日本サッカーの進化のために。今こそ考えるべき代表監督の人事

取材・文/小宮良之 撮影/佐野美樹 写真/アフロ

W杯をベスト32で終えた森保監督。来年のアジアカップまで日本代表を率いることが発表されたW杯をベスト32で終えた森保監督。来年のアジアカップまで日本代表を率いることが発表された

7月23日、サッカー日本代表監督の人事について、「年明けのアジアカップまで森保一監督が指揮を執り、後任監督は大岩 剛氏(U-21の日本代表監督と兼任する予定)と発表されたが......。あらためて代表監督について検証するべきときが来たと言える。

「代表監督には実績や名声が必要で、人材は簡単には見つからない」

「森保監督はW杯に2度も出場し、チームを決勝トーナメントに導いた。日本人の指揮官では追随を許さない」

「有力な外国人監督は年俸が10億円以上。無理筋である」

こうした意見が流布されているが、これらは真実か。北中米W杯で決勝に進んだスペイン、アルゼンチン両代表の監督を例に考えてみよう。

スペインのルイス・デ・ラ・フエンテ、アルゼンチンのリオネル・スカローニは、〝名目上〟は名将ということになるだろう。しかし代表監督になるまでの彼らは、実績自体は大したことがなかった。

スペインのデ・ラ・フエンテ監督は、クラブレベルでは5部のチームを率いた後、アスレティック・ビルバオのセカンドチームを指揮し、3部のアラベスを率いた程度だった。しかし代表では、アンダーカテゴリーの代表を率いて東京五輪で準優勝し、フル代表に繰り上がってEURO2024で優勝した。

アルゼンチンのスカローニ監督に至っては、クラブでの監督経験がなかった。18年のロシアW杯後、代表チームのアシスタントコーチから暫定監督に就任。そこからコパ・アメリカで3位、優勝という結果を残し、前回のカタールW杯で優勝監督になった。

これらには〝カラクリ〟がある。スペイン語で監督は「Entrenador」で、直訳は「トレーニングする人」。しかし代表監督は「Seleccionador」と表現され、直訳は「選ぶ人」になる。

代表チームは選手を招集した後、1日しか全体練習をやらずに試合ということも珍しくない。トレーニングで戦術を練ることはほとんどできないため、代表監督の本筋は選手を選ぶ仕事にあるのだ。

誤解を恐れずに言えば、代表監督とクラブ監督は必ずしもリンクしない。代表監督に求められる資質は、高度で斬新な戦術トレーニングなどではなく、国を背負う重圧への耐性、公平に選手を選べるバランス感覚、集団を勇敢に戦わせるリーダーシップである。

クラブで日々戦い方を作り上げることを好む名将たちが、代表監督を避ける理由は、それがまったく別物で不確実要素に翻弄されるからだ。

その点、森保監督はひとつ結果を残した。確実性の低い戦術ながら、頼みにした選手が奮闘したからだった。カタールW杯でドイツ、スペインを撃破した試合などが最たるものだ。

ただ、今回のW杯で森保監督は限界も示した。

守田英正のような実力もキャリアもある選手を、図らずも〝排除〟する形になった。また、長くキャプテンを務めてきた遠藤 航を大会開幕3日前にメンバー外にし、本人はチームを離脱。

一方で、明らかに実力が落ちた長友佑都の選出にこだわり、最後のブラジル戦は投入すべき選手がベンチにいなかった。結果、サンドバッグのように殴られ続け、マットに沈んだ。

森保監督のエゴが出て、臆したような受け身のサッカーから脱却できず、自分たちでろくにボールを持てない姿を露呈。北中米W杯では、ボールを大事にしながらゴールに向かい続けたチームが勝ち上がったが、能動的にチャンスがつくり出せないサッカーでは勝ち進めない。

森保監督は「W杯優勝」という大風呂敷を広げ、「2050年までの優勝につながる」と根拠のない希望的観測を発信。だが、「必勝の信念」のような気分を持ち出すだけで、最適な戦略を立てられなかった。

こんなときこそ、外国人監督を招聘することはできないのか。確かに、待遇面で厳しいところはある。昨今の深刻な円安で、Jリーグでも優秀な外国人監督との契約が難航している。

さらに言えば、外国人監督はコーチングスタッフも一緒に契約することを求めるため、契約する側はリスクを負う(ブラジルW杯で日本を率いたアルベルト・ザッケローニら、過去の外国人代表監督もコーチと一緒に入閣した)。

W杯の優勝トロフィーを掲げるスペインのデ・ラ・フエンテ監督。クラブチームの監督としては実績は物足りなかったW杯の優勝トロフィーを掲げるスペインのデ・ラ・フエンテ監督。クラブチームの監督としては実績は物足りなかった

ただ、クラブでの華々しい実績がなくても、代表監督に適性のある人物はいる。森保監督と同じような年俸でも契約を結べる。実際、代表監督として実績を上げる前、デ・ラ・フエンテも、スカローニも年俸は森保監督以下だった。

成功する代表監督を招聘できるかどうかは、彼らを選ぶ技術委員長(もしくはダイレクター)が目利きかどうかに尽きるかもしれない。

昨年、代表の技術委員長だった影山雅永氏が、航空機内で児童わいせつ画像の閲覧をしたことで解任。その後はナショナルチームダイレクターの山本昌邦氏が兼任している。

外国人監督を選出する場合、語学力も含めた人脈、交渉力が不可欠である。そのスペシャリストがいたら、森保監督が8年も指揮を執った後、さらに監督を続けるという話にはなっていないだろう。

U-21の日本代表監督を務める大岩氏が後任を務めるのは、デ・ラ・フエンテやスカローニと同じく代表内でのスライドであり、理にかなって見えるかもしれない。しかし、それは〝流れ〟だけの話だ。

デ・ラ・フエンテは、マドリードの巨大メディアから「レアル・マドリードの選手を呼べ」と圧力を受けても屈せず、しがらみなく旬な選手を招集し、積極的にピッチに立たせた。

大岩監督に、そんな指揮が執れるのか。あるいはスカローニのように、リオネル・メッシを中心にした〝野武士〟のような集団をひとつに束ね、正念場で力を出させられるのか。率直に言って、消去法の人事のように見えてしまう。

日本サッカーは大きく発展を遂げた。しかし、選手が海を越えて成長を遂げる一方、代表はカタールW杯から北中米W杯の4年間で停滞しているのが実情だろう。弱者の兵法で健闘したが、「これでは勝てない」という現実を突きつけられた。これで森保監督の〝続投〟では、危機感の欠如に不安が募るばかりだ。

  • 小宮良之

    小宮良之

    こみや・よしゆき

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。ジャンルを超えた活動を続け、小説に『ラストシュート 絆を忘れない』『氷上のフェニックス』(角川文庫)。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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