大阪・西成の伝説のホルモン屋「やまき」。休業中の店を復活させたふたりのボクサーの心意気と運命の物語【後編】

取材・構成/ボールルーム 撮影/加藤慶

店主の恵良敏彦(えら・としひこ)さん(左)と李明浩(り・みょんほ)さん(左)店主の恵良敏彦(えら・としひこ)さん(左)と李明浩(り・みょんほ)さん(左)
2026年4月15日(水)14時。約3年前から休業していた大阪市西成区の名物ホルモン店「やまき」が復活オープンした。以前から西成で一、二を争う行列のできる名店だったが、2023年夏ごろから店主が体調を崩して休業。店は閉まったままだった。

3年の時を経て、復活を成し遂げた立役者は現役最年長プロボクサーの恵良敏彦(えら・としひこ)さん(51歳)と元プロボクサーの李明浩(り・みょんほ)さん(43歳)。ふたりに名店再オープンまでの道のりを聞いた!

前編はこちらより

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やまきの復活を決意したふたり。復活のためルーツをたどっていったところ、鶴橋のお肉屋さん(やまき食肉店)にたどりついた。そこで、先代やまきが開店された経緯が判明したという。恵良さんが語る。

「やまきの本家のお肉屋さんは、もともとだんご屋さんだったのをお肉屋さんに変えたそうです。そのお肉をさらにたくさん売ろうということで、自動車に鉄板とホルモンを乗せてあちこちでホルモンを焼いては売る、今でいうキッチンカーみたいなのを4台走らせたんです。

そうこうするうちに、西成のこの場所が空いたという情報が入ってきて、じゃあ4台のうち1台を車で売るのをやめてこの場所に固定のホルモン焼きの店を出したのが、西成のやまきのはじまりだったそうです。お肉屋さん直営のホルモン焼き店ですから、当然のことながら店で出すホルモンはどこよりも新鮮。おいしいのも当然だったわけです」(恵良さん)

新鮮なホルモンは1串90円 新鮮なホルモンは1串90円
そして昨年の冬、お肉屋さんのオーナーに説明し、再オープンさせたい気持ちを伝えに挨拶に出向いたという。

「オーナーは僕のユーチューブとかを見てくれていて、ボクシングで頑張ってくれているのも応援してくれていました。話をするうちにお互いの息が合うという印象でしたね。もちろん再オープンの承諾はいただいて、実際に話はトントン拍子に進んでいきました」(恵良さん)

【ミョンちゃんと、やまきを出した本家本元のお肉屋さんとの不思議な縁】

さらにミョンちゃんと、この鶴橋のお肉屋さんとは驚くべきつながりがあったという。

「僕の生まれは鶴橋なんです。そしてその鶴橋にあるやまき本家のお肉屋さんは、僕が子どものころからよくお肉やホルモンを買いに行っていた店だったんです。もう自分でもびっくりしてしまって。

さらに、この肉屋さんの近くで僕のおばあちゃんが海産物を売る店をやっていて、それをこのお肉屋さんのオーナーに話したところ、『あんた、あの店やってたおばちゃんのお孫さんかいな』と、向こうのお肉屋さんのオーナーもびっくりされはって、『実はあの店のおばちゃん(ミョンちゃんの祖母)に、僕はめちゃくちゃかわいがってもろてたんや』とか言い出して(笑)。 

ふたりとももうびっくりの連続でした。やまきをもう一度復活させてくださいとお願いにいったつもりが、話してみたら昔からお互いのところを行き来していた間柄とわかって......。僕はやまきをやるべくして、今ここに来てるんやなと思えてきて、もう不思議な縁というか運命を感じました」(李さん)

【タレの味付けに関しては、船場吉兆の元料理長にもアドバイスをもらう】

ニンニクと唐辛子がガツンときいた、やまき秘伝のタレニンニクと唐辛子がガツンときいた、やまき秘伝のタレ
そしていよいよ開店へ。最も大変だったのは味の伝承。やまきのホルモンの要である、味付けやタレの再現について恵良さんは苦労を語る。

「レシピも残ってはいたんです。それをもとに作ってみては、昔の味を知っている方に食べてもらい、『この味や』というのにちょっとずつちょっとずつ近づけていって、最終的には船場吉兆の料理長を務めていた方にアドバイスをもらいながら仕上げていきました。なので、みんなで作り上げた味って感じなんです。

味のことを考え始めると、なかなか眠れないこともありました。最近は夢にまで出てくるようになって。先日なんか、ネギを持ってきたお客さんが『ここにネギいれるとうまいねんな』とか言い出して、タレの中にネギをどばどば入れる夢をみました。実際にはネギなんか一切使ってはいないんですけど(笑)。とにかく味をどうもっていくかについては、寝ている間もうなされています(笑)」(恵良さん)

実際にやまきを復活させて感じたことを尋ねてみた。

「改めて、みんなに愛されて、支えられていた店なんだなということがすごくわかりました。味ひとつとっても、みんながこうだった、いや昔はああだったと本当に正確に味を再現してほしいという熱い気持ちから意見をすごく言ってくれるんです。

また、ほとんどの人が、後ろにずらっと行列ができているのを見て、そこそこ食べたらこの後に行列に並んでいる人に早く席を譲ろうと、長居しないように気をつかってくれて、食べるのが長引かないようにしているのがこちらにも伝わってくるんです。

後ろに並んでいるお客さんが早く食べられるように気を遣ってくださって、たいてい30分ほどで食べるのを終えて、次に並んでいる人に席を譲ろうとされている感じです。

ただ、いろんなやまき愛の形があるもので、中には『よし、今日はおもいっきり食べて飲んで、やまきに売り上げ貢献するぞ』と3~4人のグループで一時間以上粘って、がぶがぶお酒を飲むお客さんもいらっしゃいます。

こちらとしては長い行列ができているので、待っている人のことを考えるとそのへんで、とも思うのですが、これも、この人たちなりのやまき愛の表現なんです。

また、常に行列に人が並ぶので、閉店時間が近づくと『今日は終わりです』と並ぶのをお断りする声をかける役割、つまり『最後係』をお客さんにお願いしているんです。この最後係をやっていただいたお客さんにはお礼にビールを一杯サービスしていますが、最後係の人が店に入って飲む時はなぜか店が盛り上がります。中には『最後係、楽しかったしビールもいただけるからまた来た時もやりたい』という人もいました。本当にありがたいです」(恵良さん)

とにかく、みんなやまきが大好き、やまきのために何かしてあげたい。そんな気持ちになっているようだ。それは店を復活させたふたりも同じだ。

「長い人は4時間も並んでやっと食べていただいています。それでも、全然いやな顔せずに、ホルモンをほおばりながら『ああ、おいしい』『同じ味や』と言いながらうれしそうな顔で黙々と食べられるんです。それを見ているとこちらまでむちゃくちゃ幸せな気持ちになります。この店はみんなの愛で支えられているなあって、この店で働けるのは幸せやなあって僕自身もめちゃくちゃ思います」(恵良さん)

やまき愛にあふれるふたり。今日もみんなの幸せそうな顔を眺めながら鉄板の前に立ち続ける。

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