
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
6月8~9日、中国の習近平国家主席が7年ぶりに北朝鮮を訪問。朝鮮労働党の金正恩総書記と会談し、戦略的連携を強化した。日本も無関係ではない(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――なんでも19世紀、帝国主義が華やかな頃に頻発した"秘密外交"が、つい最近もあったとかなかったとか......。これは一般人には知り得ない話なんですかね?
佐藤 表に出てきませんから、知ることはできません。秘密の約束などたくさんありましたよ。日露間の秘密外交はレーニンが全て暴露しています。そして、暴露された内容の中で、主要な事案は日露協約に関することでした。中国を日露で全部、分けてしまおうという計画です。
――なんと末恐ろしいお話。
佐藤 ただ、現在は秘密外交はやらないというのが建前になっています。条約も公開して国連に登録するのが原則になっています。ところが、条約締結という形だけではなく"いろんなおしゃべり"をしているわけですよ。
――雑談ではあるけれど、そこは首脳会談の場である。
佐藤 そうです。それは「口頭合意」とか、そういう話です。だから、秘密のやりとりは復活しているんですね。これを裏返して見ると、ロシア・ウクライナ戦争と関係しているんです。
――それはまたなぜですか?
佐藤 2014年に親ロシア派武装勢力とウクライナ軍による紛争が起きて、東部地域のドネツク、ルガンスクに特別な地域を作り、停戦しました。その「ミンスク合意」は国連登録条約です。しかし、ウクライナは守らなかったですよね?
――はい。
佐藤 だから今は、公開の国連登録条約であろうと効果がない状態なんですよ。時代が変わっているわけです。
――米中、中露首脳会談の後に、突然、習近平が何年も行っていない北朝鮮に行きました。ということは、それも米中首脳会談で秘密外交があって、突然の訪問となったと。
佐藤 そうかもしれません。
――中朝首脳会談で驚いたのは、朝鮮半島は休戦協定、まだ戦争状態にある状態ですが、トランプは中国を巻き込んで、中朝米の3ヵ国で休戦協定から平和協定に変えようとしているような?
佐藤 その可能性があります。長い戦争が終わる可能性はあります。トランプはとても乗り気ですからね。しかし、最終的にどうなるかはわかりません。あり得るシナリオではあります。
――なるほど。
佐藤 それは、北朝鮮がずっと望んでいることですから。平和協定に変われば、平和条約になるので、北朝鮮と米国の法的戦争状態が終わるわけです。
――北の兄貴の夢が叶います。
佐藤 となると、国交正常化に支障はきたしません。さらに、朝鮮国連軍の解体が必須となります。すると、今度は米韓安保条約で地域協定を作って、米軍が韓国に駐屯するのか、はたまた引くのか......。
――根本的に極東の米軍配備が変わってくると。
佐藤 在韓米軍は現在、どれくらいの兵力がいるんですか?
――計2万3000名です。内訳は、米陸軍第二歩兵師団が1万5000から2万人、米空軍がF16戦闘機計100機。その他、高高度防空ミサイル(THAAD)が配備され、弾道ミサイルに対する防空網の一翼を担っています。米中の秘密外交を駆使した狙いはなんですか?
佐藤 要するに日米同盟がありますから、台湾問題で日本と中国が戦うような事態になれば、米国も巻き込まれます。しかし、米国は戦争になりたくないわけです。
――戦争にならないようにしている。
佐藤 そうです。だから戦争を阻止するために動いているんです。ただし、それは事始めで、次は日本です。
「トランプさん、今度は台湾ですね。日本と盃を交わしている日米同盟。それから朝鮮半島も同じように行きませんか?」と習近平から提案されれば、トランプも乗り気になるでしょう。
台湾海峡有事になったとき、あるいは日本と中国が何かドンパチをやったときに戦争にならないようにしたいですからね。
これが同盟関係の場合、日中が戦闘状態になると自動的に日本を守るために戦争しないとなりません。それが、状況によっては戦争せずに済むんですよ。
――現状であれば、日本が中国と戦争になったら米国が全力で助けてくれる。しかし、それがなくなり米軍は来ない、と。
佐藤 そうです。そもそも日露戦争では、日英同盟があるから英国はロシアと戦争になりました。しかし当時、仏露同盟があったため、自動的に英仏戦争になったわけです。当然、英仏はそれを避けたかったんです。
――それで、英仏協商ができたんですよね。
佐藤 そう。それと同じで、いま台湾海峡有事になって尖閣諸島、与那国島でドンパチが始まったときに、事を起こしたのが日本だったら、アメリカは出ていきません。
――え! 中国からしてみれば「日本から撃ってきた。事を起こしたのは日本だ!」という状況を捏造してでも作りますよ。
佐藤 そうですね。
――そういうときは声の大きい方が勝ちますから。
佐藤 小沢仁志主演の『闇金の帝王』という映画があります。
――今度は『仁義なき戦い』ではなく、闇金の世界に突入ですね。
佐藤 これはなかなか良い映画なんですけど、冒頭、借金返済のシーンから始まります。闇金だから1000万、2000万、3000万円とどんどん金額が大きくなるわけですが、小沢仁志が「ちょっと多いんじゃないんですか?」と口にします。貸したのは2000万。ところが、お金を直接貸した相手の方は殺されてるんですよ。
――闇金映画でよくある展開です。
佐藤 そうです。それで相手は口止め料だと。ああ、怖い怖い。それで「5000万円持って田舎帰って、金貸しでもやれ」と言われるんですが、田舎に帰らず、歌舞伎町に来るわけわけです。
――またなんでそんな激戦区に?
佐藤 『闇金の帝王』だからです(笑)。
それで歌舞伎町に来て、仕切っている組の事務所に挨拶をしに行ったら、相手のヤクザから「おい、歌舞伎町で長生きするのは、わかってるな。てめえから事を起こさねえことだ。てめえから事を起こしたときはケツ持たねえからな」と。
要するに、こっちが普通に仕事をしていて、どこかの組が入ってきて喧嘩を売ってきたときには守ってやるけど、自分からいざこざを起こした場合はケツ持ちしないということですね。
――それは、歌舞伎町に5000万円持参した小沢仁志が日本国。挨拶しに行った歌舞伎町を仕切るヤクザが米国。
佐藤 そうです。いま米国はこれをやってるってことです。だから、どんな状況でも日本のケツを持つのが、いままでの米国です。
ところが、「おい、てめえから事を起こしたときはケツ持たねぇぞ」と変わってきているんです。
――それ、中朝首脳会談の報道では誰も言及してないじゃないですか。
佐藤 みな、よくわかってないですから。しかし、外交とはこういうものです。
次回へ続く。次回の配信は6月26日(金)を予定しています。