岡崎慎司 1986年生まれ、兵庫県出身。高校卒業後清水エスパルスに加入し、得点を重ねてエースとなる。その後海外移籍し、ドイツ、イングランド、スペイン、ベルギーのクラブで活躍。一昨年現役を引退し、現在は監督業をしている
初選出された2010年W杯南アフリカ大会から3大会にわたって世界と戦った岡崎慎司が今、ドイツ6部のクラブでさらなる高みを目指している。指導することの楽しさやアマチュアならではの苦労など、余すところなく語ってくれた。
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【監督2年目の今】
「選手と監督の仕事はまったく違うし、選手時代と比べても全部が難しい(苦笑)。ただ、自分はそれを求めていましたし、やりがいはありますよ。試合に勝てばうれしいし、負ければ悔しい。引退後にまた、こうして挑戦しながら人生を歩めていることに幸せを感じています」
そう語るのは、サッカー日本代表として歴代3位の50得点を記録し、2023-24年シーズン限りで現役を引退した岡崎慎司(40歳)である。
10年南アフリカ大会から3大会連続でW杯に出場した。だが、岡崎の中には今も悔しさが残っている。その悔しさを晴らすには、再びW杯の舞台に挑むしかない――。
2010年南アフリカ大会のオランダ戦での岡崎。続くデンマーク戦でW杯初ゴールを決めたが、日本は決勝トーナメント初戦でパラグアイにPK戦の末敗れた
そう考えた岡崎は将来的な〝日本代表監督就任〟を目指し、引退直後からドイツ6部のアマチュアクラブ、FCバサラ・マインツの監督として指導者のキャリアを歩んでいる。
バサラ・マインツは岡崎自身が高校時代の仲間と立ち上げたクラブで、14年に11部からスタート。発足後5年連続で昇格し、一気に6部まで駆け上がった。だが、その後は足踏みが続いている。
岡崎が監督になって2年目の今季も、クラブは終盤まで昇格争いを演じていたが、最終節(5月24日)を前にその可能性が消滅してしまった。
「5部への昇格の壁は厚いです。実際、ずっと6部に停滞しているわけですからね。ただ、今季は終盤に8連勝で一時は(プレーオフ圏内の)2位に浮上したり、悪いシーズンではなかったと思います。
チームづくりは試行錯誤の連続ですが、ようやく大崩れしにくいチームになってきたというか。来季も6部のままですが次のシーズンが楽しみです」
日本代表として3度W杯に出場。レスター時代にはプレミアリーグ優勝も経験した。それほどの実績がある岡崎なら、引退後の選択肢はいくらでもあったはずだ。
「日本ではなくヨーロッパに残りたかったですし、選手時代はある程度縛りも多かったので、ここなら自由が利くという思いがありました。
もちろんこれは、日本代表監督を目指すには〝正規ルート〟ではないと思います。でも例えば僕が選手時代にブンデスリーガのマインツで指導を受け、現在はイングランド代表監督を務めるトーマス・トゥヘルも、指導者としてのキャリアはアマチュアリーグからでした。こういう道があってもいいと思うし、むしろ自分らしいかなって。
当面の目標は5部昇格ですが、5年、10年かかっても完全プロの3部くらいまで上げたら、それこそ自分の次の道も開ける。23年から1部で戦っているハイデンハイムは、その15年ほど前までは5部にいたと聞きますし、一歩ずつ積み上げていくしかないと思っています」
監督の難しさについては「全部っすね」と笑ったが、アマチュアリーグ特有の壁にも直面しているという。
自身がプレーしていたようなトップレベルにいるとは言えない選手たちに指導するため、岡崎自身も多くの試行錯誤をしているという
「細かい話ですけど、何げないドリブルやパス練習でも、『試合本番でそれやる?』みたいなプレーがあると、どうしても気になってしまう。ただ指摘しても、意図がなかなか伝わらなかったり。打っても響かないという点で、アマチュアの指導は子育てに近いというか(笑)。
また、チームには日本人と、ルーツもさまざまなドイツ人選手が半々くらいいます。中には気が短い選手もいて、メンバーに選ばれなければ『なんでオレが出られないんだ!』と不満を口にすることもある。
こっちからすると体も絞れていないし、よくそんな〝おなか〟で言えるなと思うんですが(苦笑)、それでもチームをひとつにまとめなければいけない難しさは感じます」
【〝岡崎慎司〟の徹底のためにAIを活用】
また、岡崎はクラブ会長として運営や営業でも重責を担っており、ピッチ内外で奔走する姿は現役時代と重なる。
「基本的には監督で、その延長線上に会長があるという感じです。ただ、いろいろなことに関われるのはすごく新鮮ですし、気づいたら現役のときと一緒で、できることは一生懸命、できないことは周りにカバーしてもらいながらやっています。
自分ができそうなことなら、とにかく突っ込んでいくのは現役時代のプレースタイルと一緒。失敗したら、またそれを次に生かせばいいんです」
バサラ・マインツの選手、コーチ陣の集合写真。監督の岡崎は中央に座っている(提供/FCバサラ・マインツ)
パソコン操作は決して得意なほうではない。だが最近は、ChatGPTに〝壁打ち〟をするなど、AIツールも積極的に使っているという。
「考えをブラッシュアップするのに使っています。何か新しい提案や挑戦をするときに、『岡崎慎司だったらどうするか』をAIに聞いたり。すると自分っぽい答えが返ってくるので、それを基にまた考えるわけです(笑)」
充実感は伝わってくる。だが、かつてブンデスリーガやプレミアリーグなど大舞台を何度も経験してきた岡崎だけに、物足りなさを感じることはないのだろうか。
「それはないですね。もちろん数百人の観衆の前で試合に臨むのと、オールド・トラフォード(マンチェスター・ユナイテッドのホームスタジアム)で戦うのは違います。ただ大事なのは目の前のことで、そこにフォーカスできるのが自分の強みというか。
現役時代、自分のゴールを見返すことはあっても、人のゴールにはそこまで興味がなかった。なのに、今はチームのゴールを何回も見てますからね。カテゴリーは違っても、チームのゴールを見返すと、自分が決めたみたいに『よく決めた!』ってうれしいんですよ」
その言葉の端々からは、クラブへの深い愛着がにじむ。
「バサラ・マインツがあるおかげで、壮大な夢に向かい、人生をまた楽しませてもらっていますからね。日本のバサラ兵庫も今、関西1部(社会人)で戦っていますが、その試合もつい先日ドイツで朝4時からYouTubeで見ました。
アカデミーの試合結果も必ずチェックしていますし、なんなら選手時代以上に充実した日々を過ごさせてもらっているかもしれません」
【W杯特有の緊張感は受け入れるしかない】
北中米W杯の開幕が迫っている。将来の代表監督を目指す岡崎が、森保ジャパンをどう見ているのかも気になる。
「グループリーグではオランダ、チュニジア、スウェーデンと同居しましたが、実力のある欧州勢が2チーム入るなど、かなり厳しいグループだと思います。日本にも突破する力はありますが、逆に敗退しても不思議ではない。
また、グループリーグ突破後もブラジルやモロッコのような強豪と当たる可能性は高く、そういう相手との戦いを楽しめるかどうかも結果を左右するカギになるかもしれません」
一昨年の引退記者会見では「挑戦」と書かれた色紙を掲げ、日本代表監督になる目標を宣言した(写真/共同通信社)
3月のウェンブリーでイングランドに勝利した一戦は、現地で観戦した。
「本番では、試合の最初からあの試合同様に〝超攻撃的〟な布陣でいくのは、少し怖い気もします。ウイングバックの堂安 律も中村敬斗も守備はできますが、オランダには193cmのガクポ(リバプール)のような攻撃的な選手がウイングにいますし、彼とマッチアップしたときにどうなるのか。
守備面を考えれば冨安健洋らを先発起用し、終盤に攻撃的な選手を投入して勝負に出るのもひとつの手かなと思ったりします」
特に注目している選手などはいるのだろうか。
「守備のキーマンは谷口彰悟じゃないですか。3バックの中央での起用が有力ですが、冨安、板倉 滉、伊藤洋輝がケガから戻ったばかりということを考えても、今季シント=トロイデン(ベルギー1部)で充実のシーズンを送った谷口への期待は大きい。
ただ、攻撃では代えの利かない選手と考えられていた三笘 薫がケガでメンバー外になってしまったのは、やはり痛いですね......」
W杯は独特な緊張感があり、通常の試合とは雰囲気も大きく異なるといわれる。最後に、その独特の緊張感とどう向き合ってきたのかを聞いた。
「W杯に緊張感があるのは当然じゃないですか。4年に1度の大会で、最初の3試合で次のステージに進めるかどうかが決まってしまうって残酷すぎますから(笑)。W杯で緊張しない選手なんていないと思うし、対処法なんてなく、受け入れてやるしかない。
W杯で活躍すれば一気にスター選手として認められますし、思いどおりのプレーができなければずっと悔いが残る。そんな大会はほかにない。だから日本の選手も海外に出たりしながら、そこを目指しているんでしょう。
18年ロシアW杯後にスタートした森保ジャパンにとっても今大会は集大成。どんな景色を見せてくれるのか、本当に楽しみにしています」