食代だった。
「ダラスのスタジアムのビールは16ドル(約2600円)でした。しかも決済時にチップを選ばないと先に進まず、一番少なくて18%と出てくる(笑)」
さらに今大会を象徴するのが、テキーラやウイスキーなどの蒸留酒だ。前回のカタール大会ではスタジアム内でのアルコールの販売が直前で禁止されたが、今大会はW杯史上初めて蒸留酒が公式カテゴリーとして扱われることになった。
「ただ、テキーラのダブルを頼んだら40ドル。そこに18%のチップが乗って、1杯約7600円のテキーラを震えながら飲みました(笑)」
筆者がメキシコシティでの開幕戦の際にメディアセンターで食べたチキンプレートと炭酸水は、19.74ドル(約3158円)だった
物価の高いアメリカに長く滞在すれば、それだけ出費は膨らむ。そのため、野村さんたちはオランダ戦の翌日にはメキシコへ移動し、日本の第2戦のチュニジア戦に備えると話していた。
「アメリカにいると、とにかくお金がかかる。だからメキシコに逃げるしかないんです。今大会をひと言で言うなら、金、金、金という感じ。サッカーは庶民のスポーツだったはずなんですけどね......」
【各国サポーターと記者が漏らす不満】
ロンドンから来たイングランド人サポーターの3人組、ケビン、スチュアート、ボーも、今大会の物価の高さに驚いていた。イングランドは初戦のダラスから、第2戦のボストン、第3戦のニューヨークへ移動する。
そこで現地でも話題になっていたのが、会場までの公共交通機関の"W杯価格"だ。
ボストンでは、市街地からスタジアムのあるフォックスボロまでの列車往復料金が通常20ドルから80ドル(約1万2900円)へ。ニューヨーク会場でも、スタジアムまでの列車運賃が通常12.9ドルから一時150ドルに設定され、批判を受けて98ドル(約1万5800円)に引き下げられた。
左からケビン、スチュアート、ボーと並ぶ、イングランド人サポーターの3人。アメリカ国内の交通機関の値上げで、出費が大きくかさんだという
「電車代まで大幅に値上げするなんてバカげてる。車で行くにしても、ニューヨークでは駐車場代が200ドル(約3万2000円)を超えると聞いた。いったいオレたちからどれだけ金を取るつもりなのか」
市内交通に関しては、18年のロシア大会や前回カタール大会ではチケットを持っていれば無料で利用できた。それだけに、利用者が多いという理由で値上げする今回の判断には首をかしげざるをえない。
こうした高額化に、英紙『デイリー・テレグラフ』のマシュー・ロウ記者も、「悪い方向にいっている。サッカーは本来、もっと手頃な価格であるべきなのに......」と強い違和感を口にした。
英紙『デイリー・テレグラフ』のマシュー・ロウ記者
そしてロウ記者は、W杯が一般のサッカーファンから遠ざかっているとした。
「どんどん商業的になっている。イングランドでは全試合を追いかけるために、10万ポンド(約2130万円)を超える金額を払っている人もいると聞いた。完全にいきすぎている」
ただ、開催地側から見れば、こうした価格設定は必ずしも特殊ではない。ダラス近郊の地元紙『フォートワース・スター・テレグラム』のチャールズ・バガリー記者は、アメリカではNFLやNBA、MLBを見ても需要に応じて価格が変わる「ダイナミックプライシング」は珍しくないとした上で、こう話した。
「アメリカでは需要があれば人々はお金を払いますし、企業はそういう動きをするものです」
ダラス近郊フォートワースの地元紙『フォートワース・スター・テレグラム』のチャールズ・バガリー記者
それでも、今大会のチケット価格は、開催国の大統領にも高すぎると映ったようだ。大会開幕前、米紙『ニューヨーク・ポスト』のインタビューで、アメリカ代表の初戦チケットが1000ドルを超えると知らされたドナルド・トランプ大統領は、「そんな金額とは知らなかった。正直に言えば、私なら行かない」と語ったと報じられた。
【サッカーが富裕層のモノに】
W杯参加国の中でも熱狂的なサポーターが多いことで知られるアルゼンチンのエミリオ・フェデリコ・イェリッチ記者は、カンザスシティで取材したアルゼンチンの初戦について、「スタジアムは満員ではなく、あまり盛り上がっていなかった」と振り返った。そこにも高額化の影響があるとみる。
「FIFAの優先順位はサッカーの普及や発展ではなく、完全にお金儲け。決勝のチケットは最も下のカテゴリーで2000ドル(約32万円)以上。もはや、W杯は富裕層のものになってしまった。情熱を持ったサポーターたちのためではなくてね」
アルゼンチン人記者のエミリオ・フェデリコ・イェリッチ氏
サポーターは高すぎると不満を漏らしながらも、スタジアムに足を運ぶ。だからこそ、FIFAは強気な価格設定を続けられるのかもしれない。
筆者自身も98年以降、全大会を現地で見てきた。その立場から見ても、スタジアムの空気が少しずつ変わっていることは感じる。旅費を切り詰め、チケットを探し続けてきた熱心なサポーターの姿は以前より目立たなくなり、代わって真新しい代表シャツを着た富裕層らしき観客の姿が増えているように見える。
円安の影響もある。だが、それだけで説明できる話ではない。チケットも移動も飲食もあらゆるものに"W杯価格"が上乗せされている。
ぼったくりW杯――。最初はピンとこなかったその言葉も、現地を歩けば歩くほど、妙に現実味を帯びてきた。