ニッポン「酷暑エコノミー」の勝者と敗者が決定。"意外な消費トレンド"が続々!

取材・文/興山英雄 写真/共同通信社 時事通信社

人々は昼に出歩かなくなり、屋外レジャーが苦しむ一方で〝意外な消費トレンド〟が続々!人々は昼に出歩かなくなり、屋外レジャーが苦しむ一方で〝意外な消費トレンド〟が続々!

外に少し出ればすさまじい熱気に襲われ、汗が噴き出る。記録的な暑さが続く夏が恒常化した結果、日本人の行動は大きく変化した。外出を控え、屋内で過ごすようになった人々は、どこでお金を落としているのか? 徹底的に追った!

【メンズ汗拭きシートが女性にも売れる】

猛暑は日本人の消費行動を一変させた。

かつてはもっぱら女性が使った日傘。ところが今や命を守る装備となり、手にする男性が急増した。創業140年の老舗傘メーカー、ムーンバットの鈴木康史取締役はこう語る。

「この3~5年で市場は一気に変貌しました。以前は『紫外線を防ぐ』ことが重視されていましたが、今は『暑さを防ぐ』こと。遮光・遮熱性能が最優先に選ばれる時代です」

市場の急拡大は、これまでなかった異業種の参入を呼び込んだ。傘卸関係者がこう話す。

「一番インパクトがあったのは、魔法瓶大手のサーモスさんでした。真空断熱技術などで培った『熱をコントロールする』技術を持つ会社です。業界内では『ついにきたか』という空気がありました」 

ムーンバットの晴雨兼用日傘「マジカルテックプロテクション」。わずか82gという軽さがウリで、累計販売本数60万本を突破(写真提供/ムーンバット)ムーンバットの晴雨兼用日傘「マジカルテックプロテクション」。わずか82gという軽さがウリで、累計販売本数60万本を突破(写真提供/ムーンバット)

さらに、大手アパレルのユニクロも昨年、東レと共同開発した遮熱素材を採用した日傘を投入し、市場で存在感を高めている。

群雄割拠の中で、老舗メーカーが磨きをかけるのが技術力だ。ムーンバットの「マジカルテックプロテクション」は、遮光率100%、UVカット率100%に加え、卵1個分ほどの82gという世界最軽量の軽さを実現。2024年の発売以降、累計で60万本を販売するヒット商品となった。

ユニクロは猛暑に対応した肌着やパジャマ、Tシャツなどの開発に力を入れていた。2025年には東レと共同開発した日傘も発売したユニクロは猛暑に対応した肌着やパジャマ、Tシャツなどの開発に力を入れていた。2025年には東レと共同開発した日傘も発売した

また、夏には冷却グッズも手放せない。スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど全国約6000店舗の販売データを分析する市場調査会社、インテージの市場アナリスト・木地利光氏はこう言う。

「冷感シートや冷感スプレーなど、冷却商品の市場規模は21年から25年にかけて約1.5倍まで拡大しました。月別の販売金額で見ると、同期間で6月と9月が1.8倍超と大幅に伸びており、猛暑による夏の長期化が好調の要因になっていることがうかがえます。

中でも、冷却効果に特化した汗拭きシートは、83億円(21年)から149億円(25年)へと約8割伸びています」

猛暑の影響で汗拭きシートの需要も増加。大判タイプのものが女性にも好まれているという猛暑の影響で汗拭きシートの需要も増加。大判タイプのものが女性にも好まれているという

全国7万人から集めた購買データによると、購入者の内訳は男性4割、女性6割。中心は30~50代の女性だ。

「メンズ用の汗拭きシートを女性が買い求めるケースが増えています。サイズが大きく、メントールによる高い冷感効果があるからです。以前は『刺激が強すぎる』と敬遠されがちでしたが、近年は女性の間でもより強い清涼感が求められるようになっています」

【トイレクリーナーが売れている理由】

かつては「暑いほど売れる」といわれた飲料市場でも、常識を覆す異変が起きている。インテージの販売データによると、25年7、8月合計の販売容量では、ペットボトル飲料の主力である水、お茶、スポーツドリンクがそろって前年割れとなったのだ。

「熱中症警戒アラートの発信が相次ぎ、日中の外出や部活動が手控えられた影響だと考えられます。さらに、これら3品目の100ml当たりの平均単価は前年(24年)比で3~5%値上がりしました。

弊社の調査では、『日常的に水筒を持ち歩く人』も26年には42.9%まで上昇。物価高騰への自衛策から、外出先でペットボトルを都度買いする機会自体が減ったとみられます」(インテージ市場アナリスト・西澤雅登氏)

意外にも、暑すぎるとペットボトルの水、お茶、スポーツドリンクは逆に売れなくなる。日中の外出が控えられるからだと考えられる意外にも、暑すぎるとペットボトルの水、お茶、スポーツドリンクは逆に売れなくなる。日中の外出が控えられるからだと考えられる

代わりに売り上げを伸ばしたのが、水や牛乳、炭酸水で割って飲む「濃縮・希釈」タイプの飲料だ。コーヒーに加え、フルーツティーや緑茶など品ぞろえが広がり、「自宅で好みの濃さに調整でき、1杯当たりの価格も抑えられることから人気を集めている」という。

さらに、木地氏は意外な売れ筋を挙げる。

「25年の夏場(6~8月)はトイレ用の芳香・消臭剤の販売金額が19年比で約4割増。『化学雑巾』と呼ばれるドライタイプの紙クリーナー・ブラシも、使い捨てタイプのトイレ用ブラシが牽引し、19年比で約15%増えています」

背景にあるのは、猛暑によるニオイ問題だ。都内のビル清掃業者がこう話す。

「尿汚れなどから発生するアンモニア臭は、気温が高くなるほど揮発しやすくなります。冬場は気にならなかった便器のフチ裏の汚れも、夏はニオイが強くなりやすい。暑くなると『トイレがにおう』という相談は増えます」

さらに、猛暑は胃腸にも影響する。大幸薬品によると、胃腸薬「正露丸」が最も売れる季節は夏。同社のデータでは、気温23℃から1℃上がるごとに売り上げは約5%ずつ伸びるという。冷たい飲み物の飲みすぎなど、夏の生活習慣が誘発する下痢が、便器の汚れやニオイを悪化させる一因にもなっている。

気象庁は最高気温40℃以上の日の名称について、アンケート結果や有識者の意見を踏まえ、今年4月に「酷暑日」と命名した気象庁は最高気温40℃以上の日の名称について、アンケート結果や有識者の意見を踏まえ、今年4月に「酷暑日」と命名した

【客が消えた動物園。新たな施策を模索】

一方で、猛暑が「夏の稼ぎ時」を直撃している施設も少なくない。

公営の千葉市動物公園では、気温が最適な5月が年間でも有数の集客期だ。ところが7、8月の盛夏になると客足は一変する。24年度は5月と比べて、7月が約78%減、8月は約55%減と、大幅に来園者数が落ち込んだ。

「来園者の中心は、小学生低学年以下のお子さんを連れた親子。熱中症リスクが高まるとお出かけ自体を控える方が増えますから、夏季の集客減は課題です」(千葉市動物公園副園長補佐・水上恭男氏)

過酷な暑さは、動物の展示にも影響する。レッサーパンダは気温28℃前後、ライオンやチーターも30℃前後を目安に、屋内の冷房が効いた獣舎へ自由に行き来できるよう出入り口を開放する。すると動物は屋内へ避難してしまい、来園者からは姿がほとんど見えなくなる。

さらに、ライオンが餌に飛びつく人気イベント「ミートキャッチャー」や、小動物と触れ合える「ふわもふタッチ」も、アニマルウェルフェアの指針に基づいて夏季は休止に。暑くなればなるほど、園内から見どころが消えていくのだ。

全国でも珍しく動物園、遊園地、プールを併設する完全民営の宇都宮動物園(栃木県)も猛暑の脅威にさらされている。

「今は、お客さまが天気予報を見て動く時代。予報で『酷暑』や『熱中症警戒アラート』という言葉が出た途端に客足は遠のきます。平日なら通常100人ほど来るところが50人いるかどうか。休日も1000人ほどの客足が3分の1まで落ち込むことがあります」

そう話すのは、同園の荒井賢治園長。影響がより大きいのは遊園地エリアだという。

「動物園には木陰がありますが、遊園地は直射日光を遮る場所が少ない。乗り物の座席も熱くなってしまうため、どうしても夏場は敬遠されます」

動物園と遊園地、プールが一体化した宇都宮動物園。今夏から、水着で園内を移動できるようにした動物園と遊園地、プールが一体化した宇都宮動物園。今夏から、水着で園内を移動できるようにした

人気者のカバ。日によっては餌をあげることもできる(写真提供/宇都宮動物園)人気者のカバ。日によっては餌をあげることもできる(写真提供/宇都宮動物園)

もちろん、各園も手をこまねいているわけではない。千葉市動物公園では、ニチレイフーズとコラボ。同社の急速冷凍技術を活用し、好物の餌を閉じ込めた特製の氷を、来園者の手で動物たちにプレゼントするイベントを実施している。

アジアゾウが長い鼻で氷を器用につまみ、地面に力強く叩きつけて割って食べたり、ニホンザルが氷と格闘したりと、野性の知恵や本能をのぞかせる行動が人気を集める。

しかし、もうひとつの切り札である夜間営業「トワイライトZOO」には公営ならではの壁が立ちはだかる。公務員である職員の時間外労働の上限には厳しい制約があるため、開催は7、8月でわずか8日間しかないのだ。

対する宇都宮動物園では、民営ならではの思い切った策を打つ。今夏から始めたのが、水着のまま動物園、遊園地、プールを自由に行き来できる企画だ。汗をかいたらそのままプールへ飛び込み、涼んだら再び遊園地や動物園へ戻る。猛暑による客足の変化に合わせ、試行錯誤が続いている。

【海も夏祭りも風景が一変】

同じく夏の定番レジャーである海も例外ではない。神奈川県・由比ガ浜で海の家「KAITO YUIGAHAMA」を運営する店長は、「あまりに暑い日は客足が落ちます」と話す。海辺の楽しみ方も変わった。

「昔は『海に来たら体を焼く』という人が多かったのですが、今は日焼けしたくない人が増えています。日傘を差したり、日陰の海の家で過ごしたりするお客さんが目立ちます」

今年7月中旬の土日の由比ガ浜。体を焼かず、日傘を差したり海の家で過ごしたりする人が増え、暑い日は客が減るという今年7月中旬の土日の由比ガ浜。体を焼かず、日傘を差したり海の家で過ごしたりする人が増え、暑い日は客が減るという

猛暑は、夏祭りの風景まで変えてしまった。

東京都八王子市で毎年8月に開催される「八王子まつり」。多摩地区最大級の祭りだが、23年に開催3日間で約85万人を記録した来場者数は、24年に約80万人、25年には約70万人まで減少した。連日の猛暑が人出を鈍らせている。

50年以上露店を営む、八王子露商組合の組合長を務める安西一氏がこう話す。

「昔は昼間から人であふれていました。でも今は暑すぎて昼間は歩いている人もまばら。それが夕方には『どこにいたの』ってくらい一気に人が出てきます」

日中の客足が減ったことで、露店のビジネスは夕方から夜9時頃までの短期決戦を強いられる。焼きそばの鉄板の前は「体感50℃を超え、扇風機や(経口補水液の)『OS-1』は必須アイテム」という。生肉の管理にも細心の注意が必要で、「食中毒を出したら祭り全体が中止になる」という緊張感の中で営業している。

さらに、過酷な暑さは人手の確保にも影響を及ぼす。

「日給1万5000円を用意しても、夏場は働き手が集まりにくいのが悩みどころです」

当然、売れ筋も変わった。焼きそばやお好み焼きなどの定番品は伸び悩み、かき氷やラムネなど冷たい商品の人気が高まっている。「チョコバナナは猛暑日だとチョコレートが溶けてしまって、バナナにうまくつかないので扱いが難しい」と安西氏。

そこに追い打ちをかける食材費の高騰。それでも安西氏は「子供がガッカリする顔を見たくないから、値上げは極力しないと決めている」と言う。祭りの灯を絶やすまいと、熱い心意気を持った露天商の奮闘は続く。

【屋内レジャーに猛烈な追い風】

では、昼間に姿を消した人々はどこへ流れたのか。

その受け皿となっているのが、イオンファンタジーが全国で展開する屋内施設だ。同社はクレーンゲームやカプセルトイ専門店などのアミューズメント事業に加え、近年は屋内プレイグラウンド事業を急速に拡大させている。国内プレイグラウンド開発本部長の畠山宏氏は、「猛暑は確実に追い風です」と話す。

昨年7月には、愛知県の「イオン春日井ショッピングセンター」3階に約2000㎡の規模を誇る遊戯施設「のびっこピクニック」を開業。テニスコート8面分の広さに、芝生広場、砂場、滑り台、ブランコまで備え、まるで公園がそのまま冷房の効いた商業施設内に出現したような空間だ。

専用アプリ会員であれば、1日遊び放題の料金で平日なら大人500円、子供1200円と安く、途中で何度も入退場可、イオン内のフードコートなどで買った飲食物も持ち込み自由。連日多くの親子連れでにぎわう。

「気温32℃くらいになると、お客さまが一気に増える感覚があります」(畠山氏)

イオン内に人工芝のピクニックエリアを構える、イオンファンタジーの「のびっこピクニック」。猛暑下のレジャー需要を取り込む(写真提供/イオンファンタジー)イオン内に人工芝のピクニックエリアを構える、イオンファンタジーの「のびっこピクニック」。猛暑下のレジャー需要を取り込む(写真提供/イオンファンタジー)

実際、同社が全国10施設の来場データを分析すると、平均気温が約26℃だった週に比べ、約32℃だった週は来客数が約3割増えたという。

猛暑を追い風に、「のびっこ」「ちきゅうのにわ」ブランドを成長の柱に据え、30年度末までに91店舗を新たに出店する計画だ。

「昔は公園へ行けた時間帯でも、今は熱中症の危険があります。私たちは、子供の笑顔を奪う脅威に対して、安全に遊べる場所を提供したいと考えています」

猛暑の恩恵を受けるのは、子供向けの施設だけではない。八王子市にある大型屋内アクティビティ施設「CROSPO(クロスポ)八王子」もまた、幅広い世代が集まる〝避暑地〟となっている。

21年10月の開業当初は、体を動かすアトラクションとゲームセンターを複合した施設だったが、23年にコンセプトを刷新。スケートボードやパルクール、クライミングなど、テレビ番組の『SASUKE』をほうふつとさせるアーバンスポーツを詰め込んだ体験型施設へとかじを切った。

ボルダリング、ボウリング、スケート、トランポリンなどのレジャーを屋内で楽しめる「クロスポ八王子」(写真提供/ヒューマックスエンタテインメント)ボルダリング、ボウリング、スケート、トランポリンなどのレジャーを屋内で楽しめる「クロスポ八王子」(写真提供/ヒューマックスエンタテインメント)

この戦略が、近年の酷暑と見事に合致した。同施設を運営するヒューマックスエンタテインメントの事業責任者の大野孝志氏は「近隣には屋外公園も多いのですが、夏は暑すぎて外では遊べない。ファミリー層を中心に利用が伸びています」と手応えを語る。

同施設にとって、年間で最も客数が多いのが8月だ。4月の月間客数が約9000人であるのに対し、今年の8月は約1万4000人の来客を見込む。一方で、暑さはコスト増という課題も突きつける。

激しく体を動かすフロアの温度は常に23℃前後に設定。マッサージチェアで休む保護者から「寒い」と声が出ることもあるが、汗だくで遊ぶ若者たちのために妥協はできない。そのため、冷房をフル稼働させる8月の電気代はほかの月の約1.5倍に跳ね上がるという。

それでも同施設は、この夏さらなる猛暑対策を打つ。館内の柱という柱に十数台のサーキュレーターを増設して冷気を循環。さらに7月からは、ドリンクバーにセルフで氷を削れるかき氷機を導入し、シロップかけ放題の無料サービスを始めた。

酷暑に加えてゲリラ豪雨も頻発する夏。屋内遊戯施設が街の〝駆け込みシェルター〟となっている。

【着ぐるみの中に起きた技術革新】

猛暑は屋内レジャーに新たな客を呼び込む一方、屋外で人を楽しませる仕事には逆風となっている。着ぐるみの制作や出演を手がけるゴーゴープロダクションの大澤晃子社長がこう明かす。

「20年ほど前は、夏休み中ずっとプロスポーツのファン感謝デーや遊園地のキャラクターショーなど屋外イベントが続いていました。しかし今は日中、人が外にいること自体が難しく、イベントそのものが減り、着ぐるみの出番も少なくなっています」

着ぐるみの内部は想像以上に過酷だ。同社が気温30℃超の室内でアクターに約2分間踊ってもらったところ、脱いだ直後の体温は37.5℃前後まで上昇。頭部に入れた二酸化炭素濃度計は警報が鳴り、測定できないほどの値を示したという。

これまで業界の猛暑対策といえば、出演時間を削るのが一般的だった。大澤社長は、「着ぐるみの稼働は30分出演したら最低30分休むのがスタンダード。千葉県の有名テーマパークの場合でも、気温が30℃を超えると20分の稼働に短縮して休憩を入れる対応を取るほどです」と語る。

しかし、同社は技術革新による根本的な解決に挑んだ。21年に開発したのが、着ぐるみの頭部の骨格に多数の穴を設けて熱と湿気を逃がす「スースーヘッド」だ。さらにファン付きウエアメーカーの空調服と共同で、着ぐるみ専用のファン付きウエア「スースーベスト」も商品化した。

この対策が、安全を最優先するスポーツ界やスポンサー企業から支持を集めている。現在、男子プロバスケットボール「Bリーグ」では、全55クラブのうち3分の1を超えるマスコットを同社が制作。さらに同社が新規で手がける着ぐるみのうち、今やほぼ100%が「スースーヘッド」仕様で注文されるという。

「今は発注する企業側にとっても、熱中症対策が絶対条件。弊社のアクターも『これがないと出演はできない』と言います」と大澤社長。猛暑が続く中、着ぐるみ業界では、安全対策ができる会社とそうでない会社のシビアな選別が進み始めている。

夜間へのシフト、屋内の避暑シェルター化、そして命を守る技術の追求。かつての〝夏の常識〟が通用しない中、あらゆるビジネスが生存をかけた適応を迫られている。

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