占い師・細木数子のドラマ『地獄に堕ちるわよ』 瀧本智行監督が語る撮影の裏側「たぶん、呪われてますね」

取材・文/尾谷幸憲 撮影/佐々木里菜

本作の監督を二度も断っていたという瀧本監督本作の監督を二度も断っていたという瀧本監督
主演の戸田恵梨香が演じる細木数子のビジュアルが公開されるや否や、ネット上で大きな話題を呼んだドラマ『地獄に堕ちるわよ』。そのメガホンを取ったのは、"細木数子嫌い"を自称する瀧本智行監督だった。

なぜ依頼を引き受け、「細木数子」というテーマとどう向き合ったのか? NGなしで語ってくれた。

*  *  *

【大っ嫌いな人物を描いてしまった男】

――瀧本監督といえば日本映画の伝統を受け継ぐ「硬派な監督」というイメージがあります。そんな方がまさか細木数子氏を描くことになろうとは。彼女はスキャンダラスな人物で、ある意味"キワモノ"じゃないですか。

瀧本智行(以下、瀧本) 自分もこんなことになるとは思っていませんでしたね。この作品はもともとNetflixさんが立ち上げた企画で、主演が戸田恵梨香さんに決まっている状態で僕に依頼が来たんです。実は、その誘いを2回断っていまして。

――なんと。その理由は?

瀧本 控えめに言って細木さんが嫌いだったんです。細木さんは昭和から平成にかけて、絶大な人気を誇る占い師でした。平成中期にはテレビのゴールデンタイムに冠番組を持っていて、番組ではゲストを上から目線で罵倒するようなこともしていらっしゃった。

一方で細木さんは占いで集めた人気を軸に霊感商法のようなビジネスに手を染めたり、反社会的勢力の人間とも交遊があった。今の感覚でいったら完全に「アウト」です。実際、当時は週刊誌をはじめとするマスコミから批判の集中砲火を浴びたりもしていました。

そんなこともあって、当時の自分は細木さんに対して嫌悪感しかなかったわけです。細木さんがテレビに映ったらチャンネルを替えてしまうくらい苦手だった。そういう人を主人公として描くのは、さすがに及び腰になりますよね。主人公を愛せないと作品は作れませんから。

主演の戸田恵梨香が17歳から66歳の細木数子を演じ分ける難役に挑む。予告編の公開後、その演技の迫力が大きな話題を呼んだ主演の戸田恵梨香が17歳から66歳の細木数子を演じ分ける難役に挑む。予告編の公開後、その演技の迫力が大きな話題を呼んだ
――じゃあ、なぜ最終的に引き受けちゃったんでしょう?

瀧本 Netflixのプロデューサーの熱意にほだされたといいますか。こんなことを言われたんです。

「ここまで細木さんのことを嫌いな監督はいない。そういう監督が撮ったほうが、このドラマは面白くなるはず。これを撮れるのは瀧本さんしかいない!」

そうなると「豚もおだてりゃ木に登る」じゃないけど、「そんなもんかいな?」と思い始めてしまった。

さらに知人の作家・桜木紫乃(しの)さん(代表作『ホテルローヤル』など)に相談したら、こんな答えが返ってきまして。

「私も嫌いなキャラクターを書くことがあるけど、書いてるうちにそのキャラクターが好きになる瞬間がある。そうなったらもうこっちのもんよ」

ここでも「そんなもんかいな?」と思ったりして、少しずつ前向きになって最後は依頼を引き受けましたね。

【細木数子はトランプに似ている!?】

――こうして瀧本監督はメガホンを取ることになったわけですが、実際、大変じゃなかったですか?

瀧本 ええ。僕は細木さんのことをよく知りませんでしたし、興味すらなかったですからね。そしたらNetflix側が彼女を知るための資料をドーンと用意してくれたんです。

細木さんご自身が書かれた『女の履歴書:愛・富・美への飛翔』(1988年)、ルポライターの溝口敦さんが書いた細木さんを断罪する本『細木数子 魔女の履歴書』(2006年)を筆頭に、雑誌の過去記事もたくさん用意されました。それがもう、記事だけで5㎝くらいの分厚さなんですよ。すごいプレッシャーでしょう?(笑)

でも、それを読んでいくうちにだんだんと細木さんがどんな人物だったかが、なんとなくではあるんですが、わかってきた気がしました。

――分析の結果、細木さんはどんな人物だと思われました?

瀧本 トランプ大統領やプーチン大統領、あと大企業の経営者なんかはサイコパス的だと一般にいわれていますよね? 世界を自分中心にとらえていて、他人に対して共感する能力に欠けていると。

細木さんもそれに近い気質があったんじゃないかと思います。わがままだし、欲望に忠実で、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるタイプですからね。

ただ、他人に共感する力がなかったわけじゃない。まっとうなコミュニケーションができないと、占い師の仕事は務まらないでしょうから。

おそらく彼女は本質的には弱さやもろさをお持ちだった方で、それを隠すために「細木数子」という権威的な存在を演じていたのでは? そう考えるようになってから、やっとこの主人公を描けるんじゃないかと思い始めたんです。

本作の監督を引き受けた後、葛藤しながらも細木数子の人物像を徐々につかんだと語る瀧本監督本作の監督を引き受けた後、葛藤しながらも細木数子の人物像を徐々につかんだと語る瀧本監督
――細木さんには養子縁組を結んだ娘さんで、彼女考案の「六星占術」の後継者である細木かおりさんがいらっしゃいます。彼女に許可取りはされたんですか?

瀧本 ご挨拶には伺いましたが、本作はドキュメンタリーではなく、あくまでフィクション。脚本を見せる必要はないっていう強気な方法を取らせていただきました。これはプロデューサーの方針でもありました。

かおりさんからは、ひとつだけこう注文がありましたね。

「母は六星占術に関してはしっかり勉強をしていた。決して適当に嘘八百でやっていたわけじゃない。そのことだけは描いてくれ」

それは納得でした。資料を読む限り、細木さんは欲しいものを手に入れるための努力は惜しまなかった人です。占い師として身を立てるため、占星術を深く勉強していたのは間違いない。これは劇中でもさりげなく表現させていただいています。

ただ、細木さんの師匠といわれている占星術師・神熙玲(じん・きれい)さんは「あの人は占いを理解してない」っておっしゃられていたんですけどね。

――もう、どれが本当でどれが嘘だかわかりませんね。

瀧本 ドラマ冒頭に「この物語は事実に基づいた虚構である」とテロップを入れたんですが、それは「本作はあくまで僕から見た細木さんを描いたものだ」というエクスキューズです。

そして、さっきお話しした「細木さん自身が虚勢を張って生きていた」、つまり「虚構を生きていた」というダブルミーニング的な意味合いも込めています。

【監督の身に起きた「呪い」とは?】

――本作は「虚構」というよりもリアリティに満ちています。劇中では細木さんが生きた昭和から平成の町並みやファッション、カルチャーが詳細に再現されていました。彼女を演じる戸田恵梨香さんの鬼気迫る演技もリアルです。

瀧本 映画もドラマも、要は虚構です。戸田さんのような演技ができる役者さんがいないと成立しません。そういった意味で、本作は戸田さんあっての作品です。彼女の演技に助けられたこともたくさんあるし、撮影中、彼女の芝居を見て泣いてしまったこともありましたね。

細木数子が「生涯愛した男」として描かれるヤクザの堀田雅也(右)は、生田斗真が演じる。劇中には彼女の人生を狂わす男が何人も登場する細木数子が「生涯愛した男」として描かれるヤクザの堀田雅也(右)は、生田斗真が演じる。劇中には彼女の人生を狂わす男が何人も登場する
――驚いたのは戸田さんが10代後半の細木さんを演じるシーンです。頬が少しふっくらしていて、映画『DEATH NOTE(デス ノート)』(06年)出演時の戸田さんを思い出しました。これはわざと太ってもらったんでしょうか?

瀧本 いいところに気づきましたね~。実はあれ、VFX(視覚効果を表現するデジタル技術)なんですよ。しかもAIじゃない。CGアーティストに戸田さんの顔をひとコマひとコマ、手作業で修正してもらったんです。

映像は1秒で24コマもあるので、とんでもない作業量です。しかもキャラクターが走ったり、踊ったりするシーンもある。担当のCGアーティストは3ヵ月間くらい引きこもって作業をしてましたね。

――それこそ地獄じゃないですか。

瀧本 地獄だったでしょうね(笑)。そのおかげで戸田さんを10代のようにふっくらさせることができて、しかも違和感もない仕上がりになりました。本当にありがたいです。

――恐ろしい技術力!

瀧本 でもね、地獄はこれだけじゃなかったんですよ。撮影に入る直前、京都にある細木数子さんのお墓に主要なスタッフ10人くらいでお参りに行きました。

そしたら、その晩から僕ともうひとりの監督・大庭功睦(おおば・のりちk)君だけが原因不明の高熱を出したんです。ほかのスタッフは全員ピンピンしてるのに、僕らだけ39.5℃の高熱にうなされた。1週間くらいして回復した頃、大庭君とこんな会話をしましたね。「これって、たぶん呪いだよね?」って。

――ひええ!

瀧本 細木さんからしてみれば「おまえらええかげんにせえよ! 私に黙って何勝手に作っとんねん!」って話ですからね。おそらく"そういうこと"だったんでしょう。

で、いよいよ本作は4月27日から配信が始まるじゃないですか。僕が今心配なのは、ヒットするとかしないとかじゃなくて、自分の身が安全かどうかっていうことですね。あの1週間の高熱を超える"何か"が来るかもしれないわけですから。

――これはえらいことになるかもしれませんね......。

瀧本 もし万が一、僕の身に"何か"が起きたら、ぜひ週プレさんには追加で記事を書いていただきたいです。「原因は呪いだったのではないか?」と。作品の宣伝にもなると思うので、きっとNetflix側も喜ぶでしょう。このインタビューは僕の遺言になるかもしれません(笑)。

●瀧本智行 
1966年生まれ、京都府出身。93年からフリーの助監督として活動を始め、2005年に自ら脚本を執筆した映画『樹の海』で監督デビューを果たし、第25回藤本賞新人賞を受賞。その後、『犯人に告ぐ』(07年)、『イキガミ』(08年)、『脳男』(13年)などで監督。そのほかにテレビドラマの脚本も手がけている


■Netflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』 
2026年4月27日(月)からNetflixで世界独占配信 
「地獄に堕ちるわよ!」という強烈なキメぜりふで平成のテレビを席巻した占い師・細木数子(演:戸田恵梨香)。著書は「世界で最も売れた占い本」としてギネス世界記録に認定され、社会現象を巻き起こした。しかし、その毒舌と予言のウラには、夜の街・銀座を必死に生き抜いた過去があった。戦後の焼け野原で飢えていたひとりの少女が、だまし、だまされながらも巨万の富をつかみ、果てにはヤクザと手を組んで占いで天下取りを狙うまでが描かれる。しかし、彼女の右腕にして弟の久雄が放った「姉の話は真っ赤な嘘だ」というひと言でその神話は崩れ、女帝のウラの顔が暴かれる。スキャンダルにまみれた彼女の人生の"真実と虚構"に迫る

  • 尾谷幸憲

    尾谷幸憲

    おたに・ゆきのり

    カルチャー系のライター。『週刊プレイボーイ』(集英社)、『ヤング・ギター』(シンコーミュージック)などの媒体で執筆。著書に小説『LOVE※』(講談社文庫/内容みか共著)、『ラブリバ♂』(ゴマブックス)、『J-POPリパック白書』(徳間書店)ほか。「学校法人 東放学園音響専門学校」にて講師も務める。

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