
吉井透
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フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中
フードデリバリーを注文する手軽さで違法薬物を手に入れられる。SNS上にはそんな闇サービスが無数に存在するという
SNSの発達により、違法薬物の流通経路は様変わりした。それを象徴するのが、5月13日に摘発された「東京ウーバー」の指示役の逮捕劇だ。
「東京を中心に関東近郊で覚せい剤やコカイン、大麻を密売していたとして住吉会系の中核組織の組員が逮捕されました。組員らは『東京ウーバー』なる密売グループとして活動し、Xで集客した顧客に薬物を配達や郵送で供給し、少なく見積もっても数千万円の売り上げを得ていた。このような密売スタイルは〝手押し〟と呼ばれ、違法薬物の入手経路として定着しており、マーケットの拡大の要因となっています」(全国紙記者)
スマホひとつあれば、好きなときに自宅の近くまで違法薬物を届けてくれる――ウーバーさながらのサービスはこの件に限らず、SNSを検索すればいくつも出てくる。売り手からすれば、それだけ儲かる商売ということだ。
「東京23区はもちろん、町田や橋本、藤沢といったターミナル駅なら2,3業者が競合するほど手押し業者は溢れています。売る側からしても飛ばしの端末があれば始められるショーバイなので、参入障壁は低い。住吉会に限らず、どの組織もやってること」
そう語るのは、麻薬密売グループの幹部として活動するA氏。その口から語られる商いの実態は、なかなかに苛烈だ。
A氏によると、手押しグループの運営にあたっては明確な役割分担があるという。「東京ウーバー」のように実質的な指示役まで逮捕が及ばないよう、細かく階層分けしているというのだ。
「だいてい薬物を調達するのが暴力団員の役目で、売り役は堅気にやらせます。信用できる後輩だったり、長い付き合いの客で仕事がなくなったようなやつにやらせることが多いですね。逆に配達員は、顧客の中から暇そうなやつに声をかけてやらせるケースが多い。一番リスクが高いのは配達員なので、これは使い捨てみたいなもの。自分とは一切かかわらせないようにします。
1回の配達で数千円渡して、あとはネタをちょっと安く売ってあげて、みたいな関係。手押しを狙った強盗も〝あるある〟なので用心はさせますが、警察に捕まろうが強盗にあおうが、それは仕方ないよねってかんじですね」(A氏)
配達員よりもA氏が重視するのは、集客係だ。売り上げを左右する重要な役目らしく、この人選には気を遣うという。
「最近はすぐアカウントをバンされるのでXが使いにくくなってきていますが、XをはじめとするSNSや掲示板から引っ張ってきた客は、テレグラムやシグナルのグループで管理します。チャンネルという名のコミュニティを作るんですね。
ここでの見せ方がとても大切。ガラスパイプで炙っている動画や、注射で打ち込んでる動画を投稿して、客を沸かせるんです。『逆血』といって、注射器内を血がビュッと出る様子は定番中の定番で、何パターンも撮りだめしておきます。要は薬物をやりたくさせる、生々しい動画を毎日投稿しまくるんですね。
その際、見栄えや安心感を演出するために、女性を使います。ギャルっぽい女のコが首から覚せい剤を打ち込む動画を載せたときは、客付きがめちゃくちゃ良かった(笑)」(A氏)
テレグラムで集客をしている違法薬物宅配サービス
A氏によれば、集客が上手な女性売人が手押し界隈には何人もいて、それぞれのコミュニティで人気を博しているのだという。
「シャブや大麻に『ロマネ』みたいな高そうな名前をつけて販売するのも、よくあるマーケティングです。アメリカの密売をテーマにしたドラマ『ブレイキングバッド』が流行った際には、作中に出てくるブルーメスと同じになるよう、覚醒剤を青く染めたりもした。これも売れました」(A氏)
「東京ウーバー」のような密売組織は、果たしてどれほど儲かるのか。A氏に聞くと、「自分クラスの中間管理職でも月200万円はくだらない」と答えた。
「密売の世界はピラミッド式で、属しているレイヤーによって収入はまったく異なります。配達員を2,3人抱えている自分みたいな立ち位置でも最低3桁、だいたい200万は行く。一方で末端になるとその日のネタ代と漫画喫茶代が浮くくらいだから、たいしたお金にはなりません。やつらは金のためってよりはネタのために働きますから。一方で集客できるやつは大事にしたいので、密売の現場に一切タッチせずともSNSとチャンネルの運用だけで100万、200万稼ぐやつは結構います。
例えばシャブでいうと、業界では100グラムを『一束(いっそく)』と呼ぶのですが、この時点での仕入れはグラム7000~8000円ほど。それを10グラム単位で現場に卸すんだけど、相場はグラムあたり1.2~1.5万円に高騰。こうして仕入れた薬物を、現場はSNSを使って捌(さば)いていくわけで、末端での値段は今なら慣らして3万円くらい。注射器やガラスパイプもリクエストがあれば売るし、勃起薬も扱うけど、それは本線ではないです。あくまで我々はネタを売ってなんぼ」(A氏)
取材の最後、A氏は煙草に火をつけながらこう吐き捨てた。
「東京ウーバーが捕まったって、すぐまた別のチャンネルが立ち上がります。客はいくらでもいるし、配達員も湧いてくる。シャブがこの世から消えない限り、このショーバイは終わらないですよ」
SNSに巣食う密売シンジケートは、今日も眠らない。