ひろゆき、生物学者・小林武彦と考える「命」について②「人間が長生きなのは社会性が関係しているってどういうこと?」【この件について】

構成/杉原光徳(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

「人間は子供をつくる人だけが重要ではない。集団の中で役割を持つ人にはみんな価値がある」と語る小林武彦氏「人間は子供をつくる人だけが重要ではない。集団の中で役割を持つ人にはみんな価値がある」と語る小林武彦氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦先生との対談の2回目は、寿命と社会性と正義感について......。人間の正義感はどうやら、遺伝子に組み込まれているもののようです。それはなぜなんでしょうか。

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ひろゆき(以下、ひろ 前回は「人間は本来の寿命よりも長生きしている。その理由は人間の社会性が関係している」というお話でしたが、どういうことですか?

小林武彦(以下、小林 人間は子供をつくる人だけが重要というわけではありません。集団の中でなんらかの役割を持つ人には、みんな価値がある。それがほかの動物と人間を分ける大きな特徴です。

ひろ 生物は子供を残して、次の世代に遺伝子を伝えていくのが基本なわけですよね。だとすると、子供をつくらない人や子供をつくる年齢を過ぎた人が長く生きることは、種としてどんな意味があるんですか?

小林 そこが人間の面白いところで、例えば高齢者は、もう子供をつくらないかもしれません。でも、集団の中で経験や知識を伝えたり、相談相手になったり、けんかの仲裁役になったりする。「どこに食べ物があるのか」「どの季節に何が起きるのか」「危ない場所はどこか」そういう記憶を持っている人は、集団では明らかに大切な存在です。

ひろ なるほど。単純に遺伝子を残すかどうかだけでは測れないと。

小林 子供を持たない人も同じで、狩りで中心的な役割を担ったり、集団を守ったり、子供の世話を助けたりできる。人間の子供は育つのに時間がかかりますから、親だけで育てるより、周囲の大人が関わったほうが生き残りやすい。

ひろ 個人ではなく集団として見れば役割があるというわけですね。

小林 人間は個体として生き残るだけではなく、集団として生き残ることに力を注いできた生き物なんです。だから、集団の中で「誰が貢献しているのか」「誰がただ乗りしているのか」に敏感になった。その結果として出てきたもののひとつが、正義感や公平性だと思います。

ひろ 正義感ですか。長寿の話から、そこにつながるとは......。

小林 例えば、悪いことをしてもなんとも思わない人がいますよね。今の世の中では、そういう人のほうが得をする場面があるかもしれません。でも、多くの人は不正に対して腹が立つ。ずるいことをしている人を見ると「ふざけるな!」と本能的に怒ります。

ひろ でも、個体の損得だけで考えると、見て見ぬふりをしたほうが楽な場面もありますよね。それでも正義感が出てしまうんですか?

小林 はい。これは遺伝子に組み込まれた感覚だと思います。では、なぜ人間はそんな正義感を持っているのか。おそらく、過去の長い歴史の中で「正義・平等・公平」といった感覚が集団をつくる上で絶対に必要だったからです。「獲物を分けるときに自分だけ多く取る」「危険なときに自分だけ逃げる」「約束を守らない」そういった人が増えると集団としてまとまれない。だから、正義感や公平性を持っていない人は集団から追い出された。昔の環境で集団から追い出されることは、ほぼ死を意味します。

ひろ 「ずるいことをするな」というのは、道徳の授業で習ったからではなく、集団から追い出されないための本能に近いと。

小林 人間は「正義・平等・公平」に関して非常に強い意識を持っています。それに対する選択圧が強かったのでしょう。だから今の私たちの中にも、その感覚が強く残っているのだと思います。

ひろ その正義感のような感覚は、ほかの生き物にもあるんですか?

小林 人間ほど強い生き物はいないと思います。サルやチンパンジーにも「食べ物を分け合う」とか「集団で戦う」とか、協調に近い行動はあります。また、抜け駆けを嫌がっているように見える行動もある。ただ、人間の場合はそれが非常に強いんです。

ひろ チンパンジーの協調行動って、ルールを守らないとボスに噛まれるとか排除されるとか、そういうマイナス面が理由で従っているようにも見えるんですよ。でも、人間は違って、誰も見ていないところでゴミを拾うみたいな行動がありますよね。やらなくてもペナルティはないのにやる。そういう正義感や道徳は、ほかの生き物にもあるんですか?

小林 確かにサルの正義っぽく見える行動も単に怖いから従っているだけかもしれません。一方で、ペナルティがない状態でも規範やモラルで動くというのは、やはり人間にかなり特有のものだと思います。

ひろ 人間が「誰かに罰せられるから」ではなく、自分の中にある基準で動いてしまうのは「遺伝子に組み込まれているから」で、そこがチンパンジーの序列や支配とは違うと。

小林 そうです。もちろん、人間にも序列や支配はあるけど、それだけでは説明しきれない行動が多い。例えば、3歳ぐらいの子供でも、誰から教わったわけでもないのに「〇〇君はずるい」と言いますよね? 兄弟でお菓子の量が少し違っただけでも、「不公平だ」と怒る。この比べる力は、集団の中で自分の位置を測りながら生きてきた人間ならではのものだと思います。

ひろ 「ずるい」という感覚は、かなり早い段階から出てくるわけですね。

小林 大人が教える前から、子供はかなり敏感に反応します。これは、集団の中で自分がどう扱われているかを測る力があるということです。もちろん、後天的に社会の中で学ぶ部分もありますが、「集団の中で自分だけ損をしていないか」「誰かだけ得をしていないか」を見る力は、生き残りに直結していたのです。

ひろ そうしたモラルのような概念は、単純に言語と結びついているわけではないんですか?

小林 言語だけで生まれたものではないと思います。人間が言語を話し始めたのは、古くても約20万年前だといわれています。人類の歴史を約700万年と考えると、そのほとんどの時間は、表情やジェスチャーなどでコミュニケーションを取っていたはずです。

ひろ 言葉ができる前から社会性はあったと。

小林 そうです。表情やジェスチャーでも、かなり多くのことは伝わります。どんな遺跡を見ても、人間の痕跡は集団で出てくる。集団で一緒に獲物を取り、一緒に寝て、一緒に火をたき、お互いを守って助け合ってきた。その積み重ねが、人間の道徳心につながっているのです。

ひろ サルやチンパンジーも集団で暮らしていますよね。人間の社会性とは、何が違うんですか?

小林 彼らの集団の大きな目的は、基本的には生殖です。「強いオスがメスを得る」「子孫を残す」という方向にかなり寄っています。人間のように「一緒に食べ物を取り、助け合い、防衛し、共同体として暮らす」という形とは少し違う。人間の社会性は、そこがかなり特殊なんです。

ひろ なるほど。社会性があるから長寿になったし、正義感や公平性も生まれたわけですね。

小林 でも、現代の社会が人間にとって本当に合っているかどうかは、また別問題ですよ。

ひろ お、そのへんもちょっと気になりますね。また、次回以降で教えてください。

小林 わかりました。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など 

■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI) 
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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  • 小林武彦

    小林武彦

    こばやし・たけひこ

    東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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