
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
「Claude」シリーズを開発しているのは米AI企業アンソロピック。CEOのダリオ・アモデイ氏自身も、自社のものを含むAIの急速すぎる発展には警鐘を鳴らす発信をしている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「提供を禁じられたAI」について。
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「イーロン・マスクはマジすごいわ」
スペースXの上場で話題をさらっているマスク氏は、約1年前には米国の行政支出を削減するDOGE(ドージ/政府効率化省)を率いていた。日本ではほとんど報じられていないが、官公庁の支出データをAPI(ソフトウェア同士の連携窓口のようなもの)で公開している(!)。
自国民どころか他国民までもが、米国の官公庁について独自の支出分析・可視化アプリを作成できる。すごい情報公開。さらに官公庁ごとのコスト削減ランキングのオマケつき。こんな改革をマスク氏にやらせちゃう大胆さこそが米国の強みだ。
ところで、私がこれを紹介した知人は、米国の官公庁ごとの支出ダッシュボードを作成した。この知人はプログラミングなんてできない。APIを使ったアプリを自作できたのは、AIコーディングツール「Claude Code(クロード コード)」のおかげだ。
提供元はアンソロピック。スペースXと提携している米企業だ。私もClaude Codeでさまざまな業務用のアプリを作成した。びっくりするくらい便利だ。
そして、決定的だったのが次に発表されたClaudeの「Fable 5(フェイブル ファイブ)」というモデル。危険すぎて一般公開できない「Mythos(ミュトス)」を安全にしたモデルとされた。
最高すぎて驚愕(きょうがく)した。私の息子は空手を習っているが、動画を読み込ませて突きの速度を分析するアプリがあっさりできた。すげえ、なんでもできるじゃん。
ただ、熱狂は72時間しか続かなかった。6月12日、米国のドナルド・トランプ政権は国家安全保障上の懸念を理由に外国籍の個人や企業への提供を禁じた。きわめて高いハッキング能力や、サイバー攻撃に応用できること、さらに他国が活用することで米国の防衛優位性を失墜させる可能性があるからでもあった。
アンソロピックは自国民と他国民のユーザーを厳密に区分けできず、全世界で強制停止するしかなかった。
この日は金曜日だった。しかも命令は午後5時。こりゃ殺生でっせ。すぐさま止めろっていうから、従うしかないじゃん。同社の弁護士も高級ディナーに向かっていただろうし。
私はサプライチェーン分野に従業しているのだが、これまで輸出規制ってのは遠心分離機とか高性能半導体とかの物理的な対象だった。ソフトウェアであっても、たとえば印刷したソースコードをもちだすとか、物理メディアを販売するとか。
それがなんと、今回はAPIなどを含む、Fable 5を呼び出して使う行為そのものが技術移転として違法の可能性あり、とされたのだ。これは大きなことだ。技術そのものが移転されるのではなく、技術を呼び出すことが使用権として規制されたのだ。
なお、この懸念はAWS、グーグル、マイクロソフトなどが構成する米国の防衛パートナーから政府に提示された。いずれもアンソロピックと提携、資本関係にある会社だ。ユーザーとしては残念だが、ある意味、米国の民主プロセスの健全さを示した。
もちろん米国だけが停止しても、中国など他国はもっとヤバいAIを開発していくだろう。実際にそのような指摘も多い。
しかし、だ。たとえば中国が激スゴAIを開発したとしよう。他国だって、そのAIにアクセスし、コピーし、類似品を作成できる。規制も独走も大して意味はない。ああAIバンザイ。