
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
サウジアラビアで開催されたエアショーに出品された「GCAP」第6世代機の実物大模型。アラブの王族たちは熱心に見学した。共同開発に加わっている英国のBAE社はやる気満々だが......(写真:柿谷哲也)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――前回の記事では、米中首脳会談によって日米同盟が日本の危機を招く、と解説していただきました。しかし、日本の危機は日米同盟の他にもあるとか?
佐藤 中国のいう「新型軍国主義」です。
小泉進次郎防衛大臣はシャングリア会議(アジア安全保障会議)で、中国の国名を出さず「核兵器と戦略爆撃機を大量に保有している国が、日本を『新型軍国主義』と呼ぶのはおかしい」と批判していました。
しかし、それは通じません。中国という国名を出さなくては東南アジア諸国に対する説得力がありません。日本の腰が引けているように見えます。「新型軍国主義」は最近になって中国が戦略的に使っている言葉です。そもそも日本が軍国主義だと主張したのは、スターリンが始まりです。
――なんとスターリン!!
佐藤 1932年にコミンテルン(国際共産主義組織)が決めた日本に関する方針書があります。そこで日本は軍国主義だという扱いになりました。
このテーゼに基づくと、日本は封建的な天皇主義絶対制です。そして、ファシズムは資本主義が高度に発達した行き詰まりから生じます。すると、日本はレベルが低く、そこまで至っておらず、ファシズムではないので軍国主義、ということになったわけです。
そしてスターリンは1945年に9月3日を「対日戦勝記念日」の定め、「軍国主義日本に対する勝利の日」と定めました。
――歴史のあるややこしい日です。
佐藤 いままで中国は日本の軍国主義復活に反対すると主張していました。しかし、「新型軍国主義」は日本が現在進行中の脅威だと習近平政権が捉えている、ということなんですよ。
そして去年11月の台湾をめぐる高市発言以降、中国のシンクタンクに研究させて、昨年末にまず研究所が用い、今年1月に中国共産党機関紙「人民日報」が使ってから全面的キャンペーンが展開されています。
さらに、5月には極東軍事裁判に対する国際シンポジウムを開催しています。その場では日本が極東軍事裁判の結論を受け入れず、日本で歴史修正主義や前提が変わっていると批判しています。
そこに小泉防衛大臣が飛び込んできました。戦後の日本は平和国家だと、歴史認識論争に入ろうとしている状況です。しかし、中国は徹底的に国を挙げて、争議の準備をしています。飛び込んでくる間抜けがいるかと思っていたら、小泉大臣がポンと飛び込んで来たわけです。
――中国が準備をしているにもかかわらず、日本国外務省が「中国の名前を出さなかったら、また交渉ができるから大丈夫です」とご親切なご助言を授け、それを信じた小泉大臣は最初の一歩ですさまじい地雷を踏んでしまったと。
佐藤 歴史戦や認知戦に入ってしまったらロクな事がないんです。
――一方でトランプ米大統領においてはウクライナの和平は進まず、イランはさらにややこしくなり、キューバは停滞中で唯一の成功例はベネズエラ。中間選挙までに得点が欲しい状況で、米中朝平和協定が転がり込んできたと。
佐藤 そうですね。
――日本にとっては日米同盟の危機で、最悪の展開です。
佐藤 最悪とまでは言えませんが、調子はよくありません。いまの韓国は左派政権なので、北朝鮮と平和的共存ができるならばそれでいいんです。在韓米軍がいなくなっても、韓国左派の一部の人たちは構わないと思っています。
――韓国のケツ持ちはどこになるんですか?
佐藤 結果として中国となります。
――韓国の最大の貿易相手国は中国ですからね。
――それから以前の連載でも触れた日英伊三国共同開発の次期戦闘機「GCAP」の頓挫も危険なのでは? 実際に英国は財政難で予算の40%、8兆6000億円が払えず、国防大臣が辞任しました。
佐藤 そうしたら、今度は独仏共同開発戦闘機ができないから「GCAP」が有利だという報道が出ましたね。
――欧州は日本から毟(むし)り取りたいんですよね。
佐藤 イギリスは金を払いませんよ。というか、とにかく金が払えない状態です。
――しかし、6月14日に訪英した高市首相はスターマー英首相と会談し、日英共同宣言を発表。そこでは「GCAP」の重要性を認識し、「2035年までに優れた戦闘機を適正なコストで遅滞なく開発する」と書いてあります。書類に書かれるとこれは後戻りできないのでは?
佐藤 もう戻れないところまで来ていますね。
――そこにドイツ、カナダ、さらにサウジアラビアも参加したいと言ってきてます。
佐藤 船頭が多くなった場合、スペックをどうするかですね。そうすると、日本が必要としている空対空能力の開発は絶対無理です。サウジは地面にいる連中を皆殺しにしたいのですから、むしろ空対地能力が極めて重要になります。
――さらに、英独も空対地攻撃の上に航続距離が短くていいので、さらにややこしい。日本は四方が海で航続距離が長くなければなりません。
佐藤 日本以外の国が望んでいるのは、局地戦闘機みたいなものですよね。
――日本にはいりません。欲しいのは第6世代のゼロ戦です。
佐藤 ヨーロッパ諸国は日本のIHIのエンジンを狙っていると思いませんか? IHIのエンジンはレベル高いでしょ。
――あり得ると思います。
佐藤 そういう意味では三菱重工はうまく乗っかっていますね。かなりいい知恵だと思いますよ。
――うまくいきますか?
佐藤 技術を維持することはありますが、それは世界最大の米国軍需・航空宇宙企業、ロッキード・マーティンを敵に回すという話ですからね。
――そうなんですよね。
佐藤 ところで日本は第6世代戦闘機を売り込めると思いますか?
――中古の護衛艦ならば得意ですよ。
佐藤 だから、戦闘機に関しては悪いくじを引いていると思いますよ。そして、もうぶん投げるには遅いタイミングです。
――そうなんですね。
佐藤 三菱が作っていた民間旅客機「MRJ」のようにならなければいいですけどね。
――米国で民間旅客機の型式証明が取得できず、実用化されることなく終わりました......。
佐藤 「GCAP」も実は誰も見通しが立っていないんじゃないですか?
――おそらく......。
佐藤 「GCAP」はうまくいかないと思います。日米の衝突を生んだ次期支援戦闘機・FSXの二の舞ですよ。米国を外してうまくいくかどうかというのは、日本の国家としての建付けの問題なんですよ。そして、トランプはこの件を知らないでしょうからね。
――それが一番怖いですよね。
佐藤 だから、隠れて静かにやってるわけです。トランプがこの計画を許してくれると思いますか?
――おそらく無理かと。
佐藤 だから、ヨーロッパに抱き着かれたらダメなんです。金がないんですから。それにカナダは反米国家ですよ。
――超激怒のトランプが容易に想像できます。
佐藤 これはどうなるか、本当にわかりません。アメリカはそんなに甘い国ではありませんからね。
――確かに。見捨てられるかもしれませんね。
次回へ続く。次回の配信は7月3日(金)を予定しています。