なぜ「日本の家は特別暑い」? 「エアコンを消すと、すぐに暑くなる」を防ぐ専門家のお勧め対策

取材・文/川喜田 研 写真/共同通信社

日本の住宅のうち、2025年に新築住宅の最低基準となった「断熱等級4」以上の水準を満たすのは約2割(写真はイメージ)日本の住宅のうち、2025年に新築住宅の最低基準となった「断熱等級4」以上の水準を満たすのは約2割(写真はイメージ)
地球温暖化による記録的な猛暑が世界を襲っている。高性能なエアコンが広く普及する日本は、なんとか暑さをしのいでいるように見える。だが実は、その陰で日本ならではの弱点が「家」にあった......。

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【猛暑に弱い「風通しのいい家」】

記録的な猛暑に苦しんでいるのは日本だけではない。ヨーロッパでも連日、気温が40℃前後まで上昇し、死者も相次いでいる。特にエアコンがあまり普及していないフランスでは、家電量販店でエアコンを求める客同士の乱闘騒ぎまで起きているという。

一方、日本ではエアコンは広く普及しているし、暑さに対する備えは十分なようにも思えるが......。

「はっきり言って、日本の家は他国と比べて暑すぎます。地球温暖化によって夏の暑さが年々厳しくなる中、これまでの住宅の考え方が通用しなくなっているのです」

そう語るのは、東北芸術工科大学教授の竹内昌義氏だ。

「吉田兼好が『徒然草』の中でも書いているように、日本では風通しのいい住宅こそ夏を快適に過ごせるという考え方が長い間主流で、家の断熱性はあまり重視されてきませんでした。

また、日本では早くからエアコンが普及し、その性能は世界最高レベルです。そのため、『多少暑くてもエアコンをつければ大丈夫』という感覚があったのだと思います。

しかし、温暖化によって夏が暑く、また長くなり、窓を開けても入ってくるのは熱風です。断熱性の低い家はいくら高性能なエアコンで冷やしても、外から熱が入り冷気が逃げてしまう。これでは近年の猛暑に対応しきれません。

一方で、断熱性や気密性の高い家はクーラーボックスのようなもの。クーラーボックスに入れた氷ってなかなか溶けませんよね。それと同じで、断熱性能の高い住宅でエアコンを使えば、効率よく室内を冷やし、快適な温度に保つことができます」

つまり、エアコンを消した途端に暑くなるのは、住宅という〝箱〟が冷気を保てないからなのだ。ヨーロッパでは、この〝箱〟の性能を高めることを、早くから国の政策として進めてきた。

竹内氏によると、オイルショック以降、住宅の断熱化をエネルギー政策の柱に据え、新築住宅にも厳しい基準を課してきたという。

「ヨーロッパには、賃貸住宅の室温管理を大家の責任としている国もあります。例えばイギリスでは、冬に室温が18℃を下回るような住宅は貸せない。そのため大家には、建物そのものを断熱化しようという動機が生まれます。

一方、日本では寒くても暑くても、住む人が自分でエアコンを使ってなんとかするという考え方が強かった。海外では住宅の性能で解決してきた問題を、日本では家電と居住者に任せてきたのです」

【断熱義務化はG7で最後発】

こうした状況を受け、2025年4月には「改正建築物省エネ法」が全面施行され、原則すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられた。住宅では「断熱等級4」相当が最低ラインとなる。

だが、竹内氏は「遅すぎた」と語る。

「本来、住宅の断熱基準の義務化は、20年までに実施すると閣議決定されていました。それでもG7の中でビリだったのに、実際に始まったのは、その5年後の25年だった。

表向きには『小さな工務店が新基準に対応できない』ことなどが先送りの理由とされましたが、基準を強化することで住宅業界が混乱し、新築住宅の着工数が減ることを国が恐れた面もあったと思います。

しかし、住宅は一度建てれば何十年も残ります。仮に年間100万戸が建てられるとすれば、5年間で約500万戸。20年に義務化していれば、それだけの住宅が、今より高い断熱性能を備えていたはず。

5年の先送りは、単に制度の開始が遅れたという話ではありません。暑さにも寒さにも弱く、エネルギーを浪費する住宅を、何百万戸も将来に残したということなのです」

しかも、今回の義務化によって最低基準となった「断熱等級4」は、決して高い水準ではない。

「断熱等級4は、グラスウールという断熱材を屋根に20㎝、壁に10㎝入れて、ペアガラス付きのアルミサッシを組み合わせれば達成できる程度の水準ですが、もともとは1999年に制定された省エネ基準の最高等級でした。それが25年になって、ようやく最低基準になったのです」

ただし、これはあくまでも新築住宅の話。竹内氏によれば、日本の住宅全体のうち、断熱等級4以上の水準を満たしているのは約2割。残る約8割の住宅は断熱性が低いままだ。

では、すでに立っている住宅の断熱性能を上げるには、何ができるのか。竹内氏が強く勧めるのが「窓のリフォーム」だ。

「壁や天井の断熱工事に比べて、比較的簡単にできるのが内窓の設置です。夏は外から入ってくる熱、冬は室内から逃げていく熱の多くが、窓を通じて出入りします。そのため、既存の窓の内側にもうひとつ窓を追加して二重窓にすることで、住宅の断熱性能を大きく高めることができます。

しかも、経済産業省、国土交通省、環境省が連携する『先進的窓リノベ2026事業』を利用すれば、内窓の設置などに1戸当たり最大100万円の補助を受けられます。申請は施工業者が行なうため、消費者が自分で煩雑な手続きをする必要もありません。

この補助金制度は、一戸建ての持ち家だけでなく、マンションや賃貸物件にも利用できます。家中すべての窓を工事する必要はありません。普段よく使う部屋だけでも、内窓を設置すればエアコンの効きは大きく改善します」

既存の窓に「内窓」を設置すれば、外からの熱の侵入や冷気の流出を抑え、手軽に住宅の断熱性能を高められる既存の窓に「内窓」を設置すれば、外からの熱の侵入や冷気の流出を抑え、手軽に住宅の断熱性能を高められる
また、竹内氏が住宅と同じく、断熱化が急務だと考えているのが日本の学校だ。

「近年、学校ではほぼすべての教室にエアコンが設置され、夏の暑さ対策が進んだように見えます。しかし、断熱性能が低い校舎では、エアコンを18℃に設定しても、室温が30℃近くまでしか下がらないケースもある。

断熱されていない建物でエアコンを使えば電気代もよけいに膨らみます。中には電気代が払えないからと、せっかく設置したエアコンを極力使わないというところも出ている。完全に順番が逆なのです。最初に断熱性能を高めれば、長期的には光熱費の節約にもなります。断熱化はぜいたくではなく、省エネのための投資なのです。

世界中がエネルギー不安に直面している今年の夏こそ、住宅や学校の断熱化の重要性を、多くの人に知ってほしいと思います」

竹内昌義 Masayoshi TAKEUCHI
東北芸術工科大学教授、建築家。建築設計事務所「みかんぐみ」共同代表。専門は建築デザインとエネルギーで、省エネ住宅の普及や地域の脱炭素化に取り組む。環境省・経済産業省・国土交通省合同の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では委員を務めた

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