
小宮良之
こみや・よしゆき
小宮良之の記事一覧
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。ジャンルを超えた活動を続け、小説に『ラストシュート 絆を忘れない』『氷上のフェニックス』(角川文庫)。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
日本代表でも活躍する髙橋(左)や、関田(右)らが高い技術を披露。シーズンを通してファンを魅了した
「世界最高峰のバレーボールリーグ」を目指す大同生命SVリーグ、男子の2年目は大盛況で幕を閉じた。レギュラーシーズン、各チームは44試合の長丁場を戦い、歴代最多入場者数の数字を塗り替えた。髙橋 藍(サントリーサンバーズ大阪→ポーランドリーグのルブリンへの移籍を発表)、西田有志(大阪ブルテオン)、水町泰杜や宮浦健人(共にウルフドッグス名古屋)、柳田将洋(東京グレートベアーズ)など、人気選手がバレー界を盛り上げた。
5月15日から行なわれたチャンピオンシップファイナルでは、3日間で約3万5000人を集客している。初日の試合はゴールデンタイムの地上波で放送。グッズ収入も好調で、売り切れが相次いだという。
選手のアイドル的風貌から女性ファンに支えられているのは事実だが、今回のファイナルでは男性客の姿も目につくなど、人気の底上げに成功した。
男子バレーは、パリ五輪でもテレビ視聴率ランキングで複数の試合が上位に入ったが、その勢いは衰えていない。この1、2年で最も成長を遂げたスポーツのひとつだ。
ムーブメントを牽引したのは髙橋と言っていいだろう。かつて、Jリーグ発足前にブラジルから三浦知良が戻ってきたように、イタリア帰りの髙橋がリーグの人気向上にひと役買った。
今や「好きなスポーツ選手」ランキングでも上位。モデル顔負けの容姿が注目されがちだが、人気の理由はそれだけではない。単純にプレーがスペクタクルにあふれているのだ。
身長188cmは男子バレー界では大きくないものの、傑出したジャンプ力から空中で止まるように打つスパイクはかけ値なしに美しい。肉体を自在に動かすことで、ストレートやクロスを打ち分け、ブロックにわざと当ててはじき出し、背面ショットや〝まねきねこショット〟を放つなど攻撃は多彩だ。
真骨頂はバックアタック。背後から跳び、力強く打つ。まるでオオワシが地上から羽ばたいて、上空から獲物を急襲するようだ。彼の「目の良さ」もあってブロックとレシーバーを視野に入れ、最適の軌道を見つけられるのだろう。
髙橋本人もこう語る。
「バックアタックは何より好きですね。自分はスパイカーとして〝前跳び〟をするタイプで、性に合っているのかもしれません。
例えばレフトのスパイクでも、自分の場合、少し前に跳んでいるんです。前に跳ぶのが好きな分、高校時代からバックアタックが得意だったのかなって。あとはブロックが見やすくて、視野が広がるので」
SVリーグ男子2年目の王者となった大阪ブルテオン。エースの西田ら、各ポジションのトップ選手たちが活躍した
その髙橋と双璧を成すのが西田だ。コート上でほえる姿がトレードマーク。喜びを表すドラミングで、会場全体を明るくともす。彼自身が〝発電所〟のようだ。
もっとも、普段の西田は哲学的で、求道的で、思索・仮説・実証を好む。バレーをひとつひとつ部品に見立て、再構築するような探究ぶりで、そのこだわりは極まっている。紡ぎ出す言葉は禅問答のようで、言葉を尽くすことで言葉以上の〝考えるよりも感じる〟という境地に立とうとしているのかもしれない。
西田が極めつつあるのが、無回転サーブだろう。球速だけで言えば、同じようなサーバーはいるのだろうが、彼のボールは手元で不規則な軌道を描くことによってレシーバーを困惑させる。着弾先は、本人にもおそらく100%は予測できていない。
「人それぞれですが、自分はボールを芯でとらえるようにしています」と西田は説明した。
「芯をとらえるとボールは回転せず、狙ったコースに入ってから変化するんですよ。回転させるか、無回転かを考えたとき、自分としては回転がかかっていないほうが(ボールが)重いなという感覚で。
サッカーも、無回転シュートがキーパーの手をはじいて入っちゃうシーンを見ますし、その理屈というか......。まあ、いろんなタイプがいるのが、バレーの面白いところなので」
明快な理論だった。そして今回のチャンピオンシップ、西田は正念場で幾度もサービスエースを記録。サントリーとのファイナルでも、1試合目を先取されてからの逆転でチームを優勝に導き、彼自身はチャンピオンシップMVPを受賞した。
各ポジションでも、人気選手が出てきている。
五輪連覇中のフランス代表のセッター・ブリザールもブルテオンでプレー。強豪国の選手たちがリーグのレベルを上げる
セッターでは関田誠大(サントリー)、フランス代表のアントワーヌ・ブリザール(ブルテオン)が、トスワークで〝世界観〟を感じさせる。果たして、彼らがどこにトスを上げるのか。その意表を突くプレーは〝知的財産〟と言っていい。ツーアタックや片手でのトスは感覚を刺激し、そのコンビネーションはバレーの奥深さを感じさせる。
リベロでは山本智大(ブルテオン)、小川智大(ポーランド・ルブリンへの移籍を発表)が、共に世界最高級だ。うなりを上げて襲いかかってくるボールを、簡単に飼いならすようなレシーブは傑作。神がかったディグ(スパイクレシーブ)がフォーカスされがちだが、ふたりとも目立たないブロックフォローを丁寧に繰り返してチームを救う。ラリー戦では独壇場だ。
ミドルブロッカーでは、小野寺太志(サントリー)、エバデダン・ラリー・アイケーや山内晶大(共にブルテオン)が攻守の要になっていた。ネット際で君臨するとき、彼らは門を守って立ちはだかる金剛力士像のように映った。その剛直さを支えていたのは、ミドルの資質とも言える質朴さ、実直さだ。ラリーはミドルの流儀をこう語っている。
「僕はミドルブロッカーというポジションなので、隠れていきたいんです。ブロックも、クイックもいきなり現れて決める。むしろ〝目立たなさ〟を売りにしたいんです」
チャンピオンシップファイナル、ラリーが身長218cmの大砲ドミトリー・ムセルスキーをシャットアウトしたブロックは壮観だった。最高の脇役が、主役を食った瞬間というのか。戦術的な読みがハマったプレーで、それもバレーの醍醐味と言えるだろう。
男子バレーは、6月から本格的に代表シーズンに入った。今年は2028年のロス五輪に向けたアジア予選も始まる。敵味方で戦ったSVリーガーたちも、今度は同志として戦う。
日本男子バレーにとって、次の舞台の開幕だ。