海から山へ:SADO ISLAND GOLD TRAILが目指すもの【松田丈志の手ぶらでは帰さない! ~日本スポーツ<健康経営>論~ 第27回】

文/松田丈志 写真提供/Cloud9

【佐渡と歩んだ10年】

新潟県佐渡市は、スポーツツーリズムを通じて地域を盛り上げる事業と、それにかける思いにおいて、日本の自治体の中でもトップクラスだと私は感じています。私はこれまで20回近く佐渡を訪れてきました。その多くは、島で開催される4つのスポーツイベント、「佐渡トキマラソン」「佐渡ロングライド210」「佐渡オープンウォータースイミング」「佐渡国際トライアスロン大会」にゲストとして招かれたものです。

2024年には、これら4大会のロング種目を1年間ですべて完走した人にのみ与えられる「オンヨネカップ」の称号をいただきました。スイム、バイク、ランと異なる競技で島を駆け、海を泳いだ経験を通して、佐渡の自然と文化、そしてアスリートを温かく迎え入れる島の文化が、私の中に深く刻みこまれました。こうした長年の関わりと、オンヨネカップの達成が評価され、2025年6月に「佐渡スポーツ振興大使」に任命していただきました。

佐渡市の渡辺市長より「佐渡スポーツ振興大使」の委嘱状をいただきました佐渡市の渡辺市長より「佐渡スポーツ振興大使」の委嘱状をいただきました
その大使として発案し、立ち上げに携わった第5の大会が、2026年10月17日に開催を予定している、『佐渡アイランド・ゴールドトレイル SADO ISLAND GOLD TRAIL(https://www.scsf.jp/sadotrail/)』です。

【地方自治体が抱える課題と、スポーツの役割】

この大会を提案した背景には、大使として向き合わなくてはいけない地方の現実がありました。

佐渡の人口は、かつて10万人を超えていましたが、現在は5万人を切るまで減少。将来的には3万人程度になるとも予測されており、少子高齢化は深刻な課題です。佐渡市は「健康寿命日本一」を目標に掲げていますが、島は車社会で、日常的に歩く機会が少ない。定期的な運動習慣がある住民の割合も、県や全国平均を下回っているのが現状です。目標と現実の間にあるこのギャップをどう埋めるか、住民の健康づくりは、島にとって切実なテーマなのです。

スポーツツーリズムは、単に地方でイベントを開くことだけが目的ではありません。「島外」から人を呼び込み、島に賑わいを生み出すこと。そしてスポーツイベントを通じて住民の健康意識を高めること。この両輪を回すことこそが、地方創生におけるスポーツの本質的な役割です。そして、トレイルランニングは今や国内で30万人以上が楽しむ成長市場であり、佐渡に人を呼び込める可能性を感じる競技でもあります。
今大会のプロデューサーを務めていただく日本トレイルランニング界のパイオニア・鏑木毅さん。これから一緒に佐渡を盛り上げていきます!今大会のプロデューサーを務めていただく日本トレイルランニング界のパイオニア・鏑木毅さん。これから一緒に佐渡を盛り上げていきます!

【世界遺産の山を走る】

ではなぜ、トレイルランニングなのか。これまでの佐渡4大スポーツイベントはいずれも海岸エリアでの開催が中心でした。豊かな山地を持ちながら、その魅力を活かす大会がまだ存在していなかった、そこに可能性を感じたのです。

そしてもう一つの理由は、2024年にユネスコ世界遺産に登録された「佐渡島の金山」を擁する大佐渡山地にあります。実際に金山を直接走るわけではありませんが、400年以上にわたって金を掘り続けた人々が仰ぎ見た山塊を歴史を感じながら駆け抜ける、そのことがこのコースに特別な奥行きを与えてくれると思っています。

大会プロデューサーを務めるのは、日本トレラン界の第一人者・鏑木毅(かぶらき・つよし)さんです。世界中の山々を走ってきた鏑木さんが今大会のコースを試走し、その景色に驚いたと話してくれました。約15kmにわたるなだらかな稜線、そこから左右に広がる山と海の眺望、そして標高1,000m前後で現れる森林限界の草原。大佐渡山地は、日本海からの強い季節風の影響で樹木が育たず、本土の2,000m級に相当する高山環境が目の前に広がります。「北米のロッキー山脈を彷彿とさせる」と鏑木さんが言うその景色は、離島ならではのものです。

大会コースを試走する鏑木さん。私もこの雄大な景色の中を走るのが今から楽しみです大会コースを試走する鏑木さん。私もこの雄大な景色の中を走るのが今から楽しみです
佐渡最高峰の金北山(標高1,172m)、そこから両津へと下る50kmのコース。私自身、これまで何度も佐渡を訪れながら、実は山に足を踏み入れたことは一度もありませんでした。熊など大型野生動物がいない佐渡の山で、自然と自分自身の走りに向き合いながら、その景色を自分の目で見るのが今から楽しみでなりません。

スタートとゴールは両津港に隣接する「あいぽーと佐渡」。海抜0mから山へと駆け上がり、再び海へ戻ってくる。大会は50kmと30kmの2種目。初回となる今大会の定員は500名ですが、佐渡の山の魅力を多くの人に届けるべく、将来的には規模を拡大していきたいと考えています。そのためにも、まずはこの第1回を必ず成功させたいですね

【90kgからの再始動と後夜祭】

私自身も50kmの部に挑戦しますが、現在の体重は90kg近く。このままでは体への負担が大きいので、以前鏑木さんに教えてもらった階段や坂道でのトレーニングを重ね、7~8kgの減量と体作りをして、万全の準備でスタートラインに立つつもりです。

そして完走後の楽しみが「後夜祭」です。以前、佐渡トキマラソン前日に日本酒を飲みすぎて目標タイムに5分届かなかった苦い経験があります。その教訓から、完走後に心置きなく佐渡の食とお酒を楽しめる場を公式に設ける予定です。厳しい山を走り抜いた仲間たちや地元の人々と、島の恵みを分かち合う。それこそがこの大会の最高の締めくくりになるはずです。

いつかこの大会が、海外からランナーが集まるグローバルな舞台になること、それも私たちが描く夢の一つです。その一つひとつの積み重ねが、佐渡の未来を明るいものにする確かな一歩になると信じています。

10月17日、佐渡島で皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。

★不定期連載『松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~』記事一覧★

  • 松田丈志

    松田丈志

    Takeshi MATSUDA

    宮崎県延岡市出身。1984年6月23日生まれ。4歳で水泳を始め、久世由美子コーチ指導のもと実力を伸ばし、長きにわたり競泳日本代表として活躍。数多くの世界大会でメダルを獲得した。五輪には2004年アテネ大会より4大会連続出場し、4つのメダルを獲得。12年ロンドン大会では競泳日本代表チームのキャプテンを務め、出場した400mメドレーリレー後の「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」の言葉がその年の新語・流行語大賞のトップテンにもノミネートされた。32歳で出場した16年リオデジャネイロ大会では、日本競泳界最年長でのオリンピック出場・メダル獲得の記録をつくった。同年の国体を最後に28年の競技生活を引退。現在はスポーツの普及・発展に向けた活動を中心に、スポーツジャーナリストとしても活躍中。主な役職に日本水泳連盟アスリート委員、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)アスリート委員、元JOC理事・アスリート委員長、日本サーフィン連盟理事など

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